「1日36時間生活」でE判定から「東大理二類」に合格…プロ注目の「ミスターサブマリン2世」が明かす「考えが180度変わった」父からの助言

 今年で100周年を迎えた東京六大学野球は、リーグ優勝決定戦の末に早稲田大学が3連覇を成し遂げて幕を下ろしたが、熱戦の繰り広げられた春のリーグ戦で東京大学のエースを任されたのが、多彩な変化球を操る渡辺向輝投手(農学部、4年)だ。「ミスターサブマリン」と称された元千葉ロッテの俊介氏を父に持つ渡辺投手に、東京大学理科二類の合格を掴んだ高校時代の勉強法や、今後の目標について伺った。(全2回のうち第2回) 【写真で確認】東大エース・渡辺向輝投手のアンダースローと、父親の元祖ミスターサブマリン・俊介氏(48)の投球フォームを比べてみた 難関進学校から東大を目指した本当の理由  偏差値74(首都圏模試)の海城中学・高校から、東京大学理科二類に現役で合格した渡辺投手は、3年生の進学振り分けで農学部を選択。投手として活躍を続けながらも食料経済学のゼミに入り、論文の制作に励んでいる。6月21日から23日まで行われた大学日本代表合宿のメンバーにも選出され、文武両道の活躍を続けているが、その輝かしい経歴とは対照的に、これまでの道のりは苦難の連続だった。 渡辺向輝投手  厳しい中学受験の反動もあって、海城中学入学後は成績が伸び悩んだ。定期テストでは 「下から数えた方が早い」結果に終わることも多く、あまりの惨状に普段はほとんど勉強に口出しをしなかった母親に釘を刺されたこともあったそう。  だが、そんな状況でも、小学校6年生の時に果たせなかったある思いが、東大への気持ちを後押しした。 一番上を目指したかった 「中学受験をした時は、当初は開成中学を目指していましたが、1月の入試で思うような結果を残せなくて、合格の可能性が高かった海城中学を受けることにしたんです。目標としていたはずの試験に挑戦することすらも叶わなかった当時の悔しさが、僕の心にずっと引っかかっていて、大学受験では『一番上に到達してみたいな』という思いで、浪人も辞さぬ覚悟で東大を目指すことに決めました」  高校1年の時に目標を定めた渡辺投手は、野球の練習に取り組みながらも、予備校のオンライン授業に出席したり、毎日の通学時間に英単語帳を眺めたりしながら、受験に向けた準備を進めていったが……。「野球部の練習に追われ、全く勉強が追いついていない中で受けた」高校3年夏の東大模試はE判定(合格率20%以下)で、化学や物理に至っては、ほとんど点数が取れず。絶望の淵に立たされた。 E判定から半年で東大に合格する勉強法  高校3年生(2021年)の春には、野球でも大きな変化があった。夏の大会を控えて練習を重ねる中、監督のアドバイスもあって、それまで慣れ親しんだオーバースローからアンダースローに転向することに。大会直前に急遽変更したフォームで、予選の先発のマウンドにあがったが、初戦で呆気なく敗れて、最後の夏は幕を下ろした。  部活に一区切りをつけた渡辺投手は、すぐに気持ちを切り替えて「日本で一番勉強している高校3年生」として、濃密な半年間の日々を過ごすことになる。 「他の同級生よりかなり勉強で後れをとっていたので、まずはどうすれば追いつけるのかを考えた」という渡辺投手は独自の時間割を作成し、猛勉強を進めていった。 「残された時間を効率よく使うために、夏休みは1日を36時間として考えることとし、毎日の終わりに8時間の睡眠を摂るように心がけました」  上記のような3日間を2日間として使うスケジュールで生活を続けると、1日あたり26時間活動することになり、3日ごとに8時間、9日で24時間を取り戻すことが可能だ。 試験の前日は不安で眠れなかった 「浪人するのは嫌だったので、強い気持ちと気合いで乗り切りました」  当時をそのように振り返る渡辺投手は、夏休みに突入した7月下旬から家に引きこもり、これまでに学んだ公式の確認をしつつ、予備校のオンライン講座を受講し、過去問の分析を繰り返しながら過ごした。そして「基本は完璧にマスターできている自信がつけられた」という2学期以降は、過去の入試問題や模擬試験の演習を続け、試験当日まで力を伸ばした。 「本番は不安やトラブルが起きる可能性もあり、おそらくベストコンディションでは臨めないだろうと思っていた」と話す渡辺投手は、予期せぬ事態を見越し、本番よりも短い時間で問題を解くように心がけた。その甲斐もあって「前日に緊張と不安でほとんど寝られなくて、栄養ドリンクを飲んでから試験会場に向かった」という共通テストでも高得点をマーク。早稲田大学政経学部の合格を手にするほどの出来栄えに、「本番を見据えた予行演習が役に立った」と胸を撫で下ろしたという。 苦手の文系科目は語呂合わせで攻略  渡辺投手が受験した東京大学理科二類は、共通テストで国語と社会を含む5教科7科目と、本試験の国語を含む4教科5科目の得点を合わせた550点満点で合否が決められる。 (※共通テストの900点は110点満点に換算される。なお記載は当時のもので、現在は受験科目数が異なります)  そのため理系学部といえども、限られた時間の中で文系科目の勉強に励み、試験で一定以上の得点が求められる。 「現代文は比較的得意でしたが、古文や漢文、暗記の多い倫理・政治経済はとりわけ苦手にしていて。名称や人名の語呂合わせを作って必死に覚えたり、夏休みに行われていた東京五輪の模様を伝える英語のニュースを聞いたりしてリスニング対策をしながら、準備を進めていきました」  共通テストでは、少ない時間で努力を積み重ねた甲斐もあって、「倫理・政治経済」で94点を獲得。「予想外の奇跡的な出来栄え」に歓喜し、本試験に向けて弾みをつけた。 父は周囲に僕の東大合格を自慢していました  やがて本試験を終えた渡辺投手は、運命の合格発表の日を迎えた。やや緊張しながらホームページにアクセスすると、手元にある受験票と同じ番号が……。歓喜の瞬間の訪れとともに、渡辺投手は胸を撫で下ろすような安心感と、目標を達成できた喜びを味わうことになった。 「僕の横で結果発表を見ていた母は、僕の受験番号を見つけると、すごく喜んでくれて。そわそわと落ち着かない様子で歩き回りながら、祖母に電話をかけて合格を伝えていました。発表の時間に家を留守にしていた父は、顔を合わせた時に『よかったね』と言ってくれて。僕に対しては比較的あっさりした対応でしたが、周囲の知人に僕の合格を言いふらし、いろいろな人に自慢していたことを後になって知りました(苦笑)」 野球も勉強もできる人がたくさんいることを知った  晴れて東京大学理科二類に入学を果たした渡辺投手は、一時は「野球を続けるかどうか迷っていた」というが、少し遅めの4月半ばに歴史ある野球部の門を叩き、競技を続ける決断を下す。 「実際に入部してみると、僕が思い描いたよりも野球部のレベルは格段に高く、勉強も野球もできる人が世の中にたくさんいることを知り、とにかく驚かされました」  そのように話す渡辺投手は、大学入学後には本格的にアンダースロー転向を決断。「父と同じフォームなので、色々なことを言われるだろうと思っていた」という本人の予想通り、“元プロ野球選手の2世”として周囲の視線を感じる場面も少なくなかったそうだが、そのプレッシャーをものともせずに、己の実力を高めていった。 「最初は正直に言って、『高校まで勉強しかしてこなかったような選手が、“野球エリート”に勝てるんだろうか?』と後ろ向きになることもありました。でも、チームメイトと全力で練習に取り組んでいるうちに徐々にみんなのやる気に刺激を受けて、勝利に対する強い気持ちが芽生えてきたんです。確かに持ち併せた野球のセンスは他大の選手に及びませんが、僕も彼らと同じように野球が好きで、大学までずっと頑張ってきた。今は『野球への思いを全力でぶつけて勝ちにいこう』という思いが、試合に臨む原動力になっています」 父・俊介氏のアドバイスで「180度考えが変わった」  アンダースローに転向した当初は「遅めの反抗期」の真っ只中だったこともあり、独学で練習を続けていた渡辺投手が父のアドバイスを請うたのは、春のリーグ戦でデビューを飾った2年生の夏のことだった。父から身体の使い方などの「自分の考えが180度変わるような助言」を受け入れ、球速130キロ台ながらも、打者がギリギリまで球種を判断できないようにする現在の投球スタイルに辿り着いた。  さらには、立教大でプレーしていた颯投手(現、横浜DeNA)の配球を参考にしながら、投球術にも磨きをかけ、3年の秋には初勝利をマーク。今年春のリーグ戦で見せた安定した投球が認められて、21日から行われる大学日本代表の合宿招集も決まった。 「僕は勉強が得意だったおかげで、東京六大学でプレーさせてもらえているので、これまでプロを目指してきた選手たちの努力に自分が追いつけているのか。日々葛藤しながら野球に取り組んでいます」と揺れ動く思いを口にするが、その右腕に期待を寄せる者は多く、今秋のドラフト指名候補にも挙げられている。 「本気でプロを目指している人たちの覚悟を近くで見ているので、これまで勉強中心でやってきた自分が、果たしてどのくらい追いつけているのか不安もありますが、今の立場をもらえたことに感謝しながら、全力で取り組んでいきたいです」  堅忍不抜の精神で道を切り拓いてきた右腕の挑戦を楽しみに見守りたい。 第1回【「ミスターサブマリン」を父に持つ東大野球部エース…渡辺向輝投手が「偏差値74」難関中学で“落ちこぼれて”しまった理由】では、中学受験を突破し、難関中高一貫校に入学した渡辺投手が、どのような学校生活を過ごし、成績不振に陥ってしまったのか、などについて語っている。 ライター・白鳥純一 デイリー新潮編集部

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