暑さが本格化し、大阪・関西万博の会場(大阪市此花区)でも熱中症の危険度が高まっている。 日本国際博覧会協会(万博協会)や各パビリオンは、テントやパラソルの設置などの対策を進めている。(飯田拓、下林瑛典) 27日までに熱中症搬送10人 28日正午頃、人気の米国館前には1時間半〜2時間待ちの長い行列ができていた。太陽が照りつける中、暑さを和らげる風が時折吹いていたが、行列に並ぶ人の多くがぐったりした様子で、日傘や手持ちの扇風機でしのいでいた。 記者が少し離れた木陰で、持参した温度計を見ると34度を示していた。万博協会が公式サイトで発表する「暑さ指数」は5段階の上から2番目だった。 米国館は来場者やスタッフの熱中症を防ごうと、12日から15張りのテントを自前で設置した。日陰に入れた行列客はほっとした表情で一休みしていたが、入場までにテントのない区間もあり、日差しにさらされる時間も長かった。 万博に来るのは5回目という男性(77)(大阪市西区)は「今までで一番暑い。風がなかったらと思うとゾッとする」。友人と訪れた会社員女性(25)(東京都板橋区)は日傘やサングラスを持参し「想像以上の暑さ。対策しなければ熱中症で倒れていたかも」と話した。 万博協会によると、14〜27日に熱中症(疑い含む)で搬送されたのは10人に上る。 西日本各地は27日に梅雨明けしたとみられる。近畿は平年より22日早いという。気象情報会社「ウェザーニューズ」によると、今年の夏は全国的に平均気温が高くなる見込み。7月末から8月前半にピークを迎え、大阪市では7〜9月の3か月間に30度以上の真夏日が55回、35度以上の猛暑日が21回に達すると予想している。 「非日常」は体調変化に気づきにくい 万博会場では、暑さ対策が強化されている。 万博協会はパラソルを300基以上用意したほか、東ゲートで入場を待つ人に日傘800本の無料貸し出しも始めた。給水スポットを約80か所、移動式エアコンやミスト付き扇風機も各所に設置し、医師や看護師が常駐する救護施設は8か所開設した。来場者には日傘の持参を呼びかけている。 オランダ館は、隣接する大屋根リングの下に入場待ちの列を移し、入り口近くにパラソルを並べて日陰を確保した。ヤンポール・クルーセ館長は「自国では経験したことのない蒸し暑さ。これ以上暑くならないことを祈っているが、一つ一つ対策を重ねていくしかない」と強調する。 イタリア館やシンガポール館もリング下に来場者を誘導している。近くに日陰のない国際赤十字・赤新月運動館は「並んでいる間に気分が悪くなる人もいる」としてテントと冷風機を設置。北欧館は見学を終えた来館者に水を配っている。 多くの来場者は風が吹き抜ける大屋根リングの下でクールダウンし、大阪メトロが会場内で走らせるバスの利用で暑さを避けていた。 熱中症対策に詳しい武蔵野大の三坂育正教授(建築・都市環境工学)は「万博のような『非日常』の中にいると展示やイベントに夢中で、暑さや体調の変化に気付きにくい。来場者はこまめに日陰で休み、運営側も会場内の涼しい場所を調べ、分かりやすく情報発信するとよいのでは」と指摘した。 服は白や黄色、「アイススラリー」飲用…自分でできる予防法 屋外に長時間滞在することになる万博会場では、来場者が自分で身を守る工夫も必要だ。大阪府医師会の栗山隆信理事(内科)に対策を聞いた。 ◇ まずは来場の2週間〜数日前から、散歩や入浴で暑さに慣れることが大切だ。日焼けすると体の熱が下がりにくくなるため、長袖・長ズボンで通気性がよく、白や黄など熱がこもりにくい色の服を選ぶとよい。日陰では腕まくりをしてほしい。 近年注目されているシャーベット状の飲料「アイススラリー」を事前に飲んでおくのもおすすめする。普通の飲料より体を芯から冷やす効果が高く、あらかじめ深部の体温を下げることで熱中症予防になる。一部のコンビニやドラッグストアで購入できる。 雨の日でも注意は必要となる。湿度が高くて汗が蒸発せず、レインコートを着ていると熱をため込みやすい。 立ちくらみなど「普段と何か違う」と感じたら、熱中症を疑ってほしい。症状が軽い場合、日陰で水分と塩分を取り、衣服を緩めて体の熱を冷ます。手のひらを冷やすだけでも効果がある。 強い頭痛や吐き気、会話が成立しないなどの症状が出ると危険で、近くのスタッフに声をかけて救護施設へ案内してもらう必要がある。