福島県本宮市出身で、第４８回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞したアニメ映画「ルックバック」で注目される押山清高監督（４３）が福島県の依頼で新作短編を制作した。 　東日本大震災時、東京にいて地元の大切な人たちのために「何もできなかった」というもやもやを制作にぶつけたという。作品に込めた思いや今後の展望を聞いた。（中村樹嶺） 　新作短編は、福島の魅力を発信する県のイラスト地図「ふくしままっぷ」の特別企画として作り、３月に公開された。タイトルは「赤のキヲク」。上京してグラフィックデザインの仕事をする女性が、会津地方の伝統工芸品・赤べこがかける魔法をきっかけに、自身の原点や大切なものを見つめ直す物語だ。 　漫画にうちこむ２人の少女の青春を描いた「ルックバック」では自身で作画し、少人数体制で制作にあたった。今回の作画では、１人で担当し、約２か月で完成させた。 　大地震の被災地の再建を赤い牛が手伝ったという会津に伝わる「赤べこ伝説」に魅力を感じ、赤べこを作品の鍵にした。神社の鳥居や伝統工芸品などに使われる赤色を「誰の原風景にも溶け込んでいるもの」と考え、象徴的に使った。県の企画だが、作品を通して県外の人にも「それぞれの原体験を思い出してほしい」と語る。 ◇ 　本宮市で生まれ育ち、物心がついた頃から絵を描いていた。２０歳頃に絵の仕事を目指して上京。アニメーターとして順調にキャリアを築く中で、２０１１年に東日本大震災と福島第一原発事故が発生した。 　都内で日常を過ごす自分と、電話で聞く被災した実家の厳しい生活はかけ離れていた。「離れて生活していると、手助けが必要でも届かないんだ」と無力感を覚えた。福島でつくられた電力を使って東京で仕事や生活をしている状況は、「福島を犠牲にして自分たちが成り立っているという感覚に結びついた」。 　自身の境遇と重なる主人公を登場させるなど、長年感じてきたもやもやを作品に込めて表現しようと決めた。「１分半程度で」と依頼された動画の長さは約３分半まで伸びた。 　海から登場する黒い怪獣といった震災を想起させるシーンもあり、エネルギーの恩恵を受ける現代の生活も描いたが、解釈は「視聴者に委ねたい」と語る。 ◇ 　今後はアニメ制作をいったん休止し、漫画を描こうと考えている。ＡＩ（人工知能）などの技術革新が進む中、「０から１の原作（ストーリー）を生み出す力がより重要になってきている」と語る。 　しかし、アニメーションを捨てるわけではない。「新しいことに挑戦していきたい。その中でアニメも原体験も自分の中に残り続けてくれる」。進化しながら、描き続ける。 　「赤のキヲク」は特設サイトで見られる。 　おしやま・きよたか　１９８２年生まれ。アニメーション監督。スタジオドリアン社長。宮粼駿監督の「風立ちぬ」などに主要スタッフとして携わる。２０２４年６月公開の「ルックバック」では監督、脚本、キャラクターデザインなどを務めた。