国家の研究力を強化し、人材のキャリア開発を支援するため、「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」という制度がある。 これは2021年に始まった文部科学省と科学技術振興機構(JST)による助成制度で、博士課程の大学院生に生活費相当の奨励費や研究費など、年間最大290万円が支給される。返済義務はない。 しかし、このSPRINGの受給者の約3割が中国人留学生であることが明らかとなり、議論を呼んでいる。 すべての学生に公平な条件で助成される制度 博士課程では授業料に加えて生活費も自己負担となり、国公立大学院でも年間でおよそ300万円かかることもある。SPRINGは、そうした経済的負担を軽減する制度だ。 ところが、2025年3月24日の参議院外交防衛委員会で自民党の有村治子議員が指摘したように、この制度の多くが海外の学生に使われていることが明らかになった。 有村議員の指摘により文科省は、2024年度の総受給者は1万564人。うち外国籍者は4125人(約39%)で、そのうち中国人は2904人(約27.5%)。日本人は6439人(約60%)にとどまったことを明らかにした。 SPRINGは国籍を問わず、すべての学生に公平な条件で助成される制度だ。 それでも有村議員は、日本人よりも中国人の割合が高いのは税金の使い方として問題があるとし、「日本の学生を支援する原則を明確に打ち出すべき」として見直しを求めた。 これを受け、文科省はSPRINGの制度見直しを検討中で、優秀な日本人博士課程学生に対する支援の充実、より多様な国・地域の優秀な留学生の 受け入れと、支援のありかたについて2025年夏までに具体案を示す方針だという。 不公平な社会から脱出する—中国人留学生の増加背景 2024年5月1日時点で日本にいる外国人留学生は33万6708人。前年より約5万7400人(+20.6%)増えた(日本学生支援機構調べ)。 この背景には、世界的な物価上昇がある。文部科学省は「欧米に比べて日本は安く済むため、円安もあり留学先として選ばれているのでは」としている。 このうち中国人留学生は12万3485人で、全体の約37%を占める。 中国の全国統一大学入試「高考(ガオカオ)」では、進学定員約450万人に対し約1300万人が受験する。地元の大学に枠が多く、都市部の学生が有利とされており、こうした制度への不満も多い。 さらに、中国では戸籍制度により「農業(農村)」と「非農業(都市)」に分けられ、移動にも厳しい条件がある。都市部で就職するには高学歴が求められる一方、農村出身者にとってはその取得が難しい。 こうした状況から、海外を選ぶ学生が増えており、日本は物価が安く、安全で試験制度も公正とされ、選ばれやすい国のひとつになっている。 博士課程まで進んでも働けない—日本の教育事情 中国人留学生が増える一方、日本人の博士課程進学者は減少している。修士修了者の博士進学率は、1981年の約18.7%から2020年には9.4%にまで下がった。 文科省は研究力の低下を懸念し、特に科学技術分野での人材育成が必要としているが、改善は進んでいない。 その要因には経済的負担に加え、日本社会特有の課題もある。 博士号を取得しても、大学教員や研究職の枠は限られている。さらに、年功序列が根強く残る日本企業では、年齢が高くなるほど就職が難しくなる。 文科省の「平成30年度学校基本調査」によると、博士課程の就職率は67.7%で、学部卒の86.6%よりも20ポイント近く低い。 このような状況では、「大学院に進んでも意味がない」と考えるのも無理はない。 研究力は国際競争に欠かせない。SPRINGに限らず、より広い視点からの制度改革が求められる。