元女優・千葉美裸さんの告発 性加害疑惑が報じられている映画監督の園子温氏に、筆者は5月29日、都内で2時間半にわたるロングインタビューを行った。 前半にひきつづき、インタビュー後半では、元女優の千葉美裸さん（故人）の告発について、園氏の主張を詳しく聞いた。 千葉さんは、2022年4月の「週刊女性」記事で「女優C」として、園氏からの「性被害」を証言。その後、Cは自分のことであるとして、顔と名前を出して告発を続けたが、2022年12月に自殺した。千葉さんが行った告発の要旨は、以下の通りだ。当時の「週刊女性」の記事、そして千葉さんのYouTube発言、裁判記録等をもとに、園氏の主張と照合するため、詳しく紹介する。 《10年ほど前、アクション俳優・坂口拓氏の自宅での飲み会に参加。千葉さんが帰ろうとした際、坂口氏の後輩俳優に引き止められ、口論になった。 後日、坂口氏から「うちの舎弟が悪いことをした。謝りたいからランチしよう」と連絡があり、会ってランチをした。その帰りに坂口氏からの誘いで、ついて行った先が園氏のマンションだった。 3人でビールを飲んでいると、途中で坂口氏が部屋を出て行き、戻らない。千葉さんは園氏と部屋で2人きりにされ、園氏からキスをされたり、抱きつかれたりした。 千葉さんは拒否し、押し問答になったが、今度は「ハットのコレクションを見せる」という名目で寝室に連れていかれ、強引にベッドに押し倒された。キスをされたり、舐められたり、服に手を入れられたりしたが、必死に抵抗した。 床に転げ落ち、園氏は陰部を見せつけてきたが、その隙に何とか逃げて帰ることができた。 その後も、園氏からは一方的に「（千葉さんの）曲を映画で使いたい」「舐めたい」などのLINEが届いた。千葉さんはもともと園氏の作品は好きではなく、園氏に会いたいと言ったことはない》 これら千葉さんの証言のほとんどを、園氏は取材で否定した。一体どういうことなのか。（連載第7回からつづく） 園氏は千葉さんに「性的に迫った」のか？ ──先日の東京地裁判決で、園さんが千葉美裸さんに「性的に迫ったこと（略）は真実であると考えられる」と判断されています。 まず言いますよ。千葉さんは、坂口拓と一緒に、うちに来ました。坂口から、「この子が会いたいって言うから連れてきた」と言われて、うちに来たわけですよ。そして飲んで帰りました。その日はその2人だけじゃなく、僕の奥さん（女優の神楽坂恵氏・当時は結婚前）と友人も家にいたんです。そして千葉さんと坂口が一緒に帰るのを、3人で見届けた。そのことは、友人が念書を書いてくれました。 それ以来、僕は千葉さんをうちに呼んだこともないし、来たこともない。その後に一度、駅の改札で、「映画の音楽に使ってください」と彼女のCDを手渡されたことがあっただけです。 それだけなんです。何もやってないのに、なぜずっと「やった」と言われ続けなきゃいけないのか。なぜこんなに話が広がったのか。それがものすごく苦しいわけです。1回でも性的なことをしてたら、それは俺も本当に悔やむと思う。さっきあなたから言われたように「俺は恋愛だと思ってたけど違ったのかな」って認めて反省しますよ。でも、何もないんだから。過去を突かれてヤバいとか、そんな気持ちすらない。 「２人きりになってないんだから」 ──迫ろうとしたこともないんですか？ ないですよ。その一晩飲んだだけで、どこで迫るシチュエーションが生まれるの？ ──2人きりになった瞬間とか。 2人きりになってないんだから。坂口と一緒にうちに遊びに来て、別の日に駅の改札でCDを手渡された。本当にそれだけの関係性でしかない。手すら触ったことないと思う。まあCDを渡される時に一瞬手が触れたくらいあったかもしれないけど……それ以外、ありとあらゆる身体的接触がない。だからもう、とばっちりにも程があるっていう思いしかないの。なんで「無」から、こんな大ごとになっちゃうのかなと。 ──千葉さんと会ったのは、その2回だけですか？ 会ったのはそれだけで、あとは電話とLINEです。（週刊女性の記事が出る前の2022年3月に）僕はドラマの撮影で豊橋にいたの。そしたら、夜中の3時頃に千葉さんから電話があって。いきなり「映画界の性暴力をなくす会みたいなものを立ち上げたんだけどどう思う？参加しないの？そういう加害者ってどう思う？」と尋ねられた。 えらい久しぶりの電話で、明日も撮影があるのに真夜中に、なんか怖いなと思って、「勘弁してよ」と電話を切っちゃったんです。でも、また連絡が来たから、ちょっと悪かったかなと思って、そういう奴は捕まえればいいという意味で「捕まえたら」ってLINEを返した。そしたら、そこだけ切り抜かれて「園が挑発してきた」「園は自分が犯罪的行為をしてると認識してるんだ」っていうふうにされたじゃないですか。 ──X（旧Twitter）でLINEのスクリーンショットが晒されていましたね。 そういうのを思い出すたびに、ひどいとしか言いようがない。「俺のこと捕まえれば」なんて、そんなバカな話はないから。 LINEのことで言えば、その後（週刊女性の記事が出る前日の2022年4月3日）千葉さんから「どこに居る？会いに行く」「園さんの支えになりたい」「拓さんも心配してた」とLINEが来た。 ──そのLINEを送ったのは、千葉さんは「園子温氏の居所を探るための、週刊女性の記者の指示」だったと言ってましたよね。記者がそんな「指示」をするのかなとは思いましたが。 あの時は、豊橋で大々的に撮影してて、駅前でも撮影してたんです。「今どこで撮影してるの？」とか「どこに泊まってるの？」って聞かれたら、俺、言えたはずだから。未だに何がしたかったのか分からないけど、あんなLINE、しなくていい。それこそ不気味になっちゃう。なんで突然十数年ぶりの連絡で、支えになりたがってんだって。 ──でも、性加害してないという証拠はあるのでしょうか？ 当日一緒にいた証人が、千葉と坂口が2人で帰るところを見たって言ってるじゃないですか。それが証拠ですよ。それ以外の証拠って要りますか？　1回しか来たことないんですから。俺も坂口も嘘ついて、友人もうちの妻も、みんなで嘘をついてるっていう可能性まで言い出したらきりがない。女性1人が言った「被害」の叫びっていうのは、証人複数人より上だ！ってなったら、世の中もう終わりでしょう。 「全部嘘」の真意とは ──ただ、YouTubeで、故人である千葉美裸さんのことをあれこれ暴露するのは良くない。それは二次加害、あるいは誹謗中傷にはなりませんか？ セカンドレイプと言われても、ファーストがないんですよ。それに、僕は事実を言ったまでです。この3年間、千葉さんのことでどれだけ僕が誹謗中傷されてきたか。何かあったなら申し訳ないって気持ちにもなるけど、何もないのに、彼女を死に至らしめた男だと、それも全世界的に言われ続けたんです。だったら、死の原因はどこにあるのか？っていうことを言わないと、いつまでも俺のせいにされるでしょ。 ──実際、そう言われてますからね。園さんも、坂口拓さんも。YouTuberが「千葉美裸さんを自殺に追い込んだのはお前らだ」「お前らが殺したようなものだ」と、糾弾街宣までしていました。そこまで露骨ではなくても、SNSやネット記事で、園さんと坂口さんがずっと、千葉さんの自殺と結び付けられて語られてきたことは事実です。自殺の直前に、支援者で交際相手であるA氏とのトラブルがあったことは、2月に報じたんですけどね。 だから、言わざるを得ない。黙ってたら、ずっと僕が原因だって言われちゃうわけだから。それは理不尽すぎる。 ──でも、記者会見でも言ってましたが、千葉さんの話が「全部嘘」という言い方は良くない。坂口さんと千葉さんが園さんの家に行ったというのは、事実ですよね。 それは本当だよ。言いたいことは、要所要所に嘘が多いなっていう話です。全部嘘だと言いたくなる。だって手も触ってない、肩も抱いてない、喋っただけなのに。 ──触ろうともしてないですか、確認ですけど。 全然。笑っちゃうのはさ、週刊女性の記事に、「寝室に移動した」って書いてあるんだけど、寝室は玄関の横なのよ。わざわざ一番奥のリビングから、玄関近くの寝室に移動する？　それに寝室には僕の妻もいた。彼女は飲み会やってる時は、参加したくないからだいたい寝室にこもってるんです。 あと僕が千葉さんに「ハットコレクション」を見せるという名目で寝室に連れて行ったと書かれていたけど、そんなの僕の周りの人間、たぶん聞いたことないと思う。僕はたまに帽子をかぶるけど、それをハットなんて呼んでない。あれ、全部その辺で買った安物です。よくなくすから、高いのを買ったらもったいない。コレクションなんて、もってのほかです。2〜3個しかなくて、部屋にグチャッと転がってるだけなんだから。だから、彼女はいろいろ細かく言ってる割に、ボロが多いんです。 なぜ「陥れられた」のか ──先日の会見で、園さんは「陥れられた」と言ってましたよね。「なぜ彼らが私を陥れるに至ったかについて説明します」と。そこはどう考えますか？ 発端は、榊英雄だった。 ──現在公判中の映画監督の榊氏ですか。2022年2月から、榊氏に性被害を受けたとの告発が相次ぎ、映画業界の性加害問題が広く注目されるようになりました。その後、準強姦容疑で逮捕・起訴されています。榊氏と園さんの問題と、何か関係があるのでしょうか？ 2022年、榊の性加害報道が出た時期に、ある会社のワークショップに注目が集まりました。榊を講師に呼んでたということで。榊とは別に、僕もその会社からゲスト講師として招かれて、ワークショップをやったことがあった。その時に、園は酒を飲みながらワークショップやってたということで批判されたんです。それは事実です。1日だけちょっとお酒入れて、気持ちを奮い立たせたんですけど。 その後、3月27日に松崎が「俺の知り合いは、園と取り巻きのワークショップで身体を要求された」って、ドーンと打ち出したわけですよ。 その数日後、松崎は週刊女性と共謀して、園の被害情報の募集をかけたんです。何か園にやられた人いませんか？って。松本人志の件にしても、普通みんな、「被害」を受けたという告発者がいて、週刊誌に持ち込まれて記事になってるけど、あの週刊女性の記事は特殊で、松崎がXで募集をかけて、そこから週刊女性が記事を作った。だから他と違うんです。 そして4月2日、週刊女性がたしか印刷所に出す締切当日に、A氏と交際していた千葉さんにインタビューして、そのまま突っ込んでる。あの記事は、千葉さんがいなかったら、めちゃくちゃ弱い。「配給会社幹部」は架空の人で、「女優A・B」は一人しかいない、しかも「園さんはいい人でした」って話で終わってるから、腑抜けな記事にしかならない。 ──もしも園さんの言う通り、本当に「なかったこと」なら、じゃあ、千葉さんはなぜそんな「告発」をしたのか？という話になりますが…… 分からないけど……千葉さんは、交際相手のA氏の都合で言わざるを得なくなったんじゃないかと僕は思ってる。A氏は、もともと榊と何作も組んでたスタッフでしょ。榊の悪評は会ったことのない僕でも耳にしてたから、A氏が知らなかったとは信じがたい。だから矛先を変えるため、僕が犠牲者になったんじゃないか。そういうことだと思うよ、からくりは。 ──昨年12月にA氏に取材した際、A氏は「千葉さんはもともと、園子温の件を表に出すつもりはなかったけれど、週刊女性の記者から電話があった時、ちょうど千葉さんと食事をしていたので、『園子温の件、話してみないか』と尋ねた。自分との関係性を考えたかどうか分からないが、悩んだ後に『取材受けます』と彼女は言った」と語っていました。 あなたこそ、（2月の現代ビジネスの記事で）A氏って、なんで実名を書かなかったの？　名前を出さないから、都合の悪い記事は全く無視して、そんなの知らぬ顔でプラカード持って、性加害についてかっこよく語ってるじゃない。自分が千葉さんに「暴力」をふるったのに。 「もう死ぬしかないのか」 ──園さんの言いたいことは分かりました。 今まで、刑事の尋問で、冤罪なのに「やりました」って自白しちゃうのはどういう気持ちなんだろうって思ってたけど、僕も少しずつその気持ちが分かってきた。あまりにも千葉さんと何かあったんだって、繰り返しやられるとね。 僕が今、どういう状況かというと、毎晩死を考えて、明日死のうかなと思う日々なんです。これだけ言ってもまだ「証明できてない」と言われて、疑われたまま生きていくくらいなら、もう死ぬしかないのかと。いつでも死ねるように、いろいろ持ち歩いてるんです。もちろん人に危害を与えないような、睡眠薬とかね。そんな状況で、千葉さんのことを悪く言うのはどうか？なんて、そんな余裕ないです。 ──今日、もしかしてお酒飲んでますか？ 朝飲んだよ。憂うつだったからさ。何にしても、榊英雄にしろ、今性加害がニュースになってる芸能人にしろ、みんなセックス自体はしてるわけでしょ。俺はしてない。何もやってないのに、いつまで言われるのかな。こうして喋ってても、うつになってくる。 今日は、結構誠意を尽くしたつもりです。千葉さんについて、言えることはだいたい言い切った。 ──はい。長時間ありがとうございました。 はめられたわ……喋りすぎた。すぐに帰ればよかったな。そうすればあなたも記事にできなかったかもしれない。バカだな、俺。また悪に協力したのか。今まで、どの記者も俺を悪に仕立てたんだ。どうせまた「園はセクハラした！」とか、悪く書かれるんだ。もういいや。お疲れさまでした。帰ります。 インタビューを終えて 園氏を批判するつもりで臨んだ取材だったが、この日の話には、率直に言って驚いた。「監督と女優の恋愛」など、首肯しかねる点はあるが、特に千葉美裸さんの告発に対する彼の反論は、「加害者の詭弁」や「認知の歪み」として全てを切り捨てることもまた、できないのではないか。 自分が叩かれているさなかの取材で「モテたい、愛されたい」と記者に口走ってしまう軽率さも含め、園氏は少なくとも本音を語っているという印象は受けた。そして、園氏が言う通り、千葉さんが坂口氏と共に園氏のマンションを訪れた日、その場には園氏の妻と友人も居合わせており、千葉さんと坂口氏が2人で帰るところを見送ったという証言があるならば、千葉さんが語ったものとはだいぶ違う話になる。 ずっと引っかかっていたことだが、千葉さんが最初に行った告発は、園氏のことではなかった。 彼女が最初にブログに綴った「性被害」は、幼少期のものと、彼女をスカウトした制作会社社長によるものだった。 園氏に関する告発は、支援者・A氏との交際が始まる時期になされており、そもそも千葉さんを週刊女性の記者につないだのもA氏だ。筆者もそのことには注意が必要だと考えていたが、園氏に関する告発が「なかったこと」の可能性については、ほとんどまともに検討したことがなかった。 それでも、こうした主張をするのが園氏だけなら、耳を貸そうとは思えなかったかもしれない。しかし、千葉さんの話に事実と異なる部分があると主張するのは、実は、園氏だけではない。園氏や坂口氏を糾弾してきた側の「映像業界における性加害・性暴力をなくす会」の支援者・A氏も、そう主張するのだ。これは、どういうことなのか。 （7月1日公開の連載第9回に続く） 【記事をはじめから読む】園子温監督の「性加害」を告発した故・千葉美裸さんに、何があったのか？急逝2年後にわかったこと《集中連載 #1》