「ボケに回れない」からついつい「ケンイコスギ」になってしまう…みうらじゅんが説く「老い」を受け入れる心構え

みうらじゅんの新刊『アウト老のすすめ』(文藝春秋)がロングセラーを記録している。超高齢化社会に突入して久しく、「おじいさん」がかつてないほど忌み嫌われる今、私たちは「老い」とどう付き合えばいいのか。受け入れ難い老いをやわらかくとらえるヒントになる造語「老いるショック」「老けづくり」、そして「アウト老」。自身も67歳となったみうらじゅんが提唱する、老いの三部作について、前編〈「年寄りこそ可愛げがなきゃ」…67歳になったみうらじゅんが、「老けづくり」を経て「アウト老」になり気づいたこと〉に続いて話を聞いた。 眉間の皺、通称「ミジワ」が可愛い顔文字に ——加齢現象としては、眉間の皺も増えてきます。 眉間の皺、通称「ミジワ」ですね。僕にもけっこう深いミジワがあって、10年くらい前までは漢字の「米」と読めました。それが、だんだん神社の鳥居の形になり、最近ではケータイの顔文字\(^o^)/みたいに変化してきました。かつて眉間の皺と言えば、こわいイメージがありましたけど、途端に可愛く見えてくるでしょう(笑)? ——世間的には、皺はないほうがいいとされていますが、顔文字ならあってもいいですね。 せっかく育て上げて可愛くなったんだから、これからは積極的に出していこうと思います。やっぱ、いくつになっても笑ってもらおうという気がないといけません。でも昨今の流行はボケよりもツッコミのほうでしょ。漫才師だったら、ツッコミのほうが司会もできて、仕事も多いイメージがあるからでしょうけど。でも、人はいずれボケになるんです。ずっとキレのいいツッコミばかりしていたら、急にボケになった時、間に合いません。おもしろくボケられるよう、ここも日々の修行が大切になります。 ——SNSなんかを見ていても、みんなツッコミになりたがります。 揚げ足を取ったり、非難をする、それは一方的なツッコミですから。なんて言いながら、僕も上京するまでは自分のことツッコミだと思ってたんです。子供の頃からスクラップ帳に貼ってた仏像の写真は、大人から「すごいね」って言われて、調子に乗ってたんです。その仏像スクラップを、東京で知り合った、いとうせいこうさんに意気揚々と見せたら、開口一番「あんた、どうかしてるよ!」って、ツッコミを入れられたんです(笑)。 さらに、高校生の時までに400曲くらい自分で作詞・作曲した曲を吹き込んだカセットテープがありまして。それを今度は山田五郎さんに延々聞かせたところ、また「どうかしてるよ!」って。ようやく僕がツッコミやすいボケだと気付いたんです。本当、ようやくね(笑)。以来、僕はボケ人生にシフトすることにしました。 ——ボケになることも、老化も、恐れず受け入れたほうがいいと。 老化というのは、人間にとって進化と思い込むことです。するとね、老化防止のグッズとかを買わされなくて済みますから。こちとらロックで育ってるもんで、まず疑うところから入りますからね。 見つけたら迷わずレジへ「レジスタンス運動」 ——巷では「推し活」が流行していますが、みうらさんに通ずるものがあるのでは? 僕の「マイブーム」とちょっと違うのは、「推し活」は欲しいものを買う行為ですよね。マイブームに関しては、欲しいかどうかは関係ありません。マイブームの基本は「レジスタンス運動」です。お店でいい味出してるグッズを見つけたら、迷わずレジへ直行する。物を買う時に迷いは禁物ですから。2種類あったら両方買う。迷うのは損をしてるんじゃないかという気持ちです。そこは自分を洗脳して、「好きに違いない!」って、自分を騙して買うわけです。 ——みうらさんが大量に集めている様々なグッズは、別に欲しいから買っているわけではない? だってゴムヘビなど欲しくないですよ(笑)。そりゃあ欲しいものも買いはしますが、そんなものは他人に見せても「ほーう」で終わってしまいます。だから、迷わずレジスタンスです。無駄な努力で無駄な量買って、ようやくマイブームに成り得るのです。 ——そして「またやってる」から「まだやってる」の境地へ。 ですね。似たようなものを2個や3個集めても、それでは「またやってる」って言われる程度です。それが、最低でも10年続けて、何百個にもなると、「まだやってる!」って褒めてもらえるんだと思います。尊敬の眼差しを向けられるようになるんです。エロスクラップはもう840冊を超えてますからね(笑)。だって45年もやってるんだから。「推し活」をしている人も、たとえ飽きたとしても、飽きてないふりを続けて10年20年続けられたら、「まだやってる!」と言ってもらえると思いますよ。 ——「自己肯定感」という言葉も最近よく言われています。 うーん、それより、胸にでっかく「I DON’T BELIEVE ME」ってプリントしたTシャツを着ることをおすすめします。だって自分を肯定したら、好き嫌いがそこに出てきちゃうでしょう。 還暦を過ぎたら年がら年中アニバーサリー ——歳をとると、だんだんインプットができなくなってくる問題についてはどう考えたらいいでしょうか。 新しい情報はできる限り無視するべきですね。だって新しい情報を1つ入れたら、せっかくの思い出が3つくらい抜け落ちちゃいますから。今のアイドルの名前を新しく覚えることより、昔覚えたピンク・フロイドのメンバーの名前はちゃんと全員言えるようにしておいてください。 ——老いていくことに不安を感じている人も多いです。 不安な時こそ無理やり楽しそうなフリをするのがいいのでは? 「不安もいつかはネタにする」って気持ちが大切だと思います。マイナスのことをプラスにする。それが「不安タスティック!」の呪文です。若い頃は気が付きませんでしたが、還暦を過ぎたらもう、年中アニバーサリーなんです。あの人と出会って20周年、あれを始めて30年周年と、そんなことばっかりです。毎日がお祭りです。年を取ったら自分から祝っていかなきゃね。 ——老いによる体の不調にも、明るく向き合えますかね。 僕はね、何年か前から耳の奥でずっとセミが鳴いてるんです。秋になっても、秋の虫の鳴き声が全然聞こえないくらい、ずっとセミが鳴いています。病院に行くと、「それは老化による耳鳴りですね。気にしないでください」って言われます。だから僕はせめてセミの種類が知りたくて、本屋さんでセミの鳴き声が150種類録音されたCD付きの図鑑を買ったんです。結局3番目くらいに入ってたニイニイゼミだってことがわかって、それで納得したんですけどね(笑)。どのセミかがわかれば心配はないじゃないですか。それからはもう、ずっと夏休みだと思って生活してます。耳鳴りも人生のサントラだと思って。 ——でも耳の中でずっとセミが鳴いていたら、人が話している声が聞こえなかったりしませんか? 若い時はよく付き合ってる彼女に「ちょっと、私の話、聞いてるの!」なんて言われたもんですけど(笑)、いまや本当に聞こえてないですから。「何回も言ったじゃん!」とかって言われても、覚えも悪くなってますから、本当、仕方ありません。「すいません」と謝罪の気持ちは持ち続けるべきだと思います。 ——これから「アウト老」の時代が来ますかね。 もしこのインタビューを読んで、「俺もアウト老を目指すぜ」なんて思う若い人がいたら、将来はとても楽しみになるんじゃないかと思いますよ。 取材・文/おぐらりゅうじ 写真/田嶋裕太 【前編を読む】「年寄りこそ可愛げがなきゃ」…67歳になったみうらじゅんが、「老けづくり」を経て「アウト老」になり気づいたこと

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