「リアルすぎる付録」が売れまくる…「新ブーム」幼児誌を大人がこぞって買うワケ

少子化や書店の減少ゆえ絶対的な読者数の減少にもがいてきた幼児誌業界。しかし今、新たなヒットのパターンを見出した格好だ。この“リアルすぎる付録”ブームとは一体どれほどのものなのか? そしてなぜ起こったのか? 日本雑誌広告賞の審査員で世代・トレンド評論家の牛窪恵氏、実際にリアルなおもちゃ付録MOOK『げんきリアルMOOK ホンモノそっくり! しゃべる! リアルサウンド銀行ATM』などを手掛けた講談社「こども事業部」の芦田夏子氏に話を伺って、多角的に探ってみた。 リアルすぎる付録が注目 幼児誌付録が広告賞受賞 昨今、小学館の幼児誌『幼稚園』の付録「セルフレジ」企画が広告賞を受賞するなど、リアルな付録おもちゃが話題になっている。 本物そっくりのデザインや操作感にこだわったこの付録は、子どもたちの興味を引くだけでなく、親世代にも「懐かしい」「よくできている」と好評。以降も『幼稚園』では、「こうしゅうでんわ」など、身近な道具をモチーフにした“リアル系付録”が続々と登場している。 日本雑誌広告賞の審査員で、世代・トレンド評論家の牛窪恵氏は、「最近の付録は驚くほど精巧。受話器やボタンの感触まで再現されていて、大人もつい手に取りたくなる」と評価。単なるおまけの枠を超えた存在感を放っているという。 時代を映す鏡とも言われる広告の世界で、こうした“リアル体験”を提供する付録が高く評価されるのは、今の子どもたちの「遊び」に対するニーズの変化を示しているのかもしれない。 リアルな信号機のおもちゃ付録が大好評を博す そんな中、1〜3歳児向けの雑誌として長く支持されてきている講談社『げんき』編集部が、この6月に、リアルなおもちゃの付録付きMOOKの新シリーズを発売するのに加え、過去4シリーズも一気に重版した。少子化に歯止めがかからない昨今、これは異例の現象だ。 もちろん、この積極的な戦略の裏にはたしかな自信があった。リアルMOOKシリーズの製作を担当する講談社のこども事業部の芦田夏子氏は、その経緯を次のように説明してくれた。 芦田夏子氏(以下、芦田)「以前、2021年の幼児誌『げんき』で、リアルな信号機のおもちゃを本誌の付録にして販売したんです。これが想像以上に好評だった。 そこで信号機のおもちゃのほうに特化して、ムックにして販売したらどうかと提案した。これが、2年後の2023年に信号機のMOOKを発行したきっかけです。 初版も2万部と今の時代では決して少なくない部数を発行しましたが、これが順調に売れ、今では3刷り目に突入しています」 発売するたびに完売、重版へ この成功に、リアルな付録おもちゃに対する市場の潜在的ニーズを嗅ぎ取ったげんき編集部は、その後立て続けにリアルMOOKをリリースしていく。 芦田「その1年後に、今度はリアルな「ICカード改札機」のおもちゃ付きMOOKを発売。これも、やはり現在は3刷り目に突入しています。 さらに「スキャナー&レジ」「ふみきり」のおもちゃ付きMOOKと、短いスパンで次々リリースしましたが、どれも完売。「ふみきり」のMOOKに至っては初版3万部と1万部増やしたのですが、何と発売約1ヵ月で完売したんです! 付録付きのおもちゃはどうしても増産にある程度時間がかかるため、市場から消える期間が長くなってしまい、編集部に直接『欲しいんだけど手に入らない』という問い合わせが来ることも。欲しがっている方には申し訳ないのですが、嬉しい悲鳴です」 というわけでこの6月に、新作となる「銀行ATM」のおもちゃ付きMOOK『げんきリアルMOOK ホンモノそっくり! しゃべる! リアルサウンド銀行ATM』に続き、過去にリリースされた全てのMOOKが重版されることになった、という経緯だ。 あるお父さんのSNS動画がヒットを後押し 快進撃を続ける『げんき』編集部によるリアルMOOKシリーズだが、このヒット現象はげんき編集部の付録に限ったものではない。 先に述べた小学館『幼稚園』の付録企画が日本雑誌広告賞を受賞しているように、「その下地はすでにあった、私たちはそこに乗っかっただけ」と前出の芦田氏は語る。 芦田「うちがリアル付録を出すだいぶ前から、さまざまな幼児誌界隈が、リアルなおもちゃ付録を展開していたんです。それがロングセラーとなっていたり、わりと外しなくヒットしていました。 同時に、書店を巡ると乗り物系のムックが目立つところに並べられていたので、交通ものはニーズがあるのでは? と気づいたんです。当時私も3歳の息子がいたので、子どもにウケるものが感覚的に分かった、というのもありました。 そこで続いてICカード改札のおもちゃを付録として作りました。これもとても好評で、中には、改札を通過するところからリアルに遊ばせたいと思った親御さんもいたのでしょう」 芦田「あるお父さんが、段ボールで自動改札の本体部分を手作りし、そこにこのICカード改札機を取り付けて、子どもが遊んでいる動画をXに投稿した。これが『本格的すぎる!!』と、何と1000万回以上も再生されたんです。(現在は1500万回を超えている) その動画の登場後に、当該のムックはあっという間に品切れに。そういったSNSの反響などもあって、さらに人気を博していった印象です」 子どもだましではないリアルさ このことからも、リアルすぎる付録の人気というのは決して一過性ではなく、継続的なものとなっていることが窺える。ではその理由は一体何なのだろうか? 芦田「最大の理由は、子どもだましではないリアルさを追求したところにあると思います。サウンドは本物に近づけるため、プロの音声担当が研究して収録したり、場合によってはスタジオで音声を入れたりしています。 ハンディスキャナーは本物と同じサイズかつ手の平に馴染む設計にしていますし、信号機は裏側に貼られている説明シールに本物と同じ書体を使っているなど、けっこう芸が細かいんです(笑)。 今の子どもは、生まれたときからスマホやタブレットなど、高機能なテクノロジーに囲まれて育っています。また、子どものほうが大人よりも音に敏感。 そして、何よりも、子どもは大人と同じことがしたい、大人と同じものが使いたいので、子どもだましは通用しない気がしています」 しかし前出の世代・トレンド評論家の牛窪氏は、「子どもに好評を博しているだけでは、全てのムックが何度も刷りを重ねるほどヒットするのは難しい。むしろ子どもより大人の心を捉えているのでは?」と見ている。 牛窪恵氏(以下、牛窪)「まず1つは、おもちゃにも知育的要素を求める親のニーズと合致したところが大きいのではないでしょうか。 たとえば小学館(『幼稚園』)の付録『こうしゅうでんわ』は、今や触ったことがないという子どもがほとんどですが、災害のときに使い方を知らないと困るもの。そのため子どもに、公衆電話の使い方を学ぶ講習会に参加させる親もいます。 今や教科書までデジタルに移行しつつありますが、親としては実際に触れて操作させて、リアルに学ばせたいという思いがある。こういった付録は、遊びながらも親が子にリアルに使い方を教えられるおもちゃとして、喜ばれたのではないでしょうか」 子どもよりもむしろ大人が買っている!? ただ知育を目的としたおもちゃは市場に五万とある。ここまでのヒットになったのは、親だけに限らず、幅広い世代の、とくに男性たちを巻き込んだことが大きかったのではないかと牛窪氏は分析する。 牛窪「昨今はキダルト(『キッド』と『アダルト』を組み合わせた造語)」という言葉も生まれ、かつて子ども向けとされたおもちゃやコンテンツが、ハイクオリティになって登場しています。 一般に、知育要素の強いおもちゃは教育熱心な母親に好まれるのに対して、純粋に子どものような心でおもちゃを楽しむキダルトのニーズは、圧倒的に男性に顕著。付録おもちゃの精巧さやギミックの本格ぶりが、お父さんを含む男性たちの心も捉えたのでは? もとを辿ると、アニメやゲームといったカルチャーが勢いを増し、それにともない幼児誌の付録も精度を上げ始めたのは、団塊ジュニア(1970年代前半に生まれた世代)が子どもだったころから。 つまり、今幼少期の子どもを持つ親やそれより下の世代は付録全盛期に育ち、関心も高い。だからこそ『自分たちのころにこんなリアルな付録があれば!』と子どもと一緒に楽しんだり、単純に自分が楽しむために買ったりしているのではないでしょうか」 昨今のネット環境も、このヒットを後押ししているという。 牛窪「今は本もインターネットで買えますから、いい大人が子ども向けのムックを買うなんて恥ずかしい、と臆する必要もない。 くわえてバックナンバーの入手も簡単ですし、コレクションがしやすい環境も、大人への訴求力を後押ししているのではないかと思います 単純に子どもが『欲しい!』というだけでは、やはりこのレベルの“ヒット”にはならない。理由は一つではなく、さまざまなニーズや社会背景が絡み合って、幅広い世代や層にウケているのではないでしょうか。それゆえリアルすぎる付録おもちゃの人気は、今後もさらに高まるのでは?と予測しています」 あらためて感じる日本のモノづくり文化のスゴさ あくまで子ども向けとしてリリースしたものだったが、期せずして大人の高い支持も得、幼児誌業界における一つの手堅いヒットツールとなりつつあるリアルMOOKシリーズ。最後に、「こども事業部」の芦田氏が語った、「これは日本のモノづくり文化のおかげだ」という興味深い思いを伝えたい。 芦田「こうしてリアルなおもちゃを製作したり、取材をしていると、もともと日本で作られている、社会や身の回りにある製品や公共物がいかに精巧に作られているかを感じるんです。 性能やデザインはもちろん、ユーザビリティ、安全性、耐久性、さらにはメンテナンスのしやすさなど。日本はもともの優れたモノづくり文化がある。 人々は、日々優れたホンモノに接しているからこそ、それにそっくりなおもちゃをコレクションしたくなるんだと思います。本物が“ちゃち”だったら、誰もそのミニチュアを欲しいとは思いませんよね(笑)。あらためて、日本のモノづくり文化に深い敬意を覚えます」 というわけで今後も引き続き、さまざまなリアルMOOKを展開していく予定だという。銀行ATMの次は、今年9月にドラム式洗濯機付録が登場するという。その快進撃は、まだまだ続きそうだ。 「ねるねるねるね」子どもたちが40年熱狂した、化学反応「2つの秘密」…発売元の「なかの人」に聞いた

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