【全文】天皇陛下モンゴル訪問前記者会見(前半) 交流の歴史に思いをはせ「モンゴルの方々と交流できることを楽しみに」

天皇陛下は7月6日からのモンゴル公式訪問の前に、2日午後4時半から、皇居・宮殿「石橋の間」で記者会見に臨まれました。全5問と関連質問のうち、撮影が許された1問目から3問目までの記者会見前半の全文を紹介します。(表記は宮内庁公表のまま) 問1】天皇陛下として初めてモンゴルを訪問されるにあたり、抱負をお聞かせください。2007年のモンゴル訪問時の思い出なども交えつつ、同国の印象や今回の訪問で楽しみにされていることもご紹介ください。前回は訪問が叶いませんでしたが、今回初めて訪問される皇后さまとは、どのような話をされていますか。準備の状況やご体調と合わせて教えてください。 天皇陛下)この度、モンゴル国から御招待を頂き、雅子と共に訪問できることを大変うれしく思います。フレルスフ大統領御夫妻には、令和4年に皇居にお招きし、また、馬頭琴のコンサートにも御一緒して以来、度々御招待を頂いてきました。御招待いただいたモンゴル国政府に対して、心から御礼を申し上げます。 私にとりましては、平成19年以来2度目の訪問になりますが、前回の訪問では、モンゴルの国民の皆様に大変温かく迎えていただきました。同国最大の行事であるナーダムの開会式に出席し、当時のエンフバヤル大統領に御説明いただきながら、相撲、弓、競馬の競技などを大変楽しく見ることができました。また、モンゴルの雄大な自然や、人々の典型的な住まいであるゲル、馬や羊と共に暮らす人々の姿などが深く印象に残っています。 今回の訪問でも、フレルスフ大統領御夫妻と御一緒にナーダムの開会式に出席して競技を観(み)ることや、モウコノウマが生息しているホスタイ国立公園を訪問し、モンゴルの雄大な自然を体感できることを楽しみにしております。それとともに、平成19年の時からモンゴルがどのように変わってきているかを見ることができればとも思っています。 このようなことを踏まえ、今回のモンゴル訪問において、私が特に関心を払っていきたいと思っている点についてお話ししていきたいと思います。 第一に、今回の訪問を通じて、我が国とモンゴルとの間に培われてきた交流の歴史に思いをはせたいと思います。我が国とモンゴルとの関係は、13世紀の2度にわたるいわゆる蒙古襲来に至る過程で始まりました。私は、大学3年生の時に日本中世史のゼミ旅行で九州を訪れた際に、蒙古、すなわち当時は元という国号でしたが、元の大軍の上陸に備えて築かれた防塁や、元の兵士を弔った塚などを見たことを記憶しております。また、一昨年、皇居三の丸尚蔵館で行われた展覧会で、鎌倉時代に作られ、蒙古襲来の様子を鮮明に描いた「蒙古襲来絵詞」を雅子、愛子と一緒に見る機会がありました。 元との関係は、このような絵巻物に見えるように襲来、合戦といったマイナスのイメージがありますが、その一方で、禅宗の僧侶が相互に行き来するなどの交流も当時、活発に行われていました。例えば、一山一寧(いっさんいちねい)という禅宗の高僧が、元の成宗テムルから国書を託され、1299年に来日しています。一山一寧は、鎌倉の建長寺や円覚寺に滞在し、弟子を育て、日本の禅文化に大きな影響を与えました。 貿易においても、2度の蒙古襲来の間の時期に当たる1278年に、元の世祖フビライが日本との貿易を許可しており、14世紀には貿易が盛んになったことが知られています。私が専門としている日本中世史を学んでいると、実はこの時代にも日本と元の間で人や物の様々な交流があったことが分かり、興味を惹(ひ)かれます。 また、モンゴルの建国者のチンギス・ハンについて、日本でも、英雄として小説になったり、源義経との同一人物説が流布したりするなど、日本の人々も関心を寄せてきていますので、この機会に更に理解を深められればと思っています。今回御招待を頂き、友好親善の訪問ができることに、歴史研究の上でも縁のようなものを感じています。 そして現在は、日本とモンゴルの間で、人材育成、ものづくり、医療など、幅広い分野で交流が進んでいます。例えば、平成19年には、モンゴルから日本への留学生は1,100人ほどでしたが、約20年の間に4倍以上に増えていますし、豊昇龍関や霧島関などのモンゴル出身の相撲力士も日本で活躍しています。また、日本からモンゴルに派遣されている青年海外協力隊の活動も大きな役割を果たしていると聞いています。こうした人と人とのつながりを通じて、両国の協力関係が発展していることはうれしいことです。 このように長きにわたる両国の交流の歴史を踏まえながら、今回の訪問では、大統領御夫妻始め幅広い層のモンゴルの国民の皆さん、在留邦人や、日本とゆかりのあるモンゴルの方々などとお会いし、両国の交流の歴史や、現在の状況などについてお話を伺えればと思っております。 第二に、今回の訪問を契機として、我が国とモンゴルの特に若い世代の人々の交流がより一層活発になり、今後の両国間の橋渡しとなって友好親善関係が更に深まっていくことを期待しております。 今回の訪問先の一つに、モンゴルコーセン技術カレッジがありますが、ここは、日本発祥の高等専門学校(高専)が、日本以外の地で初めて設立されたものだと聞いております。また、日本式の教育を取り入れている新モンゴル学園や、日本の支援で設立されたウランバートル市第149番学校において、若い世代の学生さんたちや子どもさんたちと直接交流することを楽しみにしております。 雅子とは、以前に私がモンゴルを訪問した時の話をしたり、モンゴルについての専門家の方々の話を一緒に伺ったりしながら、訪問に向けた準備を進めています。雅子も、体調に気を配りながら、両国国民の交流の歴史を心にとどめ、今後の両国間の交流と友好親善関係が更に深まることを願いつつ、モンゴルの大自然や歴史、文化に直(じか)に触れ、モンゴルの方々と交流できることを楽しみにしています。 問2】戦後80年にあたり、両陛下は国内では硫黄島、沖縄、広島などで戦没者を慰霊されました。モンゴルでは日本人抑留者の慰霊碑を訪問される予定ですが、どのようなお気持ちで慰霊に臨まれますか。先の大戦や平和に対する今のお考えもあわせてお聞かせください。 天皇陛下)先の大戦においては、世界の各国で多くの尊い人命が失われ、多くの人々が苦しく、悲しい思いをされたことを大変痛ましく思います。亡くなられた方々のことを忘れず、過去の歴史に対する理解を深め、平和を愛する心を育んでいくことが大切ではないかと思います。 シベリア抑留者として、モンゴルに移送された約14,000人のうち約2,000人が不幸にして亡くなられたと聞きます。その一方で、抑留された方々が、現在も使われているモンゴルの政府庁舎や国立オペラ・バレエ劇場などの建設に従事し、厳しい環境にありながらも自分たちの仕事に力を尽くしたことは、モンゴル国民からの尊敬を集めたと聞いています。実際に、前回モンゴルを訪問した際に、ウランバートル中心部のスフバートル広場近くにある国立オペラ・バレエ劇場の立派な佇(たたず)まいが目をひいたのですが、この劇場が、司馬遼太郎氏の『モンゴル紀行』に書かれた劇場であり、先の大戦中に日本人の捕虜によって建てられたものであることを知り、極寒の地で建設に携わった人々の苦難に思いをはせたことを記憶しています。また、戦後にモンゴルに抑留されながら、モンゴルの子どもたちのために孤児院を運営していた春日行雄さんとお会いし、お話ししたこともよく覚えています。 今回の訪問では、そのような歴史に思いを巡らせつつ、日本人死亡者慰霊碑に供花をし、心ならずも故郷から遠く離れた地で亡くなられた方々を慰霊し、その御苦労に思いを致したいと思います。 問3】大阪・関西万博が開幕し、皇室の方々は各国の賓客と交流される機会が増えています。陛下は皇室の国際親善の役割をどのようにお考えでしょうか。両陛下のモンゴル訪問に続き、11月には愛子さまにとって初めての外国公式訪問となるラオス訪問も検討されています。愛子さまの準備の状況、期待されていることをお聞かせください。陛下の初の外国公式訪問を踏まえて、助言されていることもお聞かせください。 天皇陛下)皇室の国際親善の役割については、皇室が果たすべき役割の中で大事な柱の一つと考えており、私としても、訪日された賓客との交流や外国訪問に際しては、我が国と相手国との交流の歴史を踏まえ、今後の相手国との友好親善関係が更に深まるよう努めていきたいと考えております。大阪・関西万博の関係では、これまでも旧知の王室の方々や大統領などとお会いして旧交を温めることができましたし、また、初めてお会いした国家元首の方々などもおられ、お話を通じて、それぞれの国についての理解を深めることができてきていることを有り難く思います。 また、愛子のラオス訪問については、ラオス政府から本年11月に御招待いただいたことに対し、愛子はもちろん、私と雅子も大変有り難いことと思っております。訪問時期がまだ少し先ということもあり、準備については今後進めていくことになると思いますが、愛子のラオス訪問が、先ほど申し上げたとおり、我が国とラオスの友好親善関係の増進につながることを願っています。私自身も平成24年にラオスを訪問する機会があり、ラオスの国民の皆さんに温かく迎えていただいたことをうれしく思いましたし、ラオスの人々が餅米を食べる習慣があるなど、日本とも共通する文化を感じることができました。私と雅子からもこれまでの外国訪問の経験を踏まえつつ、愛子に助言をしていくことができればと考えています。 なお、先般ブラジルを訪問した佳子内親王から帰国後の挨拶を受けた際には愛子も同席しており、佳子内親王からブラジル訪問の様子などを詳しく聞いておりましたので、こうした機会も通じて、愛子自身も皇室の外国訪問について学ぶことができたのではないかと思いました。

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