【熱市土石流から4年】遅れる復興と被災地の今 ”伊豆山に戻れない避難者たち” 28人の犠牲者を悼み追悼式(静岡)

28人が亡くなった静岡・熱海市伊豆山の土石流災害から7月3日で4年。現地では犠牲者を悼み黙とうが捧げられました。被災地の復興は進んだのか?津川アンカーが現地を取材しました。 熱海市伊豆山の土石流災害から7月3日で4年。 盛り土が崩落したことで被害が拡大し、災害関連死を含め28人が亡くなりました。 被災地では、土石流発生の通報があった午前10時半ごろに合わせ黙とうが捧げられました。 (娘を亡くした 小磯 洋子さん) 「夏の暑い日に、2週間も3週間も土の中に埋もれて、むごたらしい姿で死ななきゃならなかった。とてもつらく苦しい悲しみと苦しみを抱えながら生きている」 自宅跡地の祭壇で手を合わせるのは、土石流で妻の路子さんを亡くした田中公一さん。 (妻を亡くした 田中 公一さん) 「特別な日だよね。あいつと多少なりとの時間で向き合う。いろんなことをね。ああでいいか、こうでいいかと自問自答しかないんだけどさ」 7月3日、行われた追悼式には鈴木知事や遺族らが出席し献花台に花を手向け犠牲者を悼みました。 崩落した盛り土を巡っては、遺族らが、前の土地所有者らに対し損害賠償を求める民事裁判が続いているほか、業務上過失致死などの疑いで捜査が続いています。 (「被害者の会」会長 瀬下 雄史さん) 「それぞれがそれぞれ自分たちには責任がないんだという主張に終始している中で、裁判を通じて原因究明と責任追及をしっかりしていく」 1年ぶりに、土石流が通った場所を訪れた津川アンカー。 (記者) Q.「1年前と比べて周りの景色は 変わりました?」 (津川 祥吾 アンカー) 「ここが暗渠(あんきょ・水路)になって、この道路の所が少しできたなという感じですね。こっちはあまり変わってない感じですかね。一番気になるのは被災者の皆さんの気持ちですよね。少しでも進んでいると感じるのか、まったく変わっていないと思うのか、気持ちがとても気になります」 この4年で復興はどこまで進んだのか。 (熱海市 鈴木 克章 副市長) 「ことし4月に副市長になりました。鈴木と申します」 熱海市の鈴木克章 副市長です。3月までは、国土交通省 中部地方整備局で、幹線道路の管理や災害対応などに従事していました。 (熱海市 鈴木 克章 副市長) 「災害から4年ということをお聞きしておりまして、着実に復興が進んでいるなという印象を持ちました」 鈴木副市長が、順調と話す一方、完成時期は当初の計画から2年先延ばしになっています。 道路の整備と逢初川の河川改修が進まず、約2年前に警戒区域が解除されたものの、多くの住民が元の場所に戻っていません。 伊豆山に戻った避難者は、5月末時点で132世帯227人の内、26世帯54人。現在も避難生活を余儀なくされている人は21世帯43人に上ります。 工事の遅れの最大の要因といわれているのが被災地の「用地買収」です。 (津川 祥吾 アンカー) 「用地買収ということに関して、道路と河川と思いますが、それは今どのくらい進んでいるんですか」 (熱海市 鈴木 克章 副市長) 「河川事業だと約6割進んでいます。道路でいいますと8割が進んでいます」 (津川 祥吾 アンカー) 「通常の道路工事と災害復旧の場合の用地買収はちょっと違うと思 うんですね。そこに気持ちの違いがあると思うのですが」 (熱海市 鈴木 克章 副市長) 「まさしく災害復旧の用地買収は、正直、初めてでございますので、これまでの住民にとって良い、便利な道路ですよ…というセリフとは違った意味合いがあると思いますので、そこは、やはり寄り添って丁寧に説明するしかないですね」 復興に向けて住民の理解を得るため、熱海市はこの4年間、説明会などを開催して話し合いの場を設けてきました。 しかし、市が掲げる「復興計画」の方針が二転三転。被災者は市が十分な説明をしないまま計画を進めようとしていると批判しています。 (被災者) 「だから、124世帯みんなに聞いたというけど、10世帯の意見を聞いてこの方針に決めたんじゃないのか違うのか」 (被災者) 「信頼関係がない。信頼関係がない中でいくら議論を重ねてもみんな不信感しかない」 説明会では、被災者の求めに耳を傾けるよう、斉藤市長に対し要望書が提出されるひと幕も….。 (母親を亡くした 太田 朋晃さん) 「要望書を書いたので、よろしくお願いします。なんでこうやって渡すかわかりますか?個々に訪ねても聞いてもらえないから、この場で市長に渡すんですよ」 復興に対する考えを巡り、両者の深い溝は今も埋まっていません。津川アンカーは、その原因の一つが被災者と市の土石流災害に対する考え方の違いではないかと指摘します。 (津川 祥吾 アンカー) 「ありえない物があった訳じゃないですか。つまり、通常の山ではなくて、違法な盛り土があって、あの程度の雨で、あんな土砂災害が起こるはずがないというのが、たぶん常識的な所だと思うんです。あの違法盛り土が無かったら(土砂崩れは)無かったよねというのが前提なので。ここの災害の一つの特徴、難しさはそこだと思います。いわゆる通常の自然災害ではないと。そこを市もちゃんとわかっているよね。県もわかっているよね…という話だと思いますから」 (熱海市 鈴木 克章 副市長) 「まだ就任して2か月、現場も初めてですし、いろんなことが初めてですので。そうはいっても与えられた任務ですので、しっかりとやっていくと。見ていただいた河川・道路を令和8年度に作るという目標を出させてもらってます。市としては、しっかりと事業を進めると沿い行った気持ちで考えております」 熱海市が目指している工事完了まで、あと1年8か月余り。計画通り進めることができるのでしょうか。 一方、この4年間、被災者は必死に生活を前に進めてきました。 (津川 祥吾 アンカー) 「どうもご無沙汰しています、きょうはよろしくお願いします」 1年ぶりに再会したのは、当時、自宅で被災した中島秀人さんと娘の茉子さんです。 (津川 祥吾 アンカー) 「正直申しまして、正直おしゃれなんですけど」 (コマツ屋製麺 中島 秀人さん) 「復興するんだという思いで、素敵なものを建てようと、素敵な建物を作りたいという思いで始めました」 中島さんは、伊豆山で製麺所を営んでいましたが、土石流で自宅兼製麺所が被災しました。長い避難生活をおくり、伊豆山の自宅での生活を取り戻したのは被災から約2年半後。新しい製麺所を、自宅から20分ほど離れた場所に建設し麺づくりを再開しています。 伊豆山で生活の立て直しを図る中島さんに、今の復興の状況はどう映っているのでしょうか。 (津川 祥吾 アンカー) 「現場を見させていただいたんです。私の、よそ者の目から見て率直に感じたのは、あまりまだ変わってないなという感じがしてしまったんですが、皆さんはどの様にご覧になってますか」 (コマツ屋製麺 中島 秀人さん) 「『4年ぶりにここにきて、見てみたけれど何も変わっていないよね』という声は聞くんですけど、僕が言うのは、見てもらったままが現実だと話す」 2024年までに終える予定だった復興計画。熱海市は2026年度の完成を予定していますが、中島さんは「時間がかかりすぎている」と指摘します。 (コマツ屋製麺 中島 秀人さん) 「もう4年経ちまして、実際に戻られた人は全体の20パーセント。これから先、戻ってくる人は道路が出来てからという話になってくると、その後の復興という話になってくると、ちょっと、被災者と行政の時間軸がちょっとずれてるのかなというのは思う」 被災者は、一刻も早い復興を求めていると話し、時間がかかるほど「被災者は戻る気を失うのでは」と危機感を募らせています。 伊豆山の行く末を心配する中島さん親子。娘の茉子さんが新たなチャレンジを始めました。被災した経験を元に、ある商品の販売を目指して取り組んでいるのです。 (津川 祥吾 アンカー) 「ラーメンの缶詰」 (コマツ屋製麺 中島 秀人さん) 「普通でも食べられますし、非常食としても食べられる」 “防災食”として食べられるラーメンの缶詰です。 (中島 茉子さん) 「被災した時に、出てきたごはんの中で、お米だけしかなかったりする状況だったので、普段、食べている食事に近しい物だとか、もう少しおいしいごはんがあったらとか」 (津川 祥吾 アンカー) 「私が昔避難所にいろいろ応援に行かせていただいた時、おいしい物って本当に大事だなと思った」 (コマツ屋製麺 中島 秀人さん) 「一歩前に出る、進むことはすごくパワーもいるし大変なことなんですけど、そこを進まないと、その先が無いので、娘がそういうことをやるということであれば応援してみようかなと」 現在は、商工会議所や宿泊施設などに、販路開拓について相談中です。一歩ずつ前に進む被災者たち。一方で、時間のかかる復興工事に心境は複雑です。   (津川 祥吾 アンカー) 「前回、被災者という言われ方をいつまでもされたくはないんですよと、話をされていましたが、一方で、あそこで土石流があったという事実については『忘れないでほしい』と発信していきたいという話をされていましたが、そこは今どうですか」 (コマツ屋製麺 中島 秀人さん) 「ことしの4年が分岐点だと僕は思っています。風化する年ですしね、4年というのは。ただ、自分は少なからず。地元に戻れたという人間ですから、少なからず見守るとか発信するとか、そういう役割にはなっているのかなという風には自覚しています」

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