同じクスリでも「飲む時間」を変えるだけで、実は効果が大きく変化する——そんな最新知見をわかりやすく伝える新刊『時間治療』から、人間の体と時間の意外すぎる関係について紹介していきます。 身近にある時間治療 最近は男性でも美意識が高まり、化粧水やクリームなど、肌を良い状態に保つ基礎化粧品を使う人が増えました。 女性なら、なおさらよく知っていることと思いますが、肌をもちもちに保つ美容液などの多くは、「夜寝る前にお使いください」と使用説明書に書いてあります。 ここには、時間治療の知識が生かされています。 基礎化粧品は皮膚の深くまで浸透してこそ、高い美肌効果が得られます。そして、皮膚透過性には日内リズムがあり、それは昼間より夜間に亢進します。 外に露出している表皮は、私たちの体と外界とのバリアというとても重要な役割を果たしています。そのバリアを保つためには水分が必須ですが、夜は水分が少なくなります。アトピー性皮膚炎が夜に悪化しやすいのは、水分が減っているからです。 一方で、水分が減ればバリアは弱ります。バリアが弱まっているときに美容液を塗れば奥まで浸透しやすくなります。つまり、皮膚透過性が高くなります。 実際に、成人女性を対象にした研究によって、美容クリームは朝よりも寝る前に使ったほうが、皮膚のきめ細かさやツヤは一段と良くなることが報告されています。 肌の美容について、もう一言。表皮細胞が細胞分裂を繰り返すことによって肌の若さが保たれますが、細胞分裂は午後11時〜午前4時頃に最大になります。したがって、肌の美しさを保つためには入眠してすぐの睡眠が非常に重要です。 このように、時間治療の知見は、案外、身近なところに生かされているのです。 これからの時間治療 逆に、読者のみなさんにとって遠いものと感じられるかもしれない時間治療が、抗がん薬の開発に関するものでしょう。 がんの時間治療については新刊『時間治療』で詳しく述べますが、今、注目を浴びている治療薬に「VEGF阻害薬」というものがあります。 がん細胞の周囲に新生血管が増殖することで、がんは大きくなっていきます。VEGF阻害薬は、新生血管の増殖を抑え、がんが増大できないようにします。 そのVEGF阻害薬をより効果的に使うために、時間治療の知見が役立つと考えられるのです。 正常細胞のリズムは規則正しく、がん細胞のリズムはバラバラであることがわかっています。そこで、バラバラながん細胞のリズムを、正常細胞のリズムとは異なるところに同調させ、そこにターゲットを絞った薬を投与すれば、がん細胞周辺の血管新生のみが阻害され、正常細胞に与える害が少なくなると考えられます。すなわち、効果が高く有害作用の少ない抗がん薬ができるのです。 たとえて言うなら、あちこちに散らばっている悪者を1ヵ所に整列させ、一気に退治するイメージです。あちこちに散らばっている状態で攻撃していたら、その周辺にいる正常細胞がいくつも被害を受けますが、正常細胞に危機が及びにくいところに集めて攻撃すれば一網打尽にできるでしょう。 このように、時計遺伝子が関与している疾患であれば、同様の治療薬、治療法が成り立ちうるわけです。 【もっと読む】『「コロナワクチンは必ず《午前中》に接種しなさい」時間治療学の名医が提言…コロナ再流行のいま知りたい、ワクチン効果を高めるタイミング』 降圧剤は「朝」に飲むな、「30分」以上のうたたねで糖尿病リスクが上がる、予防接種は「午前中」、虫歯の治療は「夕方」に受けるといい……知っているだけでグンと健康になる知識が詰まった新刊『時間治療』は全国の書店・ネット書店で好評発売中！ 【もっと読む】「コロナワクチンは必ず《午前中》に接種しなさい」時間治療学の名医が提言…コロナ再流行のいま知りたい、ワクチン効果を高めるタイミング