参議院選挙公示、バラマキ公約の先に正常な成長はあるのか【播摩卓士の経済コラム】

参議院選挙が公示され、20日の投票日に向けて選挙戦が本格化しています。最大の争点は「物価高対策」で、給付金か消費税減税か、をめぐって、与野党が互いにバラマキと批判しています。国民全員にお金を分配するという意味では大して変わりはなく、「どっちもバラマキ」というのが、本当のところでしょう。 【写真を見る】参議院選挙公示、バラマキ公約の先に正常な成長はあるのか【播摩卓士の経済コラム】 現金給付も消費税減税もバラマキ 「国民全員に2万円」という自民と公明の案、石破総理は、子供や住民税非課税世帯に2万円加算する点を取り上げて「メリハリはあり、バラマキではない」と強調しています。しかし、所得の高い人も含めて国民全員に2万円配るわけですから、これをバラマキと呼ばないのなら、何がバラマキなのかと、問い返したくなります。 一方、野党側は、立憲と維新が食料品に限って消費税を時限的にゼロに、国民は消費税全体を5%に、共産、れいわ、参政は消費税の廃止を、それぞれ掲げています。食料品であれ、一般物品であれ、世の中に消費をしない人はまずいないので、こちらもすべての人が減税対象です。まして消費金額の多い「お金持ち」になるほど減税額が大きくなるのですから、こちらもバラマキに違いないでしょう。 消費税のあり方を議論することは意義のあることですが、短期的な景気対策や生活支援策としてではなく、長期的な税制のあり方として議論されるべきではないでしょうか。 対象を絞った生活支援策を まず考えるべきことは、今の経済状況が国民全員にお金を配らなければならないほど、危機的なのかということです。大恐慌やコロナ禍のように、あらゆる経済活動が止まり、大多数の人が失業のリスクにさらされた際には、全員にお金を配る政策には意味があります。それは、国にしかできないことです。 しかし、2年連続で30年ぶりの高い賃上げが実現し、人手不足が深刻で、マクロ的にも需給ギャップがほぼ解消した現状が、それに当てはまるとは思えません。 問題なのは物価高が予想外に高く、長く続き、賃金などの収入がそれに追いつかない人々が多数いるという現実です。要は、そうした方々への生活支援が必要なのです。生活支援が必要ない「お金持ち」や、もっと言えば、賃上げが物価高に追いついている人には、何も国がお金を配る必要などないはずです。 政治に求められるのは、そうした「本当に困っている人」を特定して支援の方法を整えることです。もちろん、「本当に困っている人」を特定するのは困難です。例えば、賃金が物価高に追いついている人を特定するなんてことは大変でしょう。それでも、年収はもちろんのこと、それに扶養家族の数などを加味して、できるだけ絞り込んで支援を行うことが大切なのではないでしょうか。 国の財政がこれだけ悪化しているのに、主要政党のすべてが全員に給付や減税をすることを公約に掲げ、逆に、全員支援がおかしいという主要政党が一つもないというのは、不思議なことです。 物価上昇を目指してきたのに物価高対策 そもそも政府も日銀も物価上昇率2%を目標に掲げ、デフレ脱却を目指してきました。いわば物価高を目指してきたのに、今、物価高対策が選挙の争点になっているというのも、不思議な話です。 確かに、足元の物価上昇率は3%台後半と、想定より上振れしています。しかし、エネルギーと食料品、とりわけコメといった特定分野の価格上昇の影響が大きく、これが消費生活に直接の打撃をもたらしています。その意味で、エネルギーやコメなどの価格上昇を緩やかにする取り組みは重要ですが、政策の方向性は、物価を抑えるのではなく、あくまでも物価高に苦しむ生活支援という位置づけを明確にすることが大事だと思うのです。 2%の物価上昇というモメンタムを維持しながら、賃上げと成長を続けることが目指すべき姿です。 鍵は賃金上昇、そのために投資を 賃金が物価に追いついていないのであれば、賃金を上げ続けることが王道です。5%台の賃上げをさらに来年以降も続けられるようにするには、やはり経済主体の生産性の向上が欠かせません。生産性向上のためには、設備投資の拡大や人手不足への対応が必要です。今は、供給制約を克服するための政策が、むしろ効果を発揮する局面です。 全員へのバラマキではなく、設備投資の促進や労働力の流動化などに財政資金を振り向けるほうが、成長に効果的なのではないでしょうか。選挙戦では、生産性の向上や経済成長を、どのように実現するかという具体論をもっと聞きたい気がします。 成長には新陳代謝が欠かせない 実質賃金の話をする際に、通常我々が使っている数字は平均の数字です。もちろん実質賃金の平均がマイナスであることは問題で、少しでも早く実質賃金がプラスになることが求められますが、仮に平均がプラスになったとしても、個々人で見れば、実質賃金がマイナスだという方は一定数、存在してしまうことでしょう。全員の実質賃金が一気にプラスになることは、普通、考えにくいからです。 物価も賃金も上がるインフレの時代になれば、生産性の向上によって、賃上げにも差がつくことになるからです。みんなの賃金が上がらなかったデフレ時代との最大の違いが、ここにあります。 「正常化社会」の姿とは 生産性が上がり、賃上げが続く企業もあれば、そうでない企業もある。そうなれば、人の移動も起こります。中長期的に、生産性の上がらない企業から、生産性の高く賃上げが続く企業や業種に人が移動することで、全体(平均)の賃金も上がっていくことになるのです。これが正常な時代の成長の姿です。新陳代謝こそ、賃金上昇と経済成長をもたらす原動力です。そして、ゼロでなくなった「金利」が、そうした新陳代謝を促す作用を持ちます。それが金融正常化の世界です。 日本が目指すべき「正常な」成長社会の実現のために、本当にバラマキが必要なのか、選挙を通じて、改めて考えてみたいものです。選挙戦で語られることに耳を傾けることはもちろん重要ですが、選挙戦で政治家の口から語られないことにも、大事なことがあるように思えます。

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