《「歌舞伎町弁護士」のもとにやって来た相談者は「女風」のセラピスト》3か月でホストを諦めた男性に声を掛けた「紫色の靴を履いた男」

 6月3日に最終回を迎えたドラマ『ジョフウ 〜女性に××××って必要ですか?〜』(テレビ東京系)は、「女性向け性風俗店(女風)」を舞台にしたストーリーだった。現在、歌舞伎町を中心とした一帯には、実際にたくさんの女風がある。 【写真】これまでに3000件以上の風俗トラブルを担当してきた「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏  新宿に拠点を構え、これまでに3000件以上の風俗トラブルを担当してきた「グラディアトル法律事務所」の代表弁護士・若林翔氏は、女風をめぐるトラブルを解決した経験がある。その実態を、歌舞伎町のお膝元にある紀伊國屋書店新宿本店の「新書部門(6月4週)」でランキング第1位を獲得した若林氏の著書『歌舞伎町弁護士』より、一部抜粋、再構成して紹介する。【全4回の第1回】  * * *  新宿にある女風の1つに勤めている22歳の丸山さん(仮名)は、元ホストのセラピストだ。「女性の消費者」を相手にする水商売の業態の中で頂点に君臨するのは、言わずもがなホストクラブである。ただし、ホストクラブは店同士の競争も、ホスト同士の競争にも常軌を逸した激しさがある。  次に利幅が大きいのは、女風。このジャンルには、女のセラピストが女の客を相手にするものもあるが、メディア戦略に長けた一部のグループを除き、それほど賑わってはいない。儲かるのはやはり、男性のセラピストが女性の客の相手をする店だ。  今回、相談にやってきた丸山さんもホストからセラピストに転じた1人だった。彼の出身は、和歌山県。中学生の時にバンドを結成し、ギターボーカルを担当。高校生の時には、定期的にライブハウスに出演するほど人気を博していたそうだ。 「高校を出たら、本当は大阪か東京の音楽専門学校に行きたかったんですけど、実家が貧乏だったので、音楽を続けながら、新内でバイトしていました」  和歌山市内にある新内は、200軒近い飲み屋やキャバクラ、性風俗店が密集する歓楽街である。丸山さんは最初、居酒屋でアルバイトを始め、生活の中心はあくまで音楽活動だった。といっても、高校時代に組んでいたバンドはすでに解散していたという。 「そりゃ、そうですよね。普通に考えりゃ、ちゃんと就職するか、大学行きますよ。ドラムだったやつは、実家が普通の家だったので、大阪の専門学校に行きました。自分はしばらくは1人で音楽をやろうと」  丸山さんはより高い時給を求めて、次々にアルバイト先を変えた。居酒屋の店員から、接待行為を行う違法なガールズバーの従業員、さらにクラブの黒服になった20歳の時には、もう音楽のことは忘れていたという。 「酒、好きですね。どれだけ飲んでも、酔っぱらわないんですよ。いや、酔っぱらっているかもしれないですけど、それでも飲めちゃうんです」 和歌山では知られた一族の、不動産業の女性の「特別な相手」に  ほどなく、丸山さんに人生を変える出会いが訪れた。 「クラブで黒服をやっている時に、不動産業の女性とお付き合いさせてもらいました。彼女の家は、お祖父さんの代からの不動産屋さんで、和歌山では知られた一族です」  当時、丸山さんは21歳、女性は50代で婚姻歴はなかった。 「背がね……控えめというか、すごく小柄でした」  新内のすべてのホストクラブが彼女を歓迎していたが、その財布の幸運に与かれる店はごくわずか。そんな中、女性と接するプロフェッショナルではない丸山さんが選ばれたというのだ。 「仕事の後、可愛がってもらっていた高級中華屋さんで、1人で飯を食っていただけなんですけど」  彼女は店の常連で、その晩もホストや取り巻きを連れて現れた。 「皆、けっこう酔っぱらっていて……しばらくしたら、彼女がめちゃくちゃに怒り出して、ホストとかを店から追い出したんです。それで、彼女が1人になって」  すると店のオーナーシェフがやってきて、こっそり丸山さんに声を掛けた。彼女のもとに、マンゴープリンを運んでほしい。 「自分はお盆にプリンを載せて運んだだけで、そんな余計なことを話したりはしなかったんですけど」  なぜか丸山さんは、彼女のお眼鏡に適い、しばしば呼び出されるようになった。そして取り巻きに埋没することなく、1か月も経たずに特別な相手になったそうだ。 「肉体関係はあったといえば、ありました。でも勃たないですよ……だから薬をのんだりして。テンションの振り幅はあっても、基本的にはいい人だったと思います。ただ、自分的には1年ちょっとで、もう限界でした」  丸山さんはその1年ちょっとの間に、彼女のお金で車の免許を取り、誕生日にはきちんと名義変更した車をもらった。 3か月も経たずに終わったホスト見習い生活  ある日、丸山さんはその中古のアウトバックで夜逃げするように東京へ向かい、歌舞伎町の見習いホストになった。誰の紹介でもなく、SNSを介して自分で店に連絡したのだという。 「面接してくれた幹部の人は親切だったし、1か月4万円の寮費以外にはお金もかからないので、けっこういいかなと思って」  しかし、見習いホストの仕事は、丸山さんが想像していたよりはるかに過酷なものだったそうだ。 「ホストって、人を楽しませるのが仕事じゃないですか。だから音楽とか映画とかにも詳しくて、もっと遊んでいるのかと思ったら、全然そうじゃなくて、びっくりしました。真面目っていうか、店にいない時でも、ずっとお客さんにLINEか電話してるんですよ。ヤバくないですか」  ヤバいかどうかは知らないが、ナイトビジネスとして成功を収めているホストは真面目というか、マメな人が多い。マメでなければ、数多の女性と同時並行で疑似恋愛することはできないだろうし、幸福な気持ちにいざなうことも難しいだろう。  歌舞伎町は、大きく打てば大きく響き、小さく打てば小さく響く。要は、本人がどれぐらいのめり込めるか。その態度次第で見える世界がまるで変わる不思議な場所なのだ。  丸山さんはさっと表面を撫でただけで、ホストの世界を軽く見てしまった。人生を賭けている仕事を軽く見られた者たちは、当然ながら丸山さんを歓迎しなかった。そんなわけで、彼のホスト見習い生活は3か月も経たずに終わった。 「困っているなら仕事あるよ」 「寮を出なくちゃいけなくなったので、車を売ったんです」  短いホスト暮らしの間、和歌山から乗ってきたアウトバックを無償で庭に置かせてくれたのは、君津(千葉県)の工場に就職していた高校の同級生だった。 「うーん友達かな、知り合いですかね。すごい親切にしてくれて。とりあえず、まだ東京にはいたかったので、中野にある家賃5万円のアパートに入りました。保証人は、お母さんに頼みました。一応、会社員なんで、それで大丈夫だったんです。やっぱり、音楽やりたいなと思って、車がけっこういいお金になったんで、ギター買って。新宿の甲州街道沿いのところで、久しぶりにストリート・ライブをやったんです」  すると演奏に立ち止まってくれた人がいた。 「自分よりは年上に見えました。20代後半ぐらいかな。ちゃんとスーツ着て、あっでも、靴は紫色でしたね。いろいろ話したら、『困っているなら仕事あるよ』って」  紫色の靴を履いた男は、丸山さんをタクシーに乗せて百人町の雑居ビルに連れて行った。  デリヘルで働く女性たちの待機所の奥、衝立で仕切られたスチールデスクに座っていた若い男は「女性向け風俗店の店長」だと名乗った。 (第2回に続く)

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