100年の時を超えて|Aston Hill Climb Centenary

イングランド南東部・バッキンガムシャー州の町、Aston Clintonにおいて、1925年に幕を閉じた「Aston Hill Climb Race」の100周年を記念するAston Hill Climb Centenaryというイベントが開催された。町を挙げての開催にイギリス国内から多くの来場者が詰めかけた。チケットはすでに2週間前に完売するほどの人気。イギリス人にとってAston Hillはモータースポーツの聖地であり、クラシックカーへの愛情を感じさせるものだった。 同じ月、同じ日、同じ曜日 今回の渡航はパリとイギリスをそれぞれ1日ずつ巡る短期滞在であったが、大里研究所の林理事長にとって得難い経験と大きな実りを得る機会となった。特にイギリスで参加した「Aston Hill Climb Centenary Event」は忘れがたい出来事となった。このイベントにおいて、林理事長が8年前から英国で保管・管理している1923年製Aston Martin「Cloverleaf」が大役を担ったのだ。この車両は現存する車で、唯一1924年Aston Hill Climb Raceで表彰台に立ったマシンである。今もなお走行可能な状態を保っていることは奇跡的であり、今回のイベントではその稀少性と歴史的価値からも注目の的となった。 1924年5月17日土曜日、Cloverleafはブガッティを相手に見事2位に入賞。優勝はAstonMartin創設者であるライオネル・マーティン自身が駆る同型車であったが、彼の車両はすでに失われて久しい。ゆえにCloverleafは、歴史の生き証人として、今回の記念すべきイベントにおいてもポスターに採用されるなど、大変光栄な扱いを受けた。 特筆すべきは、今回のイベントが開催された日付である。2025年5月17日、それは1924年とまったく同じ、5月17日の土曜日であった。Cloverleafは、101年前と同じ道を、同じ季節の風を感じながら再び走ることとなったのである。イベント当日は快晴で、気温は摂氏20度前後。爽やかな英国の風が心地よく、朝8時から1901年〜1927年製の戦前車70台が、Aston Clintonの市民センター駐車場に集結した。クラシックカーたちのエンジン音が響く中、車両は年代順に1 台ずつラリー形式でスタートしていった。沿道にはAston Clinton小学校の児童たちが、ハンチング帽とツナギ姿で声援を送り、町全体が祝祭の空気に包まれていた。 Aston Clinton小学校の生徒が全員つなぎとハンチング帽でこのイベントを盛り上げてくれた。 先生の前で緊張している生徒。 参加車両はAston Clinton市内を巡り、緑まぶしいAston Hillへ。100年前とほとんど変わらぬ風景の中を走る感覚は、まるで時を超えたかのようであり、乗っていたのがCloverleafであったからこそ、その時間旅行はより深い意味を持っていた。登坂を終えた先には、広大な芝生のフィールドが広がっていた。そこでは各車がコンクール形式で展示され、すでにメーカーごとにオーナーズクラブが待機していた。出店されたキッチンカーでは、イギリス伝統のFish and Chipsを手に取り、午後のひとときをゆったりと楽しんだ。 Land Rover OfficialカメラマンNick Dimblebyも1977 Range Roverで駆けつけてくれた。 原点たるAston Hill この日、Cloverleafの元には特別な訪問者があった。Aston Martin Owners Clubの会長、そして創業者ロバート・バンフォードのご令孫が駆けつけ、100年を越えるブランドの歴史と現在をつなぐ出会いとなった。 Aston Martin創業者の一人Robert Bamfordのお孫さんJohn Paul Jacquesが会いに来てくれた。 また、今回のイベントポスターを手がけた画家メアリー・キャッサリーとも対面し、原画を日本へ送ってもらうこととなった。 Aston Hill Climb Centenary EventのポスターにCloverleafを描いたMary Casserley(画家)と会え原画を日本へ届けてくれた。 さらに、特別な出来事がもう一つあった。かつてAston Hill Climb Raceのゴール付近にあったロスチャイルド家のマナーハウスは、当時、レース後のホスピタリティ・パーティの会場として使われていた。現在は異なる所有者が住んでいるが、その好意により、Cloverleafを100年前と同じようにハウスの前に停め、記念撮影を行うことができたのだ。 現在も100年前と変わらぬ風景が広がる。 かの有名なAston Hill 頂上のゴール近くに作られたMonument。 かつてロスチャイルドがレース後パーティを開いたAston Hillゴールエリアにあるマナーハウス現オーナーNick and Margaretが敷地を案内してくれた。 またAston Martin Lagonda Ltd.は、100周年記念に合わせた特別フィルムを制作。5月17日当日の朝、世界同時に映像を公開するという粋な計らいもあった。ブランドの歴史に寄り添いながら現代と未来を見据える姿勢に、深く感銘を受けた。 今回のイベントのもうひとつの成果として、「Aston Hill Climb Race」の歴史を体系的にまとめた初の書籍『The Motorsport History of Aston Hill』が刊行された点も特筆に値する。これまで記録が乏しかった同レースの歴史を、主催者であるマイク・スタート氏とスティーブ・エイカーズ氏が丹念に調査・編集し、この100周年を機に世に送り出したものである。 今回のイベントのOrganizer(左)Steve Akers(右)Mike Stark。 Aston Clinton小学校の生徒が作ったAston Hill Climbのジオラマの前でSteveたちが書きあげたAston Hillの歴史書を受取る。 実はAston Hillは、英国におけるモータースポーツ文化の発祥の地のひとつである。かつてはロスチャイルド家がスポンサーとなり、W.O.ベントレー、H.F.S.モーガン本人たちがレースに参加。タルボ、アルヴィスといった英国を代表する車と競い合った聖地であった。世界的クラシックカーコレクターであり、ピンクフロイドのドラマーとして知られるニック・メイソン氏もこの事実に驚き、「自分の原点がこの地にあるとは」と感慨深げであったという。 大里研究所は、Aston Martin Racingのオフィシャルパートナーとして20年にわたり歩んできた。その節目に、このような歴史的イベントに関わり、Cloverleafと共に100年の時を超える旅を果たせたことは、理事長の林氏個人としても、また日本人としても、大変光栄であり、幸福な出来事であったことは間違いない。 Aston Martin Trustのテント。最古のAston Martin A3の展示をImmun'Âge®がスポンサー。 歴史とは、単なる記録ではない。人々の情熱と記憶が織り成す時間の層であり、そこに生きた存在を通してこそ、真に実感できるものである。Cloverleafの咆哮が丘を駆け上がった瞬間、私は確かに、その”時間の鼓動”を聴いた。そして、100年の時を越えて、風は再び、あの丘を吹き抜けていった。 文:大里研究所 写真:Osato Research Institute(ORI) Words:Osato Research Institute Photography:Osato Research Institute(ORI)

もっと
Recommendations

日産「新型スポーツセダン」登場は? 高級×スポーティがウリだった「セドリック/グロリア」最新e-POWER&プロパイロット搭載で復活に期待!?

ネット上では「日産に復活させて欲しい車種」として名前が挙がっている

2025年版 自動車専門誌が選ぶ、最高の小型車 10選 スタイリッシュで気楽な都市生活の相棒

街乗りにぴったりなコンパクトカーデザイン、実用性、乗り心地など、…

ジャガー240のこまごました問題に対処|『Octane』UKスタッフの愛車日記

『Octane』UKスタッフによる愛車レポート。今回は1968年ジャガー240に…

イモトアヤコ、愛車の“600万円超え”「“高級”ハイエース」を“満喫”し話題に! “爆買い”もした「最高の1日」に「おしゃれ」「最高すぎ」の声も

イモトアヤコ、車中泊キャンプ大満喫の様子に反響!タレントのイモ…

レクサス新「LBX」用マフラー登場! 存在感際立つサウンドを楽しめるエキゾーストシステム「トムス・バレル」発売!

LBXの個性に寄り添うこだわり抜いた逸品!トムスはレクサス「LBX MO…

348万円! “旧車顔”のダイハツ「軽バン」実車公開! 俊足&超快適な「どこでも車中泊」仕様? ゴードンミラー「GMLVAN S-01リミテッド」登場

40台限定の特別仕様車を出展2025年6月27日から29日まで、幕張メッセ…

約187万円! スバル「25年落ち軽トラ」に反響多数! 「いい車です」「羨ましい」 “サビ凹み”ありなのに「新車価格超え」で驚愕 “埼玉出身”の「農道のポルシェ サンバー」が米で落札

埼玉で使われていた25年落ち「中古サンバー」に驚愕の声アメリカの…

アメリカのオークションで2000年式のスバルの軽トラックが約187万円で落札

埼玉で使われていた25年落ち「中古サンバー」に驚愕の声アメリカの…

コルベットやカマロなど235台が集結!『シボレー・ファンデイ2025』富士スピードウェイで開催

今年で5回目を迎えたシボレーのファンイベントゼネラルモーターズ・ジ…

トヨタの「“7ドア”ミニバン」! 全ドアヒンジ&豪華「ソファ」内装を採用! 8人乗りのながーーい感あるラウンジマシン! トヨタ米国のF3Rとは

ドアが7枚!? トヨタの"F3R"とは自動車メーカーが未来のモビリティを…

loading...