「斜陽」ヒロインの著書「斜陽日記」、太宰治の娘が復刊…「太宰と母の関係の真実が伝われば」

自著との合本で  文豪・太宰治の娘で、小田原市出身の作家・太田治子さん(77)が6月、「明るい方へ 父・太宰治と母・太田静子/斜陽日記」(ちくま文庫)を刊行した。  編集者からの呼びかけがきっかけで、絶版となっていた太田さんと、母・太田静子さん(1913〜82年)の著書2冊を合本し、1冊の本としてよみがえらせた。太宰の代表作「斜陽」の背景がうかがえる作品となり、太田さんは「太宰と母の関係の真実に迫れる」と本に込めた思いを語った。(矢舗怜央奈) 母からの宿題  今回出版されたのは、太宰の愛人だった静子さんが1948年に発表した「斜陽日記」と、2009年に出版した太田さんが両親について書いたノンフィクション「明るい方へ 父・太宰治と母・太田静子」の合本。太宰と太田さんのファンだった筑摩書房の編集者、牧野輝也さん(53)が昨年、「『明るい方へ』という名作をよみがえらせたい」と太田さんに提案したことが始まりだった。「『斜陽日記』と合わせ、一つの本にまとめることで『斜陽』をより多角的に理解できる」と太田さんを説得し、出版にこぎ着けた。  「斜陽日記」は、太宰に勧められて書いた静子さんの日記。戦後没落していく華族を描いた「斜陽」の下敷きになった。「斜陽」では、生活に困窮したヒロイン「かず子」が、太宰自身を投影した妻子持ちの小説家「上原」に恋し、子を授かる話が描かれる。「かず子」とその子供は、それぞれ静子さんと太田さんがモデルとされる。  「明るい方へ」は太田さんが静子さんから聞いた太宰の話などを基に、初めて両親について書いたノンフィクション。静子さんは生前、太宰との恋を赤裸々に綴った小説を出版したが、「太宰の愛人」の書く小説は批判の的になった。静子さんが亡くなる前、「『私の代わりに真実を書いてほしい』と宿題を出された」という太田さんは、同書の中で2人の関係を客観的に分析した。 両親と向き合う  女手一つで育てられた太田さんは、3歳の頃まで、2人で「斜陽」の舞台になった小田原市下曽我地区の「雄山荘」で暮らした。静子さんは小説家を目指したが生計を立てられず、40歳で初めて仕事を探した。  病弱なうえ、未婚の母という理由で就職先は見つからず、親戚を頼って東京都内の倉庫会社の食堂に勤めた。水蜜桃のようにきれいだった手が、ゴボウのあくで黒くなるまで働いていた。  静子さんは生前、「みんなにいい顔するのは太宰と一緒だ」と太田さんを叱ったことがあった。太宰のことを語って泣き始めることもあり、太田さんは「両親について考えるのはつらかった」と顔を曇らせる。  約20年前、「そろそろ母からの宿題に取りかからねばならない」と感じた太田さんは「明るい方へ」の執筆を決めた。静子さんが残した手帳を開くと、「あの男は正直で、真っ直ぐであった」と書かれたメモが出てきた。「実は、母は最期まで太宰を愛していた」と気づいた。  ずっと避けていた「斜陽」と「斜陽日記」も初めて読んだ。「斜陽」には、日記の言葉や静子さんの性格がそのまま描かれていた。「父も母に惹(ひ)かれていたからこそ、『斜陽』を書いた」と確信出来た。「明るい方へ」の執筆は耳鳴りがするようなつらい時間だったが、両親と向き合えた証しでもあった。 当初は迷いも  太田さんにとって今回の出版は思いがけないことで、当初は迷いもあったが、終戦80年の今年だからこそ、戦後を未婚の母として生き抜いた太田静子の「斜陽後」の人生、太宰との関係の「真実」が伝わればと思うようになった。太田さんは、あとがきで、つづった。「きっと、母は空の上で今回二人の書いたものが合わせてちくま文庫になることを、喜んでいるのに違いない」

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