前回記事【「クスリを飲んでも血圧が下がらない」それは飲み合わせの問題かもしれません！「降圧剤×痛み止め」「睡眠薬×抗生物質」など意外と知らない「危険なクスリの飲み合わせ」一覧】より続く。 「頻尿のクスリ」で認知機能が低下する 日本老年薬学会が昨年、「抗コリン薬リスクスケール」という資料をまとめた。そこには、降圧剤のニフェジピン（商品名アダラートなど）や、アレルギー薬のフェキソフェナジン（商品名アレグラ）、胃薬のファモチジン（商品名ガスター）など、多くの人が飲んでいるクスリの名前が並ぶ。 近年、これらの「抗コリン作用」のある一群のクスリが、「高齢者の認知症のリスクを高める」として、医学界で問題視され始めているのだ。どんなクスリのことなのか。薬剤師の堀正隆氏が解説する。 「脳神経や内臓、筋肉など、全身で神経伝達物質として機能している『アセチルコリン』の作用を抑えるクスリです。 年をとると、アセチルコリンのはたらきが低下してゆき、それが認知症の一因になるとも考えられています。そこへ抗コリン作用のあるクスリを服用すると、さらに脳のはたらきが鈍くなって、せん妄や認知機能低下を招いたり、認知症のリスクを高めたり、認知症を進行させたりしてしまうのです」 人が変わったように怒りっぽくなった。家族など身近な人の顔を見ても、反応が薄い。何も異状がないのに、救急車を呼ぼうとする……。こうしたおかしな行動をとり始めた人が、じつは長年抗コリン薬を飲み続けていた、というケースも珍しくないのだ。 市販薬にも注意が必要 抗コリン薬は特定の病気だけのクスリではないため、多くの患者が知らず知らずのうちに使っている。しかも一見、認知症とは関係がなさそうなクスリもたくさんある。 たとえば近年、売り上げが大きく伸びている、過活動膀胱治療薬のプロピベリン塩酸塩（商品名バップフォー）。膀胱などの内臓の動きにも、アセチルコリンがかかわっているが、高齢者が抗コリン薬を使うと、脳の中のアセチルコリンまでもが、うまく機能しなくなってしまう。 「加えて高齢者では、脳に流れ込む血液の関所『血液脳関門』も衰えるので、若い人よりも脳内のクスリの濃度が上がりやすく、副作用が出やすくなります」（たかせクリニック理事長・高瀬義昌氏） 注意するべきは、処方薬だけではない。抗アレルギー薬で抗コリン薬であるプロメタジンは、市販のかぜ薬に配合されていることがよくある。 「歴史が古い『第一世代』の抗アレルギー薬は、抗コリン作用が強いとされます。クロルフェニラミンマレイン酸塩やジフェンヒドラミン塩酸塩も、かぜ薬に含まれていることがあります」（前出・堀氏） 「まったく飲まない」は難しいが… また、多くの医師や薬剤師が口を揃えて「注意すべき」と言うクスリが、睡眠薬だ。東京慈恵会医科大学教授の志賀剛氏もこう語る。 「特に、トリアゾラム（商品名ハルシオン）やエチゾラム（商品名デパス）など、抗コリン作用がある睡眠薬を処方するとき、私は患者さんに『記憶力が落ちます』『認知障害が出るかもしれません』と、はっきり伝えるようにしています」 抗コリン薬は、多岐にわたる病気で処方されるため、まったく飲まずにいることは難しい。対策はあるのか。 「アレルギー薬と睡眠薬など、複数の抗コリン薬を併用したり、漫然と飲み続けるのは好ましくありません。副作用を最小限におさえるために、使い方を定期的に見直すことが大切です」（前出・堀氏） いま飲んでいるクスリが該当しないかどうか、チェックしておこう。 【漢方薬の「血圧が上がるリスク」をご存じですか？ 血圧を乱高下させかねない「要注意のクスリ」実名を公開する】へ続く。 「週刊現代」2025年07月07日号より 【つづきを読む】漢方薬の「血圧が上がるリスク」をご存じですか？ 血圧を乱高下させかねない「要注意のクスリ」実名を公開する