出会う楽しさ、続く縁…宇都宮のハイカー 田所学さん 48

 2020年に初めて石巻市(宮城県)を訪れたとき、友人に案内されて日和山という小高い丘に登った。  頂上から鳥居越しに見えたのは、何もない野原と静かな海。かつて街があったというその場所に、人の営みの痕跡はなかった。  この風景を目の当たりにした瞬間、自分がどれほど震災から目を背けてきたかを思い知らされた。今からでも何かできないか、そんな焦りにも似た思いの中で出会ったのが、日和山の傍らを通る「みちのく潮風トレイル」だった。  その憲章には「震災をいつまでも語り継ぐための記憶の道」と記されている。私にできるのは、歩き、食べ、呑(の)むことくらい。それでも、それらの小さな行為が、みちのくに暮らす人々やハイカーたちとの出会いや対話を生み、縁をつないでくれた。  地酒や海の幸に舌鼓を打ちながら「ここまで歩いてきました」と話せば、地元の人々とも自然に打ち解けることができた。別れ際に「歩き終えたら、また戻ってきます」と約束した地も数えきれない。出会ったハイカーたちとは、初対面でも旧友のように語り合い、やがて同志のような存在になっていった。1025キロ・メートルを歩き終えた今も、これらのかけがえのない縁は続いている。  当初は、ゴールである蕪島(青森県)にたどり着くことが最大の目的だった。ところが蕪島を目指して歩き続けるうちに、いつしか私は、歩くプロセスやそこでの出会いに楽しさを感じるようになっていた。単なる宿泊場所でしかなかった野営場は、波音に耳を澄ませ、星空を眺めながら、豊かに生きるとは何かを考える場所へと変わっていった。踏破のために歩くという目的から解き放たれたときに初めて、歩くことと生きることが一つに溶け合ったような感覚がもたらされたのである。  この感覚を抱きながら、私はこれからも、重ね塗りするようにみちのく潮風トレイルを歩き、縁を紡いでいくのだろう。

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