暑すぎて来ない客をどう呼ぶか 300万個ヒットも出た「酷暑」のコンビニが売るもの

 近年の夏の暑さは、われわれの生活様式を大きく変えた。そうなると「最も身近な小売店」であるコンビニもまた、変化を避けられない。あまりの暑さで客が来ない——そんな今夏に、各社は何を売り込もうとしているのか。元ローソン勤務で消費経済アナリストの渡辺広明氏が取材した。  *** 【画像】コンビニ各社が酷暑の今夏に売る商品…意外な「戦争」が勃発中!?  梅雨の最中にもかかわらず、首都圏では酷暑が続いた。梅雨明けをした後も、ここ数年は9月中旬まで暑さが続くのが当たり前になっている。  ヨーロッパでは、40度を超える猛暑が相次いでいて、ポルトガルやスペインでは46度を記録した地域もある。ギリシャなどでは山火事が多発し、フランスでは1,900校が休校、イタリアでは建設現場や農業の作業を禁止した州も現れた。スペインでは水温が上がったせいで冷却水が確保できず、原発が停止するという想像を超える事態も起きている。今後、日本でも同じような状況が起こっても不思議ではないだろう。 ファミリーマート京急川崎駅前店で素晴らしいサービスが…!  1990年から3年半、ローソンで店長を務めていた当時、筆者は「毎日猛暑になればいいのに」と思っていた。気温が上がるのに比例して飲み物やアイス、冷やし麺の売上が伸び、涼みに来た客が、冷たい飲み物に加えて「ついで買い」をしてくれる。直営店だったので、売上記録が更新されれば、店長としてのボーナスや昇進や昇給にもつながるからだ。  しかしコンビニのオーナーのみなさんたちに話を聞くと、近年は状況が以前とは異なってきているという。あまりに暑すぎるため、外出自体を控える人が増え、店に来なくなっているのだ。コロナ禍を経てテレワークやオンライン会議が定着し、外出の必要がなくなっている背景もある。 40歳以上の男性が購入者の7割を占める商品  かつてほどコンビニにとっての追い風になっているわけではない「猛暑」だが、それでも売り上げ増になっている商品がある。「日傘」だ。ローソンの晴雨兼用折りたたみ傘の主力商品の購入者のうち、約4割が男性であり、その男性のうち約70%が40歳以上というデータもある。とくにアウトドアブランドの「コールマン」とのコラボ商品は、おしゃれ界隈でも話題を呼んでいたようだ。  街中を歩くと、ハンディファン(小型扇風機)を顔にあてている若い女性と並んで、日傘を差す男性の姿も目立つようになった。数年前は「美容男子」がUVカット目的で日傘を使うことが多かったが、最近では熱中症予防のために直射日光を避け、体温上昇を抑える「日傘親父」が増えている。日傘は“上流階級の貴婦人”のものというイメージは、もはや過去となったと言えるだろう。 川崎のファミマで驚きのサービス  冷房の利いた店内を提供してくれるだけでもありがたいコンビニだが、ユニークなサービスを行っている店舗も見つけた。川崎の商談時に立ち寄ったファミリーマート京急川崎駅前店で、なんと"冷凍おしぼり無料配布中"という企画を行っていたのだ。思わず吸い込まれ、飲み物とファミチキを買ってしまった。この酷暑では秀逸な集客企画である。経営面で考えても、配布されるのは使い捨てのおしぼりで、1個あたり平均で1.5円程度。かなりコストパフォーマンスの高い集客策だと感じた。 じつは今夏勃発している「戦争」が…!  ちなみに購入したファミチキは、6月末から発売され、1週間で300万食を売り上げたという「ファミチキレッド」である。これは、ローソンのUber宅配などのサービスでは人気トップ3に入るロングセラー「からあげクンレッド」に対抗する商品といえるだろう。新商品ではないものの、セブン-イレブンも6月半ばから「ザクチキ(魅惑のうま辛)」のリニューアルを行っており、今夏、「コンビニ鶏のレッド戦争」が勃発しているのだ。  なぜ、各社は辛系に力を入れるのか。前提として、先述のとおり酷暑によって人の移動が減るため、キャンペーン企画や品揃えが集客のためにより大事となる。そして「発汗によるクールダウン」「食欲増進」「うま辛トレンド」「刺激を求める消費者心理」などが複合的に作用して、辛いものへの注力につながっているといえる。  また最近の市場では、“痺れる”タイプの辛さも流行中で、セブンでは「麻辣湯」や「麻辣湯麺」商品を中心に定番化してきている。花椒の痺れる辛さと唐辛子の刺激が、夏の食欲不振や暑さ対策に適しており、特に若年層や辛い物好きから高い支持を得ている。セブンでは、お店で揚げるカレーパンや、蒙古タンメン中本とのコラボ商品をかねてより販売しており、辛さの多様性には一日の長があるといえるかもしれない。  それ以外の各コンビニでも、韓国料理やタイ料理など、エスニック系の品揃えも充実してきている。筆者がローソンの店長をしていた35年前、売り場にある辛い商品といえば、からあげクンレッドか湖池屋のカラムーチョくらいしか思い出せない。マクロの視点でいえば、地球が徐々に沸騰化していく過程で、店頭に辛系商品の品揃えが増えていった……のかもしれない。 秋以降への不安も  酷暑商戦にのぞむコンビニ各社だが、秋以降の商品展開には不安もある。雨不足と高温障害で野菜が枯れる被害があり、生鮮を扱うスーパーほどではないにしろ、中食や加工食品の価格上昇に影響する可能性があるからだ。  コンビニに限らずだが米の価格も気になる点だ。稲は7月下旬から9月初旬までの気温が高いと、米粒が小さくなったり白く濁ったりして、見た目や味、品質が落ちるほか、収穫量が減るという。そうなればコンビニおにぎりが200円を超えるのが当たり前になる可能性もある。  酷暑はさまざまな複合的な変化を社会にもたらす。今後は、われわれがこの暑さと寄り添って生活しなければならなくなる時代だ。そうした変化にどうコンビニが対応し、新しい商品を開発し、どう顧客の利便性を高めていくのか注目だ。  筆者自身は、毎日コンビニで赤城乳業の「ガリガリ君」(税込86円)を買い食いしながら、この酷暑をなんとか乗り切ろうと思っている。 渡辺広明(わたなべ・ひろあき) 消費経済アナリスト、流通アナリスト、コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務などの活動の傍ら、全国で講演活動を行っている(依頼はやらまいかマーケティングまで)。フジテレビ「FNN Live News α」レギュラーコメンテーター、TOKYO FM「馬渕・渡辺の#ビジトピ」パーソナリティ。近著『ニッポン経済の問題を消費者目線で考えてみた』(フォレスト出版)。 デイリー新潮編集部

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