こういう大河を待っていた! ぷっと笑えてハッとさせられる「べらぼう」の飽きさせない面白さ

 戦国と幕末、武士の世界に偏り過ぎだった大河。徳川家が築いた平和な江戸で、自由闊達な文化人の生き生きとした物語が見たいと思っていたから「べらぼう」に大満足だ。しかも女郎の恨みつらみに悲喜こもごもが渦巻く吉原が舞台。江戸市中から忌み嫌われ、蔑まれている吉原の人間が、日本一の版元を目指して奔走する。絵師、彫師に摺師、狂歌師に戯作者と、文化人が次々登場し、主人公・蔦屋重三郎をもり立てていく。奔放な江戸庶民の娯楽と流行も知ることができるし、江戸時代特有の色艶案件、要は下ネタも絶妙に品よくアーティスティックに表現されるので拍手喝采だよ。こういう大河を待っていたので、ありがた山の寒烏。 【写真を見る】小芝風花“瀬川”が去り… 横浜流星“蔦重”の妻となったのは?  蔦重を演じる横浜流星のべらんめえ調もいい。軽やかさの奥に、熱い芯を感じさせる。自分を拾って育ててくれた遊郭の町・吉原に、誇りをもって恩返しをしたい。自分を救ってくれたような面白い本を作りたい。直情径行だが、相手の懐に無邪気に、時に策を練って飛び込んでいく姿が爽快だ。 横浜流星  同じく吉原で拾われ、紆余曲折を経て、絵師となった喜多川歌麿。凄絶な幼少期と絶望の青年期を経て、蔦重と吉原の人々に救出された難役を染谷将太が名演。やりたいことが山積みの蔦重を、天才だが無欲の歌麿が傍らで支える、最高の相棒という構図だ。あ、もう一人、蔦重の義兄・次郎兵衛(中村蒼)も無双の存在。劇中では抜け感No.1である。 「べらぼう」(NHK総合、日曜20時〜)(C)吉田潮  蔦重と志同じくして、相思相愛でもあった花魁の瀬川(小芝風花)が去り、蔦重に版元になる夢を授けた平賀源内(安田顕)も非業の死を遂げた前半。蔦重のソウルメイトの退場が相次いだところで、妻となる“てい”(橋本愛)が満を持して登場!  本を愛する気持ちでつながる二人を心から祝福しとる。  才能豊かな絵師や戯作者など、文化人の信頼を集め、着々と版元としての礎を築く蔦重。吉原プライドを胸に、目下の敵は鶴屋喜右衛門(きえもん・風間俊介)率いる市中の本屋連中だ。吉原を、いや蔦重を目の敵にする由緒正しき本屋たちに、出版物も日本橋への進出も、ことごとく阻まれて地団駄を踏む。  由緒正しき人に蔑まれるのは蔦重だけにあらず。もう一人の主役が田沼意次(渡辺謙)。足軽出身、第10代将軍・徳川家治(眞島秀和)に重用され、今や老中にまで上り詰めた。そう、吉原の他にもう一つの舞台、幕府が用意されているのだ。  意次は赤字財政を立て直すべく、悪手も含めて、あの手この手を尽くしてきた。前半では幕臣からいじめられていたが、派閥を固めて権力者に。ただし田沼さんちの悲劇はこれからが本番だ。嫡男の意知(宮沢氷魚)を待ち受けるのは因果応報とも。  二つの舞台がかすかに接点をもち、庶民の明るさと小気味よさ、政(まつりごと)を司る人がまとうきな臭さと血なまぐささが適宜織り込まれる。ぷっと笑える面白さとハッと息をのむ面白さで飽きさせない。  地口や狂歌に江戸っ子の機知を感じたし、揶揄も皮肉も文化の一つ、江戸は成熟した豊かな時代だったなと痛感するよ、尻穴も視野も狭窄した令和と比べて。 吉田 潮(よしだ・うしお) テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。 「週刊新潮」2025年7月10日号 掲載

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