【詳報】“ルフィ”グループ幹部が語った組織の実態「雑用のエースだった」「僕は最高に使いやすい駒」末端からトップの“右腕”のような存在に…(前編)【#司法記者の傍聴メモ】

全国で相次いだ“ルフィ”グループによる強盗事件。グループの幹部では初めての裁判が7月から始まった。法廷に立ったのは小島智信被告(47)。自らを「最高に使いやすい駒」と話し、グループでは特殊詐欺で得た現金の回収を指示していたほか、トップの渡辺優樹被告から様々な雑用も任されていた。組織の末端からトップの“右腕”ともいえる存在にまでなった小島被告。裁判で語った“ルフィ”グループの実態とは。【前後編の前編】 ■“ルフィ”グループ幹部の初の裁判「間違いありません」全ての起訴内容認める 7月1日に東京地裁で行われた初公判。傍聴席が満席となった法廷に立ったのは、白のシャツにグレーのスエット姿の小島被告。フィリピンから強制送還された時と比べて体はやせ、日焼けしていた肌も白くなっていた。 3つの強盗事件で実行役を指示役に紹介した罪や10人に対する特殊詐欺に関わった罪について、裁判長から11回に分けて起訴内容を認めるか問われると、1つ1つに「間違いありません」とはっきりと答えた。 特殊詐欺のほか、2022年から全国で相次いだ強盗事件を指示したとされる“ルフィ”グループをめぐっては、幹部として渡辺優樹被告、今村磨人被告、藤田聖也被告の3人も起訴されているが、3人の裁判が始まるめどは立っていない。 今回、幹部では初めて開かれた裁判。まずは強盗事件を起こす前の特殊詐欺事件に関する審理から始まった。小島被告は2日間かけて行われた被告人質問で、グループの実態や自身が末端から幹部となるまでの経緯を詳細に語った。 ■借金返済のためフィリピンへ 「今井」名乗り“かけ子”生活始まるも… 北海道室蘭市で生まれた小島被告。商業高校を中退した後、父親が再婚して家庭環境になじめなくなり、16歳の時から住み込みで牧場で働き始めたが、その後は日雇いの仕事をするなど職を転々としていたという。 特殊詐欺に手を染めるきっかけは先輩からのある誘いだった。2018年の春頃、「一緒に仮想通貨に投資しないか」と誘われ、300万円を借りて投資したが失敗し、借金だけが残った。金を借りた人物から「受け子か、かけ子をして金を作れ」と迫られた小島被告は、「手首まで入れ墨をいれていたので受け子は無理」と考え、ウソの電話をかける“かけ子”をすることを決断。この時、紹介された特殊詐欺グループのトップが渡辺被告だった。 2018年の夏、小島被告はフィリピンに向かった。グループのメンバーから案内されたのは、タワーマンションの一室。渡辺被告のグループが特殊詐欺の拠点とする場所の1つだった。メンバーの数は20〜30人ほど。小島被告は特殊詐欺の手口が書かれたマニュアルのほか、メンバー間の連絡用の携帯電話とウソの電話をかけるための携帯電話を1台ずつ渡され、かけ子としての生活が始まった。グループでは「今井」という偽名を使った。過去にテレビ番組で放送された「詐欺撲滅のイマイ」が由来だという。 平日は毎朝8時から朝礼が始まり、インターネット上の有料の住所録を渡され電話をかける地域を指示されたという。しかし、小島被告には“人をだます才能”がなかった。「緊張もあってうまく話せず、だませている自信もなかった」という。かけ子の主な報酬は被害者からだましとった額の5〜10%。“成果”がないと報酬はなかったため、小島被告は渡辺被告に借金をして生活していた。 ■渡辺被告の「雑用係」に…闇バイト募集する「リクルーター」として“死亡確認”や“踏み絵”も かけ子として“成果”をあげられなかった小島被告。半年もたたないうちに別の仕事をすることになった。それは渡辺被告の雑用係。「渡辺被告から次のプランについて直接指示を受けていた」といい、指示された仕事を滞りなくすすめようと、小島被告はフィリピンで車の免許を取得した。 雑用係として渡辺被告の元に日々通っていた小島被告。目にしたのはグループトップとしての派手な暮らしぶりだった。渡辺被告はカジノもある高級ホテルのスイートルームに住み、カジノの会員ランクも一番上のマスタークラス。個人執事もつくVIP待遇だった。小島被告は渡辺被告について、「詐欺よりもバカラで稼いだ利益の方が大きく、プロギャンブラーのような生活をしている」と思ったという。 それからほどなくして任されたのが“リクルーター”の仕事。キャッシュカードを盗みATMで現金を引き出す“受け子”を集めるように指示された。小島被告は旧ツイッターを使い「高収入あります」などと闇バイトの募集をし、ひたすら応募者との面接を繰り返した。受け子を採用すると、エクセルのリストに名前や出勤可能な日などの情報を書き込んでいった。受け子が警察に逮捕された場合は“死亡確認”と呼び、赤線で×を入れた。採用する際に現金に似せたメモ用紙を入れたレターパックを運ばせ、開けていないか確認する“踏み絵”という儀式も行っていたという。小島被告は、リクルーターとして多い時で月110万円の給料をもらえるようになっていた。 ■「ウサギ日本語学校」装い特殊詐欺…今村被告も拠点を間借り 2019年の春頃、グループのメンバーは50人近くに増えていた。そのため、首都・マニラの都心にある建物の2フロアを借りて拠点を移すことになった。渡辺被告から指示を受け、小島被告は机やプリンターなどの備品を用意したり、ネット環境を整備したりして事務所の立ち上げに尽力した。 掲げた看板は「ウサギ日本語学校」。多くの日本人が出入りしても怪しまれないように日本語学校を装った。渡辺被告は「詐欺」をモチーフにした「ウサギ」というネーミングを気に入っていたという。 新しい事務所には、今村被告をトップとする特殊詐欺グループも間借りすることになった。今村被告と渡辺被告は以前からの友人だったが、別々のグループのトップとして特殊詐欺をしていたという。ただ、今村被告のグループには受け子や現金回収役がいなかったため、小島被告が渡辺被告のグループから人員を手配していた。 ■小島被告「渡辺被告のために働いて恩返しを…」 きめ細かな仕事ぶりが気に入られ、渡辺被告の“右腕”のような存在になっていった小島被告。この頃、今後の生き方を決めることになる、ある重要な出来事があった。 渡辺被告「今井(=小島被告)を買い取る」 フィリピンで特殊詐欺をするきっかけとなった借金300万円を渡辺被告が全額返済してくれたのだ。借金を返済してくれたことに「ものすごく感謝した」という小島被告。“渡辺被告の足りない部分を補おう。渡辺被告のために働いて恩返しをしようー”こう決意した。 ■組織の“末端”から“現金回収役のトップ”に…給料は固定で200万円 フィリピンに来てから約10か月がたった頃、次に小島被告に任されたのは現金回収チームのトップだった。給料は固定で200万円をもらえるようになったという。その役割は、日本にいる“現金回収役”に指示を出し、受け子がだましとった金を受け取らせてフィリピンに現金を運ぶ“運搬役”に預けさせること。グループの収益となる現金を日本からフィリピンに運ばせるまでの一端を担う重要な役割だ。 運搬役は、渡辺被告のガールフレンドなどが担っていたといい、「渡辺被告が入管の職員に金を払い、手続きをVIP状態にして現金が入ったキャリーケースをX線に通さないように」して、多額の現金をフィリピンに持ち込んでいたという。一度に3000万〜4000万円の現金がフィリピンに持ち込まれることもあった。 また、渡辺被告から「これでうまくやれ」と日本円で約220万円の現金を常時預けられ、経費の精算なども任されるようになっていた。 ■「ここに全員住ませれば捕まらない」約12億円でホテル購入し特殊詐欺の拠点に 次々と特殊詐欺を成功させ、規模を拡大していった渡辺被告のグループ。2019年夏頃、渡辺被告はある構想を実現しようとしていた。 渡辺被告「これ買ったんだよね」 誇らし気な顔で話してきたという渡辺被告に、小島被告は「すごいですね」と相づちをうった。 渡辺被告「ここに全員住ませる。食堂もオフィスもつくる。そしたら誰も捕まらない」 渡辺被告は、廃業した7階建てのホテル1棟を丸々購入。ホテルの一部を事務所に改装し食堂も作ることで、かけ子の生活をホテル内で完結させることを考えたという。日本人が集団で外食に行くことなどにより、周囲から目立ってしまうことを防ぐためだ。購入額は約12億円で、半分は現金で支払い、残りはローンを組んだという。 小島被告はこの時も渡辺被告の指示を受け、建物のリノベーションや備品の調達を担当するなど新たな拠点の立ち上げに尽力した。ここでは約60人のかけ子が特殊詐欺をしながら一緒に生活していたという。 拠点をホテルに移した頃、藤田被告がグループに加入した。元々友人だった渡辺被告に金を借りようとしたところ、「金借りるくらいならここでリクルーターやれば」と誘われたことがきっかけだという。藤田被告はグループに“接触部隊”と呼ばれる新たなチームを作った。受け子を日本で直接面接し、聞き出した個人情報などをもとに特殊詐欺で得た金を持ち逃げしないように脅すチームで、逃げた受け子には実際に制裁を加えていたという。“接触部隊”を作ったことで、金を持ち逃げされることがほとんどなくなった。実績を評価された藤田被告は、わすが数か月でリクルーターチームのトップとなった。 この頃、多い時には月に2億円以上を特殊詐欺で稼いでいたという渡辺被告のグループ。しかし、2019年11月かけ子の1人が日本大使館に通報したことをきっかけに、フィリピン当局がホテルにいたかけ子ら36人の身柄を拘束し、グループは摘発された。当時家にいた小島被告のほか、渡辺被告、藤田被告、今村被告の4人は身柄の拘束を逃れたが、2021年4月までにいずれも入管施設に収容された。 ■“最高に使いやすい駒”だった男「洗いざらい話すのがしょく罪」…強盗事件の被告人質問へ 裁判で、自らが犯した罪について詳細に語った小島被告。経費の精算、メンバーの報酬を計算するエクセルシートの作成、備品や犯行道具の調達、フィリピンに来るかけ子の航空券の手配など様々な雑務もしていたことを明かし、自らを「雑用のエース」「経理のおじさん」「ものすごいマメで渡辺被告にとって最高に使いやすい駒」と評した。グループの“金庫番”だったのかと問われると「組織の金を管理していたことはあり得ない。金を管理していたのは渡辺被告以外いない。渡辺被告は誰も信じていない」と否定した。その渡辺被告に対して、いま何を思うのか。 小島被告「恨みはない。一時的に借金を解消してくれて恩を感じたが、強盗も犯したので渡辺被告にはがっかりしています」 特殊詐欺の被害者に対しては「生活費や貯めてきた大事なお金を奪い、ものすごく反省している」「共犯者のことを洗いざらい話すことが僕の中のしょく罪です」と話した。 一連の強盗事件に関する被告人質問は11日から行われる予定。“しょく罪”を誓った小島被告は何を語るのだろうか。 (社会部司法クラブ記者・宇野佑一)【後編】では強盗事件について小島被告が語った内容を詳報する。 ◇ ◇ ◇ 【司法記者の傍聴メモ】法廷で語られる当事者の悲しみや怒り、そして後悔……。傍聴席で書き留めた取材ノートの言葉から裁判の背景にある社会の「いま」を見つめ、よりよい未来への「きっかけ」になる、事件の教訓を伝えます。

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