「役人は叩くのではなく使いこなせ」 「堂々たる政治」を訴えた大物議員の大いなる遺言

 参議院選挙の争点となっているのが「給付」か「減税」かの問題だ。与党は1人最低2万円の給付を主張。一方、野党の多くは「消費減税」を唱えている。食料品の消費税について立憲民主党は「とりあえず1年間ゼロ」、維新は「2年間ゼロ」、日本保守党は「恒久的にゼロ」。国民民主党は「時限的に一律5%に引き下げ」、れいわ新選組と参政党はさらに突き進んで消費税そのものの「廃止」を訴えている。 【写真を見る】「役人は使いこなせ」と説いた「大物政治家」 祖父母は“教科書に載っている歴史上の人物”  給付か減税かの議論は、そのまま財務省と「反・財務省」との対立と重なるところである。  近年、財務省は「ザイム真理教」「Z」などと称されることもあり、評判は極めて悪い。かつては仰ぎ見られる存在だったのが、今では国民を虐げ、国家を滅ぼす組織であるかのように言う政治家もいるほどである。 第92代麻生内閣  こうした官僚への反発は今に始まったことではない。「悪夢」と評されることもある民主党政権誕生の原動力の一つでもあった。エリートへの反発は多くの人が持つものであり、政治家がそれを利用することは珍しくない。  財務大臣や官房長官などを歴任した政治家、与謝野馨氏は、政治主導の重要性は説きつつ、一方で安易な官僚叩きに警鐘を鳴らしていた人物である。与謝野氏は著書『堂々たる政治』の中で、行き過ぎた官僚バッシングは国家のためにならない旨を説いている。  財務大臣経験者だから財務省に洗脳されていただけ——そう捉えることも可能だろうが、生前、その見識が与野党問わず高く評価されていた人物の意見は、現在の状況を言い当てているようでもある。また、このあと崩壊する民主党政権の行き詰まりをすでに予言していたかのような文章もある。細かいことで役人を追及することの弊害を与謝野氏は指摘していたのだ。 自宅にて。読書家で、パソコンの自作が趣味という意外な一面もあった  以下、『堂々たる政治』から抜粋・引用してみよう(一部編集を施しました)  *** 役人は使いこなすべき  近年、官僚の評判は悪い。それこそ人気取りを考えたら、官僚の悪口を言っておけば安心である。  私自身は、父親が役人をしていたこともあって、今でも官僚に対してはシンパシーを持っており、自分では理解者の部類に入ると思っている。 【耳障りなことを言う。それが私の仕事である。】いま、政治家に不可欠な判断の要諦とは何か、言葉と行動の重さとはいかなるものか。奇をてらわず、耳障りなことでも堂々と語る。文人の家系に生まれ、会社員から政治家に転身、度重なる落選やガンとの闘いまで、生涯を省察しながら、国の将来に深い想いをこめた初めての著書  確かに、役人の中にも行き過ぎている人間はいる。しかし、それでも日本の官僚は、基本的に高い志と使命感を持った人たちだ。  地方公務員の給料が少し高くなり過ぎている点は是正する必要があるが、民間の花形産業と比べて大していいわけではない。我々が付き合う中央官庁の人たちには志の高い人が多い。能力を考えれば外資系あたりに転身して数千万円の年収を稼ぐことも可能な人たちが、一千万円に満たない年収で働いている。 「役人をかばうとは、抵抗勢力だ」「官僚のロボットだ」というのはあまりに短絡的な発想である。役人がいない国家はありえないわけで、そういう人たちをくじけさせるということがいかにマイナスか、自民党はもちろん、民主党の議員ももっと理解するべきだ。  役人は少し褒め、少しおだてて方向性を与え、あとは政治家が責任を取る。そうすれば役人はいくらでも知恵を出すし、いくらでも働く。 汚職をなくすのは不可能  優秀な人たちの能力を活用しなければ、日本国全体として損だ。ずるい言い方をすれば、我々凡人は少々働いて少々遊んでいればよく、優秀な役人たちには遊ばないで働き詰めに働いてもらって、その成果は国民みんなで分かち合う。これが、バッシングするよりも利口なやり方だ。資源を有効に、ということでいえば、役人を最大限活用することが大切である。悪い役人がいたから何でもかんでも叩く、というのは、食品会社が偽装するから何も食わないというのと同じこと。  役人の中には立場を利用して悪いことをする者も出てくるが、この種の汚職は何千年も昔からある。なくすように努力しないといけないけれども、とにかく役人を叩けば解決するという話ではない。全くの無菌状態にできるかといったら、そんなことは不可能だ。人類の有史以来、そんなことを実現できた政府はないし、残念ながら、今後もそんな世界は期待できない。  だから、どこかの役人が汚職で捕まったからといって、一々大げさに嘆いたり騒ぎ立てたりするだけでは知恵がない。  悪い役人を罰するのは当然だが、同時に手柄を立てたほうは誉めるべきだ。つまり、検察、警察に対して「よく捕まえた。偉い」と褒めてやることも大切なのだ。また何か起こると、すぐに制度が悪い、不完全だ、したがって制度の手直しだ、という話になる。これもおかしい。 細かいことを言うな  改造前の安倍内閣(注・第一次政権)は、当時の官房長官も含めてアンチ霞が関色が強くなっていった。そのため「官邸対官僚」といった対立構造になってしまい、関係がいびつになったと言われている。  私が官房長官になってからは、その関係修復に心を砕いた。今は大分改善されてきたと思う。「政治主導」という言葉は「政治家が何から何まで決めます」「細かいことまでやります」という意味ではない。政治主導とは、物事の行く末の方向を指し示すという意味だ。だから、政治家は方向性を間違えてはいけない。それこそが政治家の仕事である。  そうして、示した方向性の結果については政治家が自ら責任を取る。あとは極端に言えば、酒を飲んで遊んでいてもいい。  それなのに、今は細かいところまで口を出し過ぎる。とにかく役人に因縁をつけたがる。ちょっと間違えたくらいで怒鳴り上げる。これは政治家の仕事ではない。  官僚にも物を決められないときがある。国の大きな方針にかかわる場面での判断は、彼らにはできない。そういうときに、「これはこういう考え方でこっちへ行った方がいい」と、大局的な判断をするのが政治家の仕事だ。  私は元来面倒くさがり屋だから、細かい話になったら、「もういいよ」と言ってしまう。方向さえ間違えなければいい。昭和一○年代の政治家は、日本を戦争に追いやった。これは方向性を間違えたためで、あのとき判断すべきことはただ一点。「戦争だけはやらない」ということでよかったのだ。  政治主導ということと、「政治家が細かいことまで全部やらなきゃいけない」というのとはまったく別である。そこを勘違いしている人が多い。細かいことばかりを真面目にやっていて、肝心なときに方向を間違えるというのが最悪の政治だ。  実は、細かいことであれこれ言うのは、結構楽しいのである。役人はオタオタするし、そんなことが癖になってしまう。  政治家が役人を呼びつけて、細かいことで「ああでもない」「こうでもない」とのたまう。挙句の果てに、「ここに句読点を打っているのはおかしい」とか、そんなことまで言う政治家がいる。自民党ばかりではない。民主党も同様である。そんなことは政治家の仕事でないと断言しておきたい。  ある映画に、こんなセリフがあった。 「君は世界のために働け、おれは昼寝をする」  堂々とした大きな判断をするためには、昼寝の余裕も悪くはない。  ***  官僚にいいように使われることなく、やる気を持たせながら使いこなす。そんな芸当ができる政治家はどのくらいいるのだろうか。 デイリー新潮編集部

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