同じ中国で「くら寿司が撤退、スシローが大行列」と明暗分かれた理由…海外成功のカギは「人材」にあった

回転寿司大手チェーン「くら寿司」は7月、中国本土の店舗のうち、先月末に閉店となった上海1号店に続き、残り2店も年内をめどに閉店。中国撤退を明らかにした。 進出当初こそ、多くの現地客で賑わいを見せ、くら寿司側も100店舗規模を目標に掲げていただけに、「とにかくタイミングに恵まれなかった」と語るくら寿司担当者の言葉には悔しさが滲んでいた。 一方、ライバルの「スシロー」はと言えば、順調に中国市場でその存在感を高めている。同じ回転寿司チェーンにもかかわらず、なぜ両者で明暗が分かれたのか——。 直営店にこだわったくら寿司 「くら寿司」が中国市場から撤退するニュースが話題を集めている。ただ結論からいうと、上海に展開していた3店舗の撤退なので、経営に与えるダメージは少ないと見ている。 そもそも外食企業が海外進出をする際、大きく3つのパターンがある。それがフランチャイズでの展開と、現地法人との合弁会社の設立、そして直営店での展開だ。 フランチャイズで有名なのがマクドナルドで、合弁会社の設立で店舗を拡大しているのがスターバックスだ。くら寿司の場合は、基本的に自社で現地法人を設立し、直営店で展開を行う。実際、中国の展開のときも、上海蔵寿餐飲管理有限公司を設立し、自社のリソースを注ぎ込んで店舗の開発に注力してきた。 直営店を展開するメリットとして、料理やサービスの品質を保ちながらブランドの価値を伝えていくことができる点にある。また、市場にあった提案もしやすいという利点も大きい。現に、同じく現地法人を設立して展開しているアメリカでは、テクノロジーも駆使しながらローカライズしたメニューも提案し、現地の人たちに受け入れられてきた背景を持つ。 なぜ「タイミングが悪かった」のか ただ、直営店での展開では、運営コストがかさんだり、文化的な理解に時間がかかったりといったデメリットがある。今回、中国市場でも適応に時間を要した側面があるが、それ以上にタイミングが悪かった印象の方が強い。 実際、上海市内の大型ショッピングモールにある1号店は、コロナ禍の影響で3年遅れの2023年6月のオープンになっただけでなく、その後すぐに福島第一原子力発電所の処理水問題に見舞われた。また、中国経済の低迷で、かつての日本のデフレ下と同じように飲食店の価格競争が起きている影響も大きい。 くら寿司は現地法人を設立しているので、自社でリソースを抱えて経営をしている。だからこそ、そうした背景を踏まえて、別の地域に割いた方が経営的に合理的だという判断もあっただろう。とはいえ、上海蔵寿餐飲管理有限公司は存続させる方向のため。数年後、捲土重来を果たしても何ら不思議ではない。 一方で、中国市場で店舗数を増やしているのが、「スシロー」を展開する株式会社FOOD & LIFE COMPANIES。現在、同社の業績は絶好調だ。 現に、2025年9月期上期(24年10月〜25年3月期)の連結決算では、売上収益が2038億1400万円(前年同期比15.8%増)、営業利益は195 億3500万円(前年同期比58.9%増)と、大幅な増収増益を達成し、売上、利益ともに過去最高を記録。それを受けて、通期の売上は従来の4080億円から4160億円に、営業利益は260億円から325億円に、それぞれ上方修正している。 好調を牽引している要因の一つが海外だ。同社の海外展開も、現地法人を設立し、直営店で展開を行っている。そのため、立ち上げまでにかなりの時間がかかるが、ノウハウの蓄積や現地でのネットワークの構築が出来上がったら一気に加速していく。 スシローの勢いを支える人材 中国市場が、まさにそうだった。2021年9月に1号店をオープンさせると、瞬く間に店舗を拡大させ、2025年1月時点で49店舗まで成長している。 海外事業全体でも、その勢いはすさまじい。2020年9月期の海外店舗数は38店舗で、展開先も韓国、台湾、香港、シンガポールだけだったが、2025年4月には200店舗を達成し、展開先も上記の4つに加えてインドネシア、タイ、中国大陸、マレーシアが増えている。2025年9月期末には前年比30%となる約240店舗で着地を見込む。 こうしたスシローの勢いを支えているのが人だ。出店先の選定や食材の調達先の確保など、重要な要素は様々あるものの飲食店はサービス業だからこそ、いい人材をそろえて、いいサービスが提供できてはじめて、多くのお客様に支持される。 それはどこの国でも変わらない。現に2025年9月期上期の決算説明会の場で、同社の海外事業を統括する副社長執行役員の加藤広慎氏は、海外が好調な成要因として「人材がそろい、教育がうまくいっているからだ」と語っている。 そもそも直営店で展開する際、一番大きなネックになるのが現地の人材の採用と教育だ。同社では現地法人のトップは日本の営業部長経験者が担うが、立ち上げてからある程度の段階になると、経営陣がほとんど現地で採用したスタッフになり、やがて彼らが現場のスタッフの採用と教育も行っていく。 その際、事業のコアは共有しながら、それぞれの国の文化を踏まえた組織をつくる必要がある。それができないと現地で本当に愛される店づくりは実現しないだろう。 経験を積んだ精鋭たちが海外へ スシローでは、なぜそれができたかというと、チャレンジをして成果を残した人材が、より上のポジションに着く体制が整っているからだ。例えば、現在、株式会社あきんどスシローの代表取締役社長を務める新居耕平氏は、アルバイトから社員になった人物であるし、株式会社京樽の代表取締役社長の堀江陽氏は、スシローのトラックドライバーから社長まで登り詰めている。 それは海外現地法人の代表についても変わらない。海外へ赴任する前、現地法人の代表は国内のスシローの営業部長を務めるが、そこでマネジメントする店舗数はおよそ100店舗だ。スシローは一店舗あたりの売上が3億円を超えているので、300億円規模の事業を管轄することになる。 もちろん店長の数だけ店長がいて、それぞれが抱えている課題は異なるため、そこで成果を出すのは並大抵のことではない。そうした経験を積んだ精鋭が海外に飛んでいるからこそ、海外のスシローの成功があるといっても過言ではない。 ある意味、国内の好調さが秀でた人材を育て、その人材が海外の躍進を支えているといえるだろう。結果として、海外で成功するノウハウも蓄積され、それが各国でのスピード展開に繋がっている。国内の好調さを踏まえると、スシローの海外の躍進はこれからが本番なのかもしれない。 【こちらも読む】『「コストコ南アルプス倉庫店」大盛況のウラで予想外の弊害…山梨のガソリンスタンドで”閉店ラッシュ”が起きていた』 【こちらも読む】「コストコ南アルプス倉庫店」大盛況のウラで予想外の弊害…山梨のガソリンスタンドで”閉店ラッシュ”が起きていた

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