スズキの小型車「スイフト」に試乗した。 欧州仕込みと表現される高い走行性能、燃費の良さなど総合的なバランスがとれた人気のクルマだ。2023年12月に約7年ぶりの全面改良がされて、2004年の発売から4代目となった(2000年に発売された同名の車種があるが、スズキは現行スイフトとは異なるモデルとして歴代にカウントしていない)。 スイフトは海外での販売も狙った世界戦略車で、世界全体の累計販売台数は954万台(2024年9月末現在)にのぼる。特に小型車が激戦の欧州市場でも通用するよう、欧州の道路で徹底した走り込みを行うなどして開発したため、「欧州仕込みの走り」という言葉が宣伝文句として使われている。 外観から見てみよう。形状は歴代モデルと同じツーボックスだ。エンジンルームに加えて乗員スペースと荷室が一体になった構造のことで、荷室が別になったセダンタイプはスリーボックスという分類になる。また、荷室につながる後部ドアが跳ね上げ式になっており、欧州で人気のハッチバック車というタイプでもある。 やわらかな印象の外観デザイン、より幅広い層を意識 デザインだが、全体的にやわらかな印象を与える丸みのある形状となっている。フロントグリルは前モデルの六角形から八角形に変更となり、光沢も加わった。内装も運転席パネルとドアを一体化したデザインとなり、室内の広がり感を醸し出している。前モデルよりスポーティーさを弱めて幅広い層を取り込む狙いがあるとみられる。 エンジンは新開発の1・2リッター3気筒で、軽量化した新型CVT(無段変速機)と組み合わせた。車体は軽量化とともに空気抵抗を抑える工夫などを施して、静粛性と燃費をともに向上させた。 トルク特性により、街乗りでも軽快な走りを楽しめる 実際に運転してみる。走り出しからスムーズで、加速具合も過不足なく安定している。前モデルから最高出力、最大トルクの数値はともに低くなっているのだが、低速から滑らかに上昇するトルク特性としたことで、高速で運転しない街乗りでも軽快な走りを楽しめるようにしたという。トルクとは(タイヤを回転させる)ねじりの強さを示す数値で、トルクが大きいと発進時の加速や坂道でも力強い走行が可能になる。低速でも一定以上のトルク数値が出るようにしているのだ。また、このクルマはサスペンションやプラットフォーム(車台)などを改良し、路面からの衝撃を緩和するとともに操縦性能なども向上させている。 ヨーロッパの道路というと、ドイツのアウトバーンのような高速道路を思い浮かべる人がいるかもしれない。しかし、ヨーロッパは古い建物が残る街が多い。もちろん、道路も中世の時代そのままの石畳が残るほか、市街地は細い路地ばかりという街も少なくない。街乗りの軽快な走りがより生かせる環境なのである。 運転支援機能も充実、自動二輪や自転車も検知可能に 顧客からの要望が多かった運転支援機能なども充実させた。ミリ波レーダーと単眼カメラを組み合わせたデュアルセンサーブレーキサポート?を採用し、自動二輪車や自転車も検知できるようになった。高速道路では車間距離を保ちながら前走車が停止するまで追従する全車速追従機能が付いたアダプティブクルーズコントロール、車内カメラが運転者の眠気などを検知して警告する機能なども付いている(下位グレードを除く)。 RJCカーオブザイヤー、歴代4代続けての受賞 このクルマは2025年次RJC(日本自動車研究者ジャーナリスト会議)カーオブザイヤーを受賞した。カーオブザイヤーは、日本カー・オブ・ザ・イヤーとRJCカーオブザイヤーの2種がある。前者は1980年から始まり、選考メンバーは自動車評論家やモータージャーナリストが主体で、走行性能を重視した評価が特徴とされている。後者は1990年にメーカー出身者や大学教授などもメンバーとなり、技術面や消費者の視点からも評価するという姿勢で発足した。こうした経緯もあり、軽自動車や小型車が中心のスズキは、前者の受賞歴がない一方、後者は8回受賞している。特に、スイフトは4代連続と全モデルで受賞している(ちなみに日本カー・オブ・ザ・イヤーの軽自動車の受賞は2022〜2023年の日産自動車「サクラ」と三菱自動車「eKクロスEV」が初めてだった)。 他社のライバルモデルと比べて突出して目立つような優位性はないかもしれない。しかし、運転してみると走行性能、燃費、装備、価格面などの総合的なバランスの良さに気づくはずだ。歴代全モデルのRJCカーオブザイヤー制覇はだてではない。(デジタル編集部 松崎恵三) 【仕様・主要諸元】 (試乗した「HYBRID MZ(2WD)」の場合) ▼全長・全幅・全高(ミリ) 3860・1695・1500 ▼総排気量(L) 1.197 ▼燃費 WLTCモード(キロ/リットル) 24.5 ▼価格 216.7万円(オプションは除く)