「パーク&ライド(P&R)の入り込みがやっぱ少ないという中で、見込みよりも少なくなっているというのが正直なところ」 斎藤元彦兵庫県知事は2025年6月11日の記者会見で「ひょうご楽市楽座」(兵庫県尼崎市)について、記者から問われ、このように述べた。現地では何が起きているのか、J-CASTニュースの記者が6月に実際に現地を訪れた。 出店者「予想したよりも来場者は少なめ」 現地には阪神尼崎駅から1時間に1本走る無料シャトルバスで20分。バスは尼崎の臨海地帯を進んでいく。周りに民家はなく、インターネット通販大手Amazonの倉庫や化学工場などが立ち並ぶエリアを過ぎると、尼崎P&R の駐車場が現れる。ここは、大阪・関西万博の会場にシャトルバスを乗り継いで向かうために作られた。 そして、そのP&Rの横にあるのが「ひょうご楽市楽座」だ。 会場は、20ほどのブースが並ぶテントや屋根のついた休憩所、ステージがある。期間を決めて淡路島、播磨の県内各エリアが食や特産品、ステージなどでそれぞれの魅力をPRするというのが「ひょうご楽市楽座」の趣旨だ。 会場に到着すると、派手にデコレーションされた軽トラックが出迎えてくれた。説明文には「よりインパクトがあり日本的なメインモニュメントを、との想いから、日本独自の文化であり強烈なインパクトを与えるネオンモニュメントとして『デコトラ』をコンセプトにしました」と書かれていた。 一方で、冒頭の知事の発言にあった来場者の少なさが、イベントに影を落とす。尼崎のP&Rの平均利用率は約3割とされ、利用が広がっていない。駐車場の基本料金は5000円程度で、高速代などを含めると他の交通手段よりも割高に思えてしまう価格設定が利用を遠ざけていると言われている。 出店者用の説明資料によると、楽市楽座の来場者を1日当たり3000人から5000人を想定していたが、県の担当者は取材に対し「実情は1日の平均来場者数1500人」と答える。 そして「P&R の利用の3割程度が楽市楽座を利用することを想定して案を作ったが、P&R が伸び悩んでおり、目標達成は難しい。現状の目標は2000人から3000人」と下方修正した理由をこう話す。 楽市楽座に出店したある事業者は「出店料は取られなかったが、予想したよりも来場者が少ないと他の出店者も言っている。場所もかなりの郊外で来場しにくい場所」と話してくれた。地方の事業者にとって、出店料がかからず、万博に向かう来場者に兵庫県の産品をPRできることは販路拡大のチャンスとなるメリットがある。一方で、来場者数の少なさは売り上げや認知度の拡大が十分にできないことに直結する。 また「実際の来場者の多くは、P&Rで万博に行く人ではなく、楽市楽座を目的に来ている人が大半」(関係者)との声も。記者も万博会場からパーク&ライドに戻ってきた数便のバスの乗客の動きを見ていたが、楽市楽座の利用者はあまりなく、楽市楽座専用の駐車場からの流入が多く見えた。 県の担当者によると、楽市楽座の利用者のうち、P&Rからの流入と、楽市楽座専用の駐車場からの流入を比較すると、楽市楽座の利用者全体のうち、P&Rからの利用者の流入が20%〜30%程度にとどまるという。 花火大会効果でも来場者数は約2700人 6月28日、大阪・関西万博では日本三大花火大会の一つ、大曲の花火が打ち上げられた。対岸の楽市楽座の会場は、花火をばっちり見ることができる穴場的スポットだ。この日は楽市楽座の会場も多くの来場者でにぎわった。 斎藤知事も定例記者会見で「会場からは万博の花火も鑑賞できる。万博会場に行かれる方も会場に行かれない方も週末の土曜日、日曜日にやっていますので、ぜひお越しいただきたい」と呼び掛けていた。 万博会場では、1日当たりの来場者数で最も多い日となり、一般来場者数が約18万5000人と大盛況だった。県の担当者によると、楽市楽座でも過去最多となる約2700人が来場したが、花火大会というキラーコンテンツでも当初の目標とする来場者数には届かなかった。 斎藤知事は、これまで頻繁に万博会場を訪れるなどして、万博を通じた兵庫県のPRに力を入れてきた。今年度の県予算では、万博関連は約17億円、その中で「ひょうご楽市楽座」には約2.7億円を投じた。過去3年間で延べ約45億円の予算を使っている。 万博協会は入場時の優先レーンや料金の割引などP&Rの利用促進策を発表。ただ、P&R の利用者が万博で遊び疲れて、そのまま楽市楽座を訪れてくれるかは、これまた難しい相談なのかもしれない。税金を投じて、地域の事業者が魅力を発信しているイベントが十分に盛り上がらないままに終わるのはあまりにも寂しいだろう。