東京・新宿のタワーマンションの敷地内で2024年5月、元ガールズバー・キャバクラ店経営者の女性・Aさん(当時25歳)が刃物で刺され、殺害された事件。殺人などの罪に問われ起訴されていた配送業の和久井学被告(52)の裁判員裁判の第4回公判が、7月9日に東京地裁で開かれた。 【写真】被告がAさん(25)をメッタ刺しにしたタワマン。シャンパンタワーの前に立つAさん この日は、和久井被告本人から言い分を聞く被告人質問が行われ、まずは弁護人から被告人に対する質問があった。弁護人は、「被告人がAさんから結婚詐欺を受けた」という主張を補強するかのように、質問を重ねた--傍聴したライターの普通氏がレポートする。【前後編の前編】 被告人の元妻は「水商売のキャスト」 事件当時の被告人の月収は20万〜30万円。実家に住んでおり、光熱費は払っていたが、それ以外は家に給料は入れていなかった。 20年ほど前には、約5年間の婚姻歴もある被告人。相手は水商売のキャストで、自身はその送迎のドライバーという関係性だった。Aさんと共通する点があるのは、偶然だろうか。 和久井被告がAさんのことを知ったのは2018年の8月だった。SNS上でAさんがライブ配信を行っており、被告人はリスナーだった。Aさんのトークは頭の回転が早く、また共通のK-POPアイドルが好きなことから熱心に聞いていた。 直接会ったのは、翌2019年の5月。Aさんから「いつものメンバーでオフ会をしよう」と誘われた。集まったのは、Aさんと被告人ともう一人のリスナーの3人だった。その後、3人で遊園地へ遊びに行くなどし、被告人と2人でインスタグラムの写真を撮るためにお台場にドライブすることもあった。 その後、2021年4月に、Aさんがガールズバーを開店する。当時は関係性もよく、定期的に訪問した。Aさんの印象は「かわいらしい」「店を出すと決めてからの行動力が早くてかっこいい」などと考えていたというが、彼氏がいることを知っていたため、恋愛感情は抱いていなかったという。 その思いは、同年8月のガールズバーの閉店をきっかけに変化していく。 「プラトニックな関係なら…」 ガールズバーをたたむための作業はAさんが1人で行なっていることが多く、被告人はそれを手伝っていた。会話が増え、相談にも乗り、彼氏と別れたとも聞き徐々に恋愛感情が芽生えていった。 2021年9月、ストレートに「付き合って下さい」と告白した被告人は、Aさんから「いいよ」と返事をもらったという。年齢差もあるためか、被告人は驚いたようだったが、やはり素直に嬉しかったという。しかしAさんは条件を提示した。 弁護人「Aさんはなんと言ったのですか」 被告人「彼氏と別れたばかりで男性不信になっているので部屋には入れない。プラトニックな関係なら、と」 弁護人「それ聞いてどう思いましたか」 被告人「それって彼氏かな? と思いましたが、付き合いたかったので納得しました」 その後、それまでと変わらずインスタグラムの撮影など、手伝いをするという関係性が続く。 しかし、10月にAさんの入院をきっかけに大喧嘩をする。Aさんは和久井被告に、「国指定の難病を抱えており余命宣告を受けている」と説明していたという。しかし入院の事実だけ知らせ、入院先を知らせないことに対し被告人は「死ね」「(Aさんが水商売で)No.1取れたのもマクラしてたからだろ」などと口走った。 被告人はこれで交際終了かと思ったが、Aさんからその後、「入院時にしたことは水に流す」「私の夢のため人生を賭けてくれたら結婚するよ」と言われたという。 Aさんの夢はファッションショー「関西コレクション」のランウェイを歩くことだった。「関コレ」のスポンサー企業が販売しているシャンパンを多く注文すれば、その枠に入れる。そのためにバイクと車を売って欲しいと頼まれた。 被告人にとってバイクと車は命の次に大事とも言えるものであった。バイクの購入と改造費用に約500万円、車の購入と改造費用に約2000万円費やしてきた。希少価値もあり、現在同じものを揃えようとすると、4000万円かかると被告人は言う。しかし、迷わず「売る」と返事した。 弁護人「なんで即答で売ると?」 被告人「Aさんが大好きなのと、Aさんがランウェイを歩くのを自分も見たくて」 弁護人「言葉悪いですけど、営業トークとは微塵も思わなかったのですか」 被告人「出会って3年経ってたし、キャバクラと客の関係性でなく、配信者とリスナーって関係性なので、まさか騙されるとは思いませんでした」 弁護人「結婚するのにお金が必要だと言うのは、おかしくないですか」 被告人「店にお金をってことならおかしいと思いますが、Aさんの夢をかなえる手伝いということで疑いませんでした」 現金は数回に分けて、Aさんのマンション前で直接渡した。領収書はもらわず、振込も選択しなかった。理由は信用していたからという。しかし、その後、Aさんに携帯を渡した際に過去のLINEやりとりを全て消されたという。そこには現金を渡すまでの経緯が書かれていた。 2021年の12月に、Aさんはキャバクラ店をオープンさせる。しかしその後、二人の関係性は悪化したという--。 (後編につづく) ◆取材・文/普通(傍聴ライター)