渡邊真衣受刑者の出所は約8年後 母親は「自分にできること」を探す

 恋愛感情を利用し、金銭を奪うのではなく頂く。そんな手口で世間を騒がせたのが、頂き女子りりちゃんだった。彼女に最も信用され、23回もの接見を重ねたノンフィクションライターの宇都宮直子氏が、りりちゃんの半生を追った新刊の発売に合わせ、彼女の近況をレポートする。 【実際の写真】几帳面な字で獄中での生活やイラストが書かれた、りりちゃんからの手紙  * * * 《左うで ぐちゃぐちゃになっちゃった 私 自分のことキライです がんばります サーモン食べたい》  6月19日、「頂き女子りりちゃん」こと渡邊真衣受刑者(27才、以下りりちゃん)から、私の元へ届いた簡素な白い便箋には、サイズの揃った几帳面な文字で、いまも自傷行為がやめられない彼女の近況が記されていた。  現在、りりちゃんは岐阜県・笠松刑務所に服役中だ。  獄中からの手紙は《明日シャワーだからうれしいな》というたわいもない日常の報告から始まり、最後のページには女の子のイラストとともに《私 人間やめたい☆》という大きな文字が躍っていた──。  りりちゃんは、2023年8月23日、定宿としていた東京・新宿のカプセルホテルにいたところを愛知県警により逮捕された。  それ以前に詐欺容疑で逮捕された女子大生が取り調べの中で、りりちゃんの作成した「恋愛詐欺を指南するマニュアル」を参考にしていたと証言したことから、詐欺幇助の罪で捕まったのだ。  その後、彼女は「恋愛感情を利用して複数の男性から約1億5000万円以上を騙し取った」として詐欺罪で再逮捕された。  彼女が作成した「マニュアル」は、「おぢ」と呼ぶ年配の男性からいかに大金をせしめるかという手順がまとめられたもの。  その内容は日常の会話から、大金を「頂いた」後のおぢたちをケアするLINEのやりとりまで詳細に記されており、さながら“詐欺の教科書”だった。  1万〜3万円で販売されていた「マニュアル」は延べ1000人以上に売れ、2000万円以上を売り上げたという。  私がりりちゃんの存在を知ったのは、2021年頃のことだ。私は2019年に起きた「歌舞伎町・ホスト刺殺未遂事件」の取材をきっかけに、「ホス狂い」女性たちの取材をしていた。「ホス狂い」とは、読んで字のごとく「ホストに狂う」女性のこと。  SNSでは「ホス狂い」を自称する女性たちが多く見受けられたが、中でもひときわ目立っていたのが、りりちゃんだったのだ。 「『破滅』とデコレーションしたボトルを頂上に据えたシャンパンタワーにダイブして救急車で運ばれた」「どこそこの店では一晩で1000万円使ったようだ」など、歌舞伎町ではそんなりりちゃんの武勇伝が流れていたが、ある日、彼女のSNSに《誰も知らない、わたしだけの物語》というフレーズがぽつんと綴られた。  これまでSNSでは、強烈な「ホス狂い」エピソードを赤裸々に語ってきた彼女が、まだ明かしていない「物語」とは何か。それこそが私が彼女を「知りたい」と思ったいちばんの動機。そうして彼女をウオッチし続ける中、突然、彼女が逮捕されたのだった。 娘を知るためにホストクラブへ  りりちゃんと初めて対面したのは、2023年12月。第2回公判の2日後だ。その後、23回の面会を重ねるにつれ、彼女はぽつぽつと内面を明かしてくるようになった。彼女とのやりとりの中で、大きく時間が割かれたのが「母親」との関係だ。 「ママはかわいそうな人なんです。ママを守ってあげなきゃ」と気丈に語ったかと思えば、私が「勉強したい」という彼女のために中学の英語の教科書を差し入れたときには「『(ママに)こんな(簡単な)のからするの?』と言われちゃいました」と悲しそうにつぶやく。中でもいちばん彼女を苛んだのが、母親が情状証人として法廷に出廷することを拒んだことだった。 「宇都宮さん、なぜママは法廷に立ってくれなかったのでしょう」と涙ぐむ姿は、いまも鮮明な記憶として残っている。 「ホス狂い」のカリスマで、多くの「おぢ」を手玉に取ってきた彼女にとって「母親」とはどんな存在なのか。  2024年8月、初めてりりちゃんの母と会った。彼女は緊張した面持ちで、時には涙を流しながらこう語った。 「法廷に立たなかったのは、自分が母親だと世間に知られてしまったら、仕事も生活もできなくなってしまう。学校でいじめられていたと言っていたといいますが、真衣には友達もいたし、家庭に居場所がなかったということも、正直、わかりません……」  りりちゃんが主張してきたことを、否定的に捉える母親。しかし、裁判が進んでいく過程で、彼女にも「逃れられない現実」だという実感がわいてきたのだろう。 「事件から目を背けることなく、娘と向き合おう」という姿勢へと変わっていき、時には娘に拒絶されても拘置所へと通い続け、時には娘と激しい口論となりながらも、会話や手紙のやりとりを重ねていった。 「娘の気持ちを知るため」と歌舞伎町のホストクラブへ足を運ぶこともあった。  2024年9月30日、りりちゃんに懲役8年6か月、罰金800万円という判決が下る。その後、最高裁まで争われるも上告が棄却され、2025年2月7日、りりちゃんは刑務所へと移送された。  りりちゃんの母はいま、自宅のある神奈川から足しげく岐阜へと通っている。 「7月3日に真衣に会ってきました。受刑者には刑務作業が義務づけられていますが、これまでは座っての作業だったのに、いまは立ち仕事なので時間が経つのが早いって。真衣が、“居場所がなかった”“家庭がつらかった”と感じたこと、最初は信じがたかったけど、彼女がそう感じたのなら、そうだったのでしょう」  約8年後、りりちゃんが出所したときのために、母親は「自分にできること」を探しているそうだ。  一方、りりちゃんは最後まで、被害者に対して「謝らない」姿勢を貫いた。  彼女は私に「“対価”としてお金をもらっただけ」と言い続けた。だが、被害者たちと合意が形成されたとは言いがたい。そして、恋愛感情につけ込む詐欺がいかに、人の心を殺す行為か、彼女は気づいているのだろうか。彼女はついぞ、自分の「本当の罪」を理解しないままに刑務所へと行ってしまったように思える。  私がこの事件を通して強く願っているのは、「社会で一度つまずいてしまった人でも、命さえあれば、なんとか日常に戻ることができるはずだ」ということだ。また、「戻れる社会であってほしい」とも思っている。  だから、りりちゃんも「罪」と向き合い、また日常へと戻ってきてほしい。 【プロフィール】 宇都宮直子(うつのみやなおこ)/1977年千葉県生まれ。多摩美術大学卒業後、出版社勤務などを経て、フリーランスに。『女性セブン』や『週刊ポスト』などで、事件や芸能スクープを中心に取材。2025年、第31回小学館ノンフィクション大賞を受賞した『渇愛〜頂き女子りりちゃん〜』(小学館)が発売中。 ※女性セブン2025年7月24日号

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