【ルフィ事件】日本人グループ「ボス」が語る、フィリピン・ビクタン収容所「驚愕の実態」…「看守が日本人収容者に謝罪」「VIPルームの存在、カネを渡して外出」

日本社会を恐怖に陥れた首都圏を中心にした連続強盗事件。通称「ルフィ事件」。その犯罪拠点となったのがフィリピン・ビクタン収容所だった。ルフィたちはいかにして収容所を掌握し、強盗事件の拠点へと染めあげていったのか。 前編記事『【ルフィ事件の拠点】フィリピン・ビクタン収容所の「元ボス」が明かす「日本人犯罪者の特別扱い」、酒を飲み売春婦を呼んで薬物売買まで…』につづき、15年間を同施設で過ごし、元日本人グループのボスに君臨した人物がその実態をメディアに初めて明かした——。 日本人グループ「ボス」が語る収容所の実態 日本国内で起こした強盗事件をきっかけにフィリピンで逃亡生活を送ることとなった野村康介氏(仮名・50代)。国際指名手配犯としてフィリピン政府に拘束された彼が辿り着いたのは入管施設であるビクタン収容所(以下、ビクタン)だった。 野村氏がビクタンに収容されたのは1990年代後半のこと。その後、2010年代まで同施設で過ごし、日本人グループのトップに君臨にした人物だ。その期間は実に15年近くにも及ぶ。いわば内部を知り尽くしている数少ない日本人の一人と言える。 社会を恐怖に陥れた「ルフィグループ」はいかにして収容所を掌握し、強盗事件の拠点へと染めあげていったのか。その理由を元日本人グループのトップがメディアに初めて語った——。(以下、「」は野村氏) 「ビクタンのなかはひとことで言えば『なんでもアリ』でした。施設の生活は外の世界となんら変わりません。酒だって飲めるし、女も買える。当時はクスリだって平然と売り買いされていました。スマホやパソコンは自由に使え、私は施設公認で外泊もしていました。とにかくカネさえあればなんでもできる場所です」 野村氏の入所当時からビクタンで最も力を持っていたのが日本人グループだったという。 「その頃はある日本人男性がグループのボスとして仕切っていて、自分もその下でいろいろと動いていました。施設職員に対して賄賂はもちろん、外の人間を使ってプライベートの面倒まで見ていました。おかげでビクタン内の大部屋の1つを日本人専用ルームとして使えていましたし、職員は大抵のことは黙認してくれていました」 看守のみならずその家族とも仲を深め、さらに身の回りの世話まで行うという手法で職員の懐柔を行っていった日本人グループ。その権力は現場の看守をもしのぐ存在だったという。 看守以上の権力を持つ「日本人たち」 「ビクタンではたまに悪知恵の働く看守もいて、所長らに話を通さず、私たちに直接『カネをよこせ』と催促してくることがあった。そういう時は彼の上司に報告する。すると幹部がやってきて、問題の部下を別部屋に連れていく。しばらくしたらその看守が『申し訳なかった』と謝ってきました。結局、上の人間にカネを握らせているので、施設はこちらの気持ちを推し量った対応をしてくれる」 ビクタンではVIP扱いとなっていた日本人収容者たち。その生活は入管施設とは思えないほど優雅だったという。 「外の協力者に依頼して、毎日のように買い出しをお願いしていました。私たちの場合は必要なモノを書いたメモと現金を現地にいるフィリピン人のおばちゃんに渡して、食料や酒などを調達する仕組みでした。もちろんチップも渡します。でも、女性なのであまり重い荷物は持てない。そういう時は施設のスタッフに小遣いを渡して酒瓶なんかを運ばせていました。表口は監視カメラが設置されていたので、商品は裏口から搬入し、ガスコンロや鍋といった調理器具も一式揃えた。一応、施設としてビニール袋に入ったご飯とおかずが提供されるんですが、あまりに不衛生なので毎食、自分たちで調理していました。メニューは基本的には和食。みそ汁を作って、米を炊く。あとカレーやうどん、そば、オムライス、チャーハン、牛丼なんかの丼物も多かったです。たまに他の国の人間におススメ郷土料理のレシピを聞いて、作ることもありました。部屋で焼肉をしながら酒を飲むこともよくあった。昼の食費はすべて日本人グループのボスが全員分を出してくれていました。それ以外はそれぞれに身銭を持ち寄ってご飯を作るというルールになっていました」 外部から密輸された商品は施設内でのビジネスにも大きな影響を与えていた。 「密輸したシャブを詰め替えて販売」 「ビクタン内部でカネを稼がないといけないので、私たちのグループではレストランを経営していました。角材を組んで海の家のような屋台を作り、そこで調理した食事を他の収容者に提供していた。朝にはコーヒーやサンドイッチなど軽食メニューを出す。看守に料理を出して、シャバ代の代わりにして見逃してもらっていました。あとは手に入れた酒を売る酒屋やシャンプーなんかの日用品を扱った雑貨屋も営業していた。カネのない若い子はその費用を元手にして、日本行きの航空券を買っていましたよ。あとはクスリ。私は興味がなかったですが、外の売人からシャブを仕入れて、それをパケに詰めなおしてなかで販売する連中もいました。主に流通していたのはシャブと葉っぱ(大麻)。また当時からパソコンを使って詐欺まがいのことをしている人間もいた。私が知っているのはドイツ人と韓国人。2人とも元ハッカーで、ドイツ人はショッピングのECサイトを使った詐欺を器用にやっていた。韓国人に至っては他人の銀行口座にハッキングしてカネを移すなどして稼いでいた」 塀のなかで平然と用いられる携帯やパソコン類。原則としてビクタン内で電子機器の使用は禁止されているはずだが……。 「私も含めてそれぞれが携帯を持っていて外部とはいつでも連絡が取れた。まれに当局のガザ入れが入ることがあって、これが面倒。看守から事前に『今日、ガサが入る』と言われるので、携帯やパソコンは隠すのは容易ですが、酒は大きさからしてどうしても見つかってしまう。結局、手入れのたびにアルコールはすべて廃棄していました。あまりに点検が多い時は対策として水の容器にジンなど無色の酒を入れて、カモフラージュしていました」 施設内での娯楽は酒やクスリだけではない。 施設内で開かれる「売春パーティー」 「基本的にビクタンは家族の出入りも自由でした。だから嫁さんを大部屋に呼ぶ人間もいました。その傍ら、外から女を買うこともあった。私たちは現地にいる売春宿の関係者に連絡をして『明日、女10人用意してほしい』と依頼。看守には『明日、女を買うから』と正直に伝えて、OKをもらっていた。そういう場合は売春婦を看守に献上していました。この費用もまた最初の3年間はボスがすべて出してくれていました。ビクタンは女性部屋もあって、たまに収容者が入ってくることがあります。クスリ好きの女だとシャブのパケを渡してあげると『こんなところで打てると思ってなかった』と喜んで、股を開く。あと博打も日常的にやっていました。トランプ、麻雀が多かったです。日本文化に詳しい台湾人とは花札勝負もしました。カネを持っている人間同士だと1日で30万、40万を賭けることもあった。みんな、酒を飲みながらやるので勝った負けたでケンカごとはザラです。もめごと自体はしょうちゅうあって、大抵はカネの貸し借りか、商売敵が発端でした。数える程度ですが、グループ同士の乱闘劇もあった。そういう時は一応、看守が来て注意だけはしますが、本気では止めません」 特別扱いされた日本人のなかには外出さえ許される人物もいたという。野村氏もその一人だった。 カネを渡して堂々と「外泊」 「グループのボスが3年ほどで釈放され、次いで歴が長かった私が顔役のような形となっていました。すでに所長とは懇意にしていたので、『用事があるから外に出たい』と伝えると見張り役をつけるのを条件に許可が出ていました。当然、当局には内緒です。付き添いと言ってもゲートを出れば『野村、じゃあ〇〇日後にここに集合だ』とそそくさと解散し、結局は単独行動になっていた。 外泊は1週間から長い時には1ヵ月ほどになることもあり、ビクタンへの報告義務もありません。一度、外泊中にビクタンに当局のガサが入ることになり、看守から『お前は治療を受けていることにするから、急いで入院しろ』と慌てて連絡が来たことがあった。その時は近く病院に駆け込みました。施設では脱走する収容者もいましたが、その際、看守は発砲するのでほとんどが失敗します。私が知っているケースでも尻を撃たれて病院に運ばれ、すぐに連れ戻された人間がいました」 ルフィ事件では渡辺優樹被告(41歳)らがVIPルームと呼ばれる個室を使用し、強盗事件の指示を出していたとされている。この特別室という制度を開拓したのも野村氏らだった。 「それまで私は日本人用の大部屋で過ごしていたんですが、同居人とトラブルになった。このままでは看守に迷惑をかけてしまうと感じ、熱が冷めるまで自ら別部屋に移りました。最初はほとんど使われていなかった女性収容者用の部屋を独房として使っていました。ただ、私の生活を見かねた知り合いの台湾マフィアやイラン人から『一緒に過ごそう』と誘われ、施設内にある別の小部屋に移動しました。そこはもともと、洗濯部屋として作られた場所で、移動後は持っていた調理道具を洗い場に持ち込んで厨房として活用。家電は他にも外にいる仲買人経由で手に入れたテレビや冷蔵庫を設置していました。テレビは衛星放送に繋げていたので、日本のテレビ番組も視聴できた。東日本大震災が起きた時もリアルタイムでニュースを見て、言葉を失ったのを覚えています。エアコンも外部から持ち込んで部屋に備え付けたんですが、すぐに当局に発見されて没収されました。独房を合わせれば7〜8年ぐらいはそういう生活だったと思います」 賄賂の「金額」 酒や日用品の密輸や売春、果てはVIPルームに施設公認の外泊と、有り余るほどの自由を享受していた日本人グループ。その源泉となったのがカネだった。 「看守へのカネは賄賂というよりは心づけという感覚です。何をするにもまずは袖の下を用意するのがマナーだった。渡す金額はまちまちですが、私の場合は看守や所長にお願いごとをする際は1万ペソ(現在のレートで約2万5000円)から交渉を始めました。外泊許可を取る場合は目安として10万ペソ程度。加えて必ず戻ってくるという『信頼』がないとOKは出なかった。幹部の顔色を見れば相手が求める値段のニュアンスはわかるので、そこで話をまとめる。当時、入管の職員の月給はおよそ1万5000〜2万ペソだったので、看守たちからしても美味しいビジネスだったと思います」 施設内を飛び交っていたジャパンマネー。この賄賂文化が、のちのルフィグループによる連続広域強盗事件の要因となっていく。同グループのかけ子を務めた山田李沙被告(逮捕当時22歳)の初公判で、山田被告は事件の動機について「渡辺被告が『脱獄計画を実行するためには大金を稼ぐ必要がある』と言っていた」と説明。幹部たちが入管施設からの脱獄資金を用立てるために、強盗事件へと舵を切ったと主張していた。 「賄賂による脱獄はビクタンでは実際に行われていた手法です。といっても厳密には脱獄ではなく、仮釈放をもらうやり方。所長や法務局の関係者に人間にカネを握らせて、書類に判を押して正規の手続きに見せかけて出所する。外に出ればあとは本人の好きなようにすればいい。私はこの方法で何度もフィリピン法務局の人間に騙されてカネをむしり取られましたが、それでも成功している例があったから話に飛びついた。仮釈放の金額は当時で100万〜200万ペソぐらいで、大金という印象はなかった。ここ数年の円安の影響で実質的な費用があがったとしても強盗をしないと集まらない金額ではないはずだ。事件の動機が賄賂の資金だとすれば、渡辺被告らが入管関係者らにタカられていたとしか思えない」 カネと欲望にまみれたビクタンの生活から15年あまり。野村氏の日々は突如として終わりを迎える。 突然の「強制送還」 「ある日、看守から突然『仮釈放になるからこれから本庁に来てほしい』と言われた。こちらとしては願ってもない通達ですから、準備をしてすぐに本庁へ足を運びました。ようやくビクタンから出られると喜んで待っていたら日本人の収容者がもう一人、部屋に入ってきた。以前に看守からその子が日本へ強制送還されると教えてもらっていたので、すぐに『自分は強制送還されるのだ』と状況を理解しました。その日のうちに空港へと向かいました」 こうして日本へ帰国した野村氏。母国へ到着後、日本の強盗事件容疑で逮捕され、実刑判決を受け、服役。出所した現在は日本での生活を送っている。野村氏は最後にビクタンについてこう語る。 「ルフィグループがビクタンにいたのは3年にも満たない。そんな彼らが自由に過ごせてしまったのは『日本人収容者』という土壌があったからに他なりません。それは私を含めてこれまで多くの日本人たちが看守を懐柔してきた結果です。今後、二度と同様の出来事が起きないことを願って、取材に応じました。日本とフィリピンという国際関係、また同様の手口で次なる被害者が出ないことを心から祈っています」 日本人グループがトップに君臨し、ついにはルフィ事件という凶悪犯罪の舞台となったビクタン収容所。その暴走を許したのは「日本人グループ」の存在と賄賂という深く暗い人間の欲望だった——。 【あわせて読む】『ラオスの「少女売春ホテル」に潜入取材…!部屋には「10代の少女」がズラリ…殺到する日本人小児性愛者の「正体」と彼らの「呆れた言い分」』 【あわせて読む】ラオスの「少女売春ホテル」に潜入取材…!部屋には「10代の少女」がズラリ…殺到する日本人小児性愛者の「正体」と彼らの「呆れた言い分」

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