「愛子天皇」待望論、参院選では各党がスルー…そのウラで、山尾志桜里氏が演説で語った「女性天皇のこと」

国民の関心が高く、国の在り方の根幹に関わる重要な課題なのに、参院選の争点からすっぽりと抜け落ちてしまったテーマがある。 皇位の安定継承と皇族数の確保に関する問題だ。 この問題、先の国会では、結論がまたしても先送りとなった。 ひらたくいえば、「愛子天皇」誕生につながる女性・女系天皇を認めるか否か。だが、各党の選挙公約や幹部・候補者から具体的な対応策はほとんど聞こえてこない。 そんな中、全国で唯一人、「女性天皇容認」を公約に掲げる女性候補がいる。参院選公示直前に国民民主党を離党し、無所属で立候補した元衆議院議員山尾志桜里氏(50)である。 選挙で「女性天皇容認」を訴える理由は何か。選挙戦中盤の7月中旬、都内を遊説する山尾氏に密着ルポした。 国民の「常識」は、永田町では「非常識」 「選挙のたびに、どの候補者の話を聞いても、言っていることは、ほとんど変わらないか、政党の公約を繰り返しているだけなんですよね。私は、これまでの選挙でほとんど聞いたことのない演説をしたいと思っています」 参院選中盤戦の2025年7月9日、JR北千住駅西口デッキ。全国で最多の32人がひしめき合う東京選挙区から立候補している元衆議院議員の山尾志桜里氏は、聴衆に向けてこう切り出した。 山尾氏が言う「聞いたことのない演説」とは、彼女が公約に掲げている「女性天皇容認」についてだ。 「何で私が天皇論をやっているのか、ということからお話します。あの〜、国民の多くの方は、女性天皇の時代でもいいよ、と思っています。だけど、永田町に行くと、『真逆』なんですよ」 「真逆」というのは、以下のような事態を指す。昨年4月に行われた、共同通信をはじめ新聞、テレビなどの世論調査では、国民の約9割が「女性天皇」を、約7割が母方のみが天皇の血を引く「女系天皇」も支持しているが、昨年の5月から始まっている皇位の安定継承と皇族数の確保に関する与野党協議の全体会議では、「女性天皇」「女系天皇」ともに議論の俎上に上っていない--。 この状況を山尾氏は「国民の『常識』は、永田町では『非常識』なんですよ」と指摘し、その理由を議員時代の自らの体験と重ね合わせた。 「そのことを私が改めて実感したのは、国民民主党に所属していた時で、女性天皇の議論も排除せずにきちんとやろうよ、とSNSで発信しようとしました。たったそれだけで、国民民主党から注意を受けました。 あれ、おかしいことになっているなあ、と思った。永田町の議員一人ひとりの政治家の心の中では、女性天皇を認めないと皇位継承が安定しないと分かっている人は沢山いるのにですよ。 だけど、そこに政党の壁がかかって、余計なことを言うな、個人の思いをしゃべるな、という意識が国民民主党では根強かった。 でも、私はおかしいと思うのですよ。男性天皇じゃなければダメなのか、女性天皇のお子様は天皇にはなれないのか、それはどうしてなのか。 その理由を国民の前で、この選挙で訴えている候補はいるのでしょうか。 なぜ、国民の思いと永田町の考えは違うのか。 これは、永田町の政治家が、有権者の皆さんのことを軽んじているからですよ。どうせ、選挙で天皇論、憲法論なんて言っても票にならない、国民が求めているのは、消費税減税や現金給付など、鼻先のニンジンだと思っているのですよ、大変残念ながら……」 「密室」でおこなわれる議論 山尾氏が言う「余計なことを言うな」「個人の思いをしゃべるな」という指摘は、皇位の安定に関する与野党協議を取材していても、感じる雰囲気の一つだ。 「国家の根幹に関する皇室の制度に関する事柄は、静謐(せいひつ)な環境で」「国論を二分するような議論は避けよう」 衆参正副議長の呼びかけで始まった与野党協議は、最初から政党、会派ごとの意見集約が中心で進められてきた。しかも、特別委員会のようなオープンな議論の場ではなく、衆院議長公邸を会場にした「全体会議」という非公式協議の場だ。 議論の進め方も、菅義偉内閣時代の2021年3月に設置された有識者会議(座長・清家篤・前慶應義塾長)が取りまとめた報告書がベースとされた。 「悠仁さままでの皇位継承の流れはゆるがせにしない」とした上で、議論の方向性を(1)女性皇族の結婚後の身分保持、(2)旧宮家の男系男子の養子縁組を受け入れるーーの2案を軸にした皇族数減少対策に限定したものだった。 「悠仁さままでの皇位継承の流れはゆるがせにしない」というのは、次世代の皇位継承者として秋篠宮家の長男悠仁がいることを前提に、現在の皇位継承順位には指一本くわえないという考えだ。また、小泉純一郎内閣時代の有識者会議が2005年11月に女性・女系天皇を容認する報告書をまとめたが、与野党協議では、女性・女系天皇は議論の対象外だ。 一方、2案のうちの(1)の女性皇族が結婚後も身分を保持することには日本保守党を除く各党がほぼ合意し、女性皇族が皇室に残るか否かについて選択できる制度を設けることで「各党間で共通の認識が持たれた」(額賀福志郎衆院議長)が、結婚後の夫や子の身分を巡り、各党間の見解の隔たりも鮮明となった。 「夫と子を皇族とせず、国民のまま」としたのは自民、公明、日本維新の会、国民民主党などで、「皇族」とする案の検討を求めた立憲民主党と意見が分かれた。「女性・女系天皇」について、共産、社民、沖縄の風などが議題として検討するよう求めたが、意見を聴くだけで、その是非は議論されることもなかった。 (2)の「旧宮家の男系男子の養子縁組を受け入れる」については、自民、公明、日本維新、国民民主、日本保守党、参政党が賛成したが、「国民の理解が得られない」(立憲民主党)、「憲法14条(社会的身分または門地による差別)に抵触する」(れいわ新選組)などの異論も続出し、合意には至っていない。 参院選、各党の「皇室」についての考え 与野党協議の結論が先送りされた後初の国政選挙となる参議院選挙。皇位継承に関するテーマについて、各党幹部や候補者から積極的な政策提言の声は聞こえてこないが、各党の選挙公約ではどのようになっているのか。 自民党の「参院選公約」「総合政策集」には、「皇位継承」という文言自体、一言も記載されていない。公明党は「2025年参院選重点政策」の中で、論点として「国民の理解」「歴史と伝統の尊重」「皇族の方々の思い」という3つが重要と触れているだけだ。 その点、日本維新の会と国民民主党、日本保守党、参政党は、伝統として男系男子継承を明確に主張している。 とくに参政党は、「政策カタログ」の中で、「世界最長の正統な皇統を維持するため、先人の叡智で紡がれている男系(父系)による皇位継承を堅持」として、独自の憲法草案では、「天皇は国民の幸せを祈る神聖な存在として犯してはならない」(第一章)と主張。 同じく、男系男子継承を主張している日本保守党の公約には「皇室典範を改正し、宮家と旧宮家との間の養子縁組を可能にする」と明記しているが、国民民主党は「(皇室の諸課題に対し)公党として責任をもって検討を進めていく」と述べるだけだ。 立憲の「玉虫色」の態度 一方、与野党協議では、女性皇族の夫と子を「皇族」とし、女性・女系天皇にも理解を示してきた政党の公約はどうなのか。 立憲民主党の野田佳彦代表は「女性皇族に加え、その配偶者や子供にも皇族の身分を付与すべきだ」と主張したが、公約では「皇位の安定継承と女性宮家創設に向けて、(立民の検討委員会がまとめた)『論点整理』に基づいて、拙速ではなく、丁寧に国民の総意を作っていくための議論を行う」と玉虫色の記述だ。 「ジェンダー平等を前進させる政治」を掲げる共産党やれいわ新選組は与野党協議の中で女性・女系天皇容認を明言しているが、参院選の公約の中では触れていない。 主要政党の選挙公約を見る限り、皇位継承問題に関し、ほとんどの政党は、完全にスルーしているか玉虫色的に触れる程度にすぎない。国民の期待に背を向けた「争点隠し」が進行しているように見える。 こうした状況について、山尾氏は「既存政党は党内の分断、支持者の分断を恐れて議論を避けている」と指摘し、「一方で、『静謐な議論』が『閉鎖的な議論』であってはならない。国民に開かれた議論により、今こそ、安定的な継承の形を共に考えるときです」と訴えている。 * さらに【もっと読む】「「秋篠宮さまのときと比べても…」。愛子さまの被災地訪問、現地ルポしたジャーナリストが驚いた「厳重警備」の“深層”」の記事では、最近の愛子さまの動向について報じています。 【つづき】「秋篠宮さまのときと比べても…」。愛子さまの被災地訪問、現地ルポしたジャーナリストが驚いた「厳重警備」の”深層”

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