「電子」といったら、何を思い浮かべますか？　スマートフォンやパソコン、電子メールや電子書籍…。確かにこれらは電子を利用していますが、ほんの一例。じつは、ほぼすべての現象は電子が引き起こしている、といっても過言ではないほど、電子は身の回りに満ちているんです！　そんな電子の不思議なふるまいや、多岐にわたるはたらきをとりあげた、『電子を知れば科学がわかる』（江馬一弘著、講談社ブルーバックス）から、読みどころを抜粋してお届けします！ ＊本記事は、『電子を知れば科学がわかる』（ブルーバックス）を抜粋・再編集したものです。 電子は｢光」や「色」を生み出している この世界の色彩を生み出しているのも実は電子です。例えば、植物の葉が緑色に見えるのは、ごく単純化して言うと、葉に当たった光のうち、緑色以外の光が吸収され、緑色の光が反射されるからです（図「色が生じる仕組み」）。 そのため、私たちの目には緑色の光だけが入ってきて、脳は葉を「緑色」だと認識します。植物の葉は緑色の光を“嫌う”(吸収せず、反射する)ため、緑色に見えるわけです。 このとき、緑色以外の光を吸収しているのは、葉の色素の分子に含まれている電子です。電子が吸収した光のエネルギーは、光合成という仕組みによって有機物を合成したり、酸素を発生させたりするのに使われます。 植物の葉に限らず、あらゆる物体の色は、物体表面の原子や分子に含まれる電子が特定の色(波長)の光を吸収して、それ以外の光を反射するために生じています。 そもそも光を生み出しているのも主に電子です。目に見える光は可視光線と呼ばれますが、太陽光も、白熱電球や蛍光灯、LED電球の光も、可視光線はすべて基本的には電子が生み出しています。 水面にボールを浮かべ、ボールを上下に揺らすと波が発生します(図「水面の波」）。光も波であり、その発生の仕組みは水面の波とよく似ています。 光は、電子のように電気を帯びた粒子が振動したり、速度を変えながら動いたりしたとき(加速度運動したとき)に発生するのです。例えば、携帯電話などで使われる電波も光の仲間ですが、電波は、電子がアンテナの中を行ったり来たりする振動運動によって発生します。 電子の謎の解明が、現代のテクノロジーを生んだ 以上のことから分かるように、身のまわりのほとんどの現象は電子が引き起こしています。つまり、電子の性質を知り、電子がどのように振る舞うかを知れば、自然界の仕組みのかなりの部分を理解できることになるのです！　「すべての道は電子に通ず」と言っても過言ではないでしょう。 実際、現代物理学の発展には、電子の謎の解明が大きな比重を占めていました。原子の中で電子はどのように分布しているのか、電子が光を発するのはどのようなときなのか——そういったことを解明していくなかで生まれたのが、現代物理学の基礎となっている「量子力学」です。 量子力学とは、非常に小さなミクロな世界の法則についての理論です。量子力学を応用することで、半導体が生まれ、現在のコンピューターやスマートフォンなどのIT機器も生まれました。現代社会はまさに電子に支えられているのです。 【さらに「電子」を深堀り】あなたが、廊下で滑らないのは「電子」のおかげ…じつは、靴と床との”接着剤”になっている