「中流幻想」ははるか彼方の過去の夢。 1980年前後に始まった日本社会の格差拡大は、もはや後戻りができないまでに固定化され、いまや「新しい階級社会」が成立した。 講談社現代新書の新刊・橋本健二『新しい階級社会 最新データが明かす〈格差拡大の果て〉』では、2022年の新たな調査を元に「日本の現実」を提示している。 本記事では、〈日本に存在する「男の階級・女の階級」…なぜ女性は男性より年収が低いのか?〉に引き続き、なぜ女性の収入は少ないのかという点について詳しく見ていく。 ※本記事は橋本健二『新しい階級社会 最新データが明かす〈格差拡大の果て〉』より抜粋・編集したものです。 なぜ女性の収入は少ないのか 女性は男性より無職の比率が高く、したがって収入がない人が多い。また非正規雇用の比率が高く、したがって収入の少ない人が多い。他方、男性は、資本家階級と新中間階級が多く、したがって収入の多い人が多い。こうして女性の収入は男性より少なくなるのである。 しかし同じ階級に所属していても、女性の収入は男性より大幅に少ない。さらに詳しく分析していけば、同じ階級に所属していても女性の収入が男性より少ない理由を、いろいろと見つけることができる。たとえば、男性と比較すると女性は全体として、労働時間が短く、学歴が低く、役職につく人が少なく、また中小企業に勤める人が多い。このため新中間階級や正規労働者階級の女性は、男性より収入が少ない。 とはいえ、このように個別の要因を挙げたからといって、女性の収入が男性より少ない理由が説明されたとはいえない。なぜなら、なぜ女性に無職の人が多いのか、なぜ非正規雇用が多いのか、なぜ資本家階級や新中間階級が少ないのか、なぜ労働時間が短いのか、なぜ学歴が低いのか、なぜ役職につくことが少なく、中小企業に勤める人が多いのかが説明されていないからである。 しかもこれまでの研究では、こうしたさまざまな要因の影響を除去しても、男性と女性の賃金格差はなくならないことが明らかにされている。たとえば厚生労働省に設置された研究会が発表した「男女間の賃金格差問題に関する研究会報告」(2002年)は、さまざまな要因が男性と女性で同じになったと仮定した場合に、賃金格差がどれだけ縮小するかについて分析を行っている。これによると、労働時間が同じになっても男女間の格差は0.8%しか縮小しないし、学歴が同じになっても2.2%しか縮小しない。比較的影響が大きいのは勤続年数と職階だが、これらが同じになったとしても、格差はそれぞれ6.1%、11.2%しか縮小しない。 このように収入を決定する多数の要因が、どれも一致して女性の賃金を男性より低くする方向に作用していて、しかもこれらの要因の影響を除去しても大きな格差が残るとなると、どこかにもっと基本的で根源的な原因があると考えなければならない。 このように女性が男性より下位に置かれてしまう理由について、根源的な問いを発し、解答を与えようとしたのが、フェミニズムの理論家たち(大部分が女性)だった。なぜ女性は男性の下位に置かれるのか。フェミニズムの理論家たちによれば、それは私たちの社会が、資本主義の社会であるとともに、家父長制の社会だからである。つまり私たちの社会には、資本主義と家父長制という、格差を生み出す二つのしくみがあり、こうして階級間格差と男女間格差が生み出されているのである。 家父長制資本主義のしくみ フェミニズムの理論家たちによると、家父長制とは男性の女性に対する支配のシステムのことである。このような支配が可能になるのは、男性たちが家の財産、つまり家産を所有していたり、女性の労働力を支配していたりするからである。 家産の所有によって男性が女性を、つまり夫が妻を支配するという問題は、夫婦で家業を営む旧中間階級を例にとればわかりやすい。先にみたように、旧中間階級の個人年収は、男性が483万円、女性が271万円で、両者の間には1.78倍の格差がある。しかし旧中間階級といっても、夫婦で家業を営んでいる場合もあれば、男性が単独で、あるいは女性が単独で営んでいる場合もある。そこで既婚者で、夫婦ともに旧中間階級であるケースを取り出して分析することにしよう。2022年三大都市圏調査の回答者には、このような人が403人いた。もっとも夫婦ともに旧中間階級といっても、いっしょに家業を営んでいるのではなく別々の事業を、たとえば夫婦がそれぞれ独立した店舗を経営しているなどというケースも考えられるが、おそらく少数だろう。 調査では本人の個人年収と配偶者の個人年収を尋ねているので、これに回答者の性別を加味すれば、旧中間階級カップルの夫と妻それぞれの個人年収を知ることができる。その平均額は、夫が626万円、妻が231万円だった。夫が妻の2.71倍である。細かく集計すると、妻の方には個人年収がゼロという人が10.4%、ゼロも含めて100万円未満の人が42.6%いたが、夫はそれぞれ2.3%と6.2%だった。つまり旧中間階級カップルのかなりの部分では、妻がただ働き、あるいはこれに近い状態に置かれ、家業から得られる利益は夫が独占しているということになる。 このように旧中間階級の内部には搾取関係、つまり搾取する/されるの関係がある。このような関係が成立するのは、多くの場合、生産手段を所有して事業を経営しているのは男性であり、女性はそのもとで家族従業者として働いているからである。事業から得られた収益は生産手段の所有者である男性のものとなり、女性は収益を手にすることはできないか、その一部を配分されるに過ぎない。もちろん個々の家計内での慣習にしたがって、男性が女性に自分の収入の具体的な運用を任せているということはありうるが、得られた収益の大部分は、あくまでも男性の所有物となっているのである。 ここには男性の女性に対する搾取の存在を認めることができる。つまり、生産手段の所有を基礎として、男性が女性の労働の成果を搾取しているのである。ひとつの世帯のなかに成立しているこのような経済構造は、家父長制的生産様式と呼ぶことができる。当然ながら家父長制的生産様式は、家族経営の中小零細企業を営む資本家階級世帯にも成立しうる。 男性の女性に対する搾取は、被雇用者世帯にも成立している。それは、女性の再生産労働の成果の搾取である。『新しい階級社会』第二章でみたように、資本主義が成立し存続するためには、労働力が再生産される必要がある。つまり労働によって消耗した労働力が、一日単位や一週間単位などで回復すること、また子どもを産み育てることによって、次の世代の労働力が形成されることが必要である。 それでは労働力は、どのようにして再生産されるのか。もっとも典型的なメカニズムは、次のようなものである。労働力の再生産は、家族を単位に行われる。労働者として家族の外で働くのは男性=夫である。そして食事を作り、休息や睡眠の場を整え、また子どもを産み育てるのは女性=妻である。ここで女性たちが担う労働力の再生産のための活動を、再生産労働または家事労働と呼ぶことができる。 一見したところ、ここには合理的な役割分担があり、これによって生産現場で行われる労働(生産労働)と家族を単位に行われる再生産労働が、それぞれ円滑に行われているようにも思える。しかし生産労働と再生産労働には、明らかな非対称性がある。なぜなら、生産労働には報酬が支払われているが、再生産労働には報酬が支払われていないからである。つまり女性が行う再生産労働は不払い労働(アンペイド・ワーク)なのである。 男性労働者は、女性が行う再生産労働によって再生産された労働力をもって生産現場に赴き、生産労働を行って賃金を得る。しかしこの賃金は、あくまでも労働力を提供した男性のものである。もちろん個々の家計内での取り決めや慣習にしたがって、男性が女性に賃金の一部を分け与えたり、その具体的な運用を任せたりすることはありうるが、あくまでも賃金は男性労働者に対して支払われたものであり、これを所有するのは男性労働者である。ここには一種の搾取関係の存在を認めることができる。労働力の、したがってこれと引き換えに得られた賃金の所有者である男性労働者が、女性から再生産労働の成果を搾取しているのである。 被雇用者の家族のなかに成立する、このような構造を、何と呼べばいいだろう。日本を代表するフェミニズム理論家の上野千鶴子は、被雇用者の家族では生産活動が行われていないので、ここに成立する家父長制は生産様式ではなく再生産様式だと規定した(『家父長制と資本制』)。これにしたがって、家父長制的再生産様式と呼んでおこう。もちろん、旧中間階級世帯の妻は再生産労働にも従事しているから、家父長制的再生産様式は旧中間階級世帯にも、また家族経営の資本家階級世帯にも成立しうる。 このように家父長制は、再生産様式であるとともに生産様式でもあり、いずれにしても男性による女性の搾取をもたらす。ここから、男性と女性の関係は、一種の階級関係だという主張が生まれてくる。たとえばデルフィは、次のように主張する。この社会には家父長制と資本主義という二つの搾取システムがあり、前者を基礎として性階級、つまり男性階級と女性階級が形成される。こうして人々は、家父長制における所属階級と資本主義における所属階級という、二つの所属階級をもつことになるのである(『なにが女性の主要な敵なのか』)。この章の冒頭で述べた、「男」という階級と「女」という階級とは、このような意味である。 企業にも持ち込まれる家父長制 しかし現代では、多くの女性たちが、家業に従事するのではなく、家事と育児に専念するのでもなく、家族の外で働いて賃金を得ている。しかしその賃金は、男性に比べて大幅に低い。それは、なぜだろうか。何人かのフェミニズム理論家たちは、それは元来は家族のなかに存在するものだった家父長制が、家族の外部にまで広がっているからだと考える。 シルヴィア・ウォルビーは、女性が家族の外で職業を得る傾向が強まったことから、公的な場にまで家父長制が広がったのだと主張し、このような変化を「私的家父長制から公的家父長制への移行」と呼んだ。彼女によると、私的家父長制とは、家長が私的領域において女性を直接かつ個人的に支配するものであり、ここでは夫または父親が、直接の抑圧者かつ受益者となる。これに対して公的家父長制は、雇用や国家に基盤をもつもので、女性が私的領域のみならず公的領域にも進出することによって形成された。そして20世紀以降は私的家父長制よりも公的家父長制の方が重要になり、ここでは女性の搾取が主に公的領域で、集団的に行われている、というのである(『家父長制を理論化する』)。 これに対して経済史家の森建資は、家父長制はもともと企業のなかにあったのだと主張する。彼は英国における雇用関係の歴史的成立過程に注目し、歴史資料の分析から、近代資本主義の雇用関係の中軸である雇用主の指揮命令権は、男性家長の妻と子どもの労働に対する支配権から発達してきたことを明らかにした(『雇用関係の生成』)。これを受けて大沢真理は、企業の労働者支配は本来的に「家父長制」だったのであり、このため必然的に、女性労働者は低い地位に置かれてきたのだ、と指摘する(「現代日本社会と女性」)。 これら二つの説明は、食い違っているわけではない。企業における労働者の支配は、その歴史的起源のひとつである、近代初期の家父長制的な家族経営から継承されたと考えられる。そしてある時期まで、ここで支配を受ける労働者階級の大多数は男性であり、男性雇用主による男性労働者の支配が主流だった。しかし女性の進出によって企業における労働者支配は、男性雇用主と男性上司による女性労働者の支配という、家父長制的な性格を強めてきたのである。 このように、家族のなかには家父長制があり、女性たちは再生産労働の担い手となっている。このことによって女性たちは男性から搾取されることになる。またその後、多くの女性たちは家族の外で生産労働にも従事するようになったが、ここで再生産労働の負担が制約となり、生産労働への参加は限定的とならざるを得ない。だから女性たちは、非正規労働者になりやすく、労働時間が短くなりやすく、役職につくことが少ない。このため女性の所属階級は下層階級になりやすく、あるいは各階級のなかの下位の部分に位置づけられやすくなる。さらに企業の家父長制的な構造により、女性たちは女性向けの低い地位へと位置づけられる。また中小零細企業の資本家階級や旧中間階級の女性たちは、家父長制的生産様式という経済構造のなかに位置しており、不払いの生産労働に従事している。こうして彼女たちは、資本家階級および旧中間階級の下層に位置づけられるのである。 こうした構造があるために、女性の収入は男性より大幅に低いのである。もちろん、男女が対等な家族や、対等な会社というものは、たしかに存在するだろう。しかし、それは例外的な一部である。この社会で生きる男性たちは、つねに、自分は女性たちを搾取しているのではないかと自問した方がいい。 * さらに【つづき】〈「格差拡大」により日本に出現した「新しい下層階級」…現代日本の「階級社会」のしくみ〉では、「新しい階級社会」とはどのような社会なのか、詳しく見ていく。 【つづきを読む】「格差拡大」により日本に出現した「新しい下層階級」…現代日本の「階級社会」のしくみ
「将棋の駒を持つのは初めて」だったのんさん、女王獲得の福間香奈女流六冠を祝福「格好よくてしびれました」
女優の「のん」さんが17日、都内で行われた将棋のマイナビ女子オ…
遠野なぎこさん 死去 45歳 「警察の見解によりますと、事故によるもの」「故人が生前大切にしておりました愛猫は無事に保護」
俳優・遠野なぎこさんのブログが更新され、遠野なぎこさんが死去した…
【大雨警報】兵庫県・神戸市に発表 17日13:12時点
気象台は、午後1時12分に、大雨警報(土砂災害、浸水害)を神戸市に発…
【大雨警報】愛知県・蟹江町に発表 17日13:06時点
気象台は、午後1時6分に、大雨警報(浸水害)を蟹江町に発表しました…
【洪水警報】岐阜県・羽島市に発表 17日13:02時点
気象台は、午後1時2分に、洪水警報を羽島市に発表しました。また大雨…
「ごみを前の日から出さないで」クマを引き寄せないため“ごみ出しルール”徹底呼びかけ 福島町
7月12日、男性がクマに襲われ死亡した北海道福島町では、クマを引…
スーツケースを空港に放置したとして書類送検 愛知県の30代男性 規定サイズを超えていて機内に持ち込めず… 中部空港
愛知県常滑市の中部空港に空のスーツケースを放置したと…
高知・徳島で「線状降水帯」発生のおそれ 昼過ぎから災害危険度が急激に高まり1時間70ミリ総雨量300ミリに達する可能性
気象庁はけさ、高知と徳島に「線状降水帯の予測情報」を発表しました…
東海地方で大雨 三重では「7月の月間雨量超え」豪雨に あす朝まで多いところでさらに200ミリの雨量予想
きょうは東海地方から西日本にかけて大雨となり、午後は四国で線状降…
【洪水警報】三重県・桑名市、川越町に発表 17日11:43時点
気象台は、午前11時43分に、洪水警報を桑名市、川越町に発表しました…