【ワシントン＝阿部真司】人身取引罪などで起訴された米実業家ジェフリー・エプスタイン氏（勾留中の２０１９年に死亡）に関する捜査資料の公開を巡り、トランプ米大統領と岩盤支持層との溝が深まっている。 　幕引きを図るトランプ氏に対する支持者の不満が広がっているためだ。 　トランプ氏は１６日、「私の過去の支持者はでたらめをうのみにしてしまった。もはや彼らの支持は望んでいない」とＳＮＳに書き込んだ。この日、大統領執務室で記者団から投稿について問われると、情報公開を求める支持者らを「愚かな人々」と呼び、「時間を無駄にしている」と切り捨てた。 　エプスタイン氏は生前、政財界に幅広い人脈を築いた。親交があった人物にはクリントン元大統領や英国のアンドリュー王子も含まれるとされる。 　トランプ氏の岩盤支持層「ＭＡＧＡ（マガ）」の一部は、未成年者との性行為を仲介したとして起訴されたエプスタイン氏を巡り、買春する人の名前を記した「顧客リスト」が存在し、顧客にはクリントン氏らが名前を連ねているとの見方を強めていた。リストが暴かれれば、エリートや官僚機構が結託した「ディープステート（闇の政府）」の腐敗が明らかになると期待を寄せた。 　トランプ氏はこれまでリストの存在を支持固めにつなげてきた。昨年の大統領選では「エプスタイン事件を捜査する」と述べ、真相を解明すると主張していた。政権発足後もパム・ボンディ司法長官が今年２月、ＦＯＸニュースのインタビューでリストについて問われ「私の机の上にある」と述べ、公開を示唆した。 　しかし７月７日、政権はこうした姿勢を一転させ、リストは存在しないと発表した。ＭＡＧＡの代表格とされる共和党のマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は８日、自身のＸ（旧ツイッター）で「リストがないとは誰も信じない」と批判した。 　トランプ氏が投稿するＳＮＳ「トゥルース・ソーシャル」にも１６日、新事実が発掘されることへの期待を裏切られた支持者から「エリートたちの仮面をはがすと約束していたはずだ」「政権にうそをつかれることにはうんざりしている」との批判的な投稿が相次いだ。 　トランプ氏と関係を悪化させていた実業家イーロン・マスク氏は６月、トランプ氏の名前が「エプスタイン・ファイルにある。文書が公開されない真の理由はそれだ」とＸで暴露した。その後削除したが、トランプ氏が自身に都合の悪い情報を隠蔽（いんぺい）しようとしているとの疑惑を招いた。 　政権はエプスタイン氏の死因は自殺としている。これを裏付ける証拠として、政権は同氏の独房の前を映した動画を公開したが、時刻表示が不自然に切り替わる「失われた１分間」（米ＭＳＮＢＣ）があり、疑惑が深まった。 　ＭＡＧＡはトランプ氏の再選を強く後押ししただけに、来年の中間選挙への影響を懸念する声も出ている。第１次トランプ政権で首席戦略官を務めたスティーブン・バノン氏は１１日のイベントで「このままではＭＡＧＡ運動の１０％を失い、２６年の中間選挙で（下院の）４０議席を失う」と予測した。