(上左から)自民党総裁の石破首相、立憲民主党の野田代表、公明党の斉藤代表、日本維新の会の吉村代表、共産党の田村委員長、(下左から)国民民主党の玉木代表、れいわ新選組の山本代表、参政党の神谷代表、社民党の福島党首、日本保守党の百田代表、みんなでつくる党の大津党首 参議院選挙の投開票日が間近だ(7月20日)。これほど「変数」が多く、結果が読みづらい国政選挙も珍しい。 もともと衆議院で少数与党となっている自公の苦戦、一枚岩になれず個々で戦う立憲・維新・国民、そして"旋風"を巻き起こしている参政党......。 これまで300以上の選挙に携わってきた選挙プランナーの松田馨氏と、自動化技術やデータサイエンスを生かした世論調査、選挙予測・分析を得意とするJX通信社代表・米重克洋氏に、7月20日投開票の参院選各党の現状と戦略を分析してもらった! 【写真】参議院を分析したふたりのプロ * * * ■コメ大臣効果は"ドーピング"止まり ——まず一般論として、参院選というのはどういう選挙でしょうか。 米重 衆院選と違って、必ず3年ごとに選挙があり、半数が入れ替わっていく。それもあって、日本の政治の変化は参院選を起点にして始まることが多いですね。 松田 半数ずつしか入れ替わらないので、一度勝てば院での優勢を維持しやすい。逆に言えば、ここで負けた分は6年後まで取り返せない。それだけに「参院を制するものは国会を制する」という言葉もあります。 米重 分析対象としては、参院選は1人区もあるし、複数人区もあるし、比例代表もある。変数が多い「面白い選挙」です。 松田 今回の場合、極めて特徴的なのは、すでに衆院で自民党・公明党が過半数割れしていることです。その状態でも自公が与党と名乗れているのは、参院で過半数を取っているからで、そこが今回どうなるか。 選挙プランナーの松田馨氏 ——今回は計125議席を巡る争いで、定数は全国比例代表が50議席、都道府県単位の選挙区が45区(島根・鳥取と徳島・高知は合区)・75議席。そのうち32区が1人区、13区が複数人区です。 自民党・公明党合わせて50議席以上を取れば参院で与党過半数を維持でき、49以下だと過半数割れとなりますが、この勝敗ラインをどう見ますか? 松田 自公が旧民主党に逆転され、ねじれ国会になった2007年の参院選での自民党の獲得議席が37でした(「消えた年金」問題が発覚した後の選挙)。今回も同水準まで落ち込むと、過半数割れが現実味を帯びてきます。 米重 当時と明確に違うのは、今は野党がバラバラだということ。この点をどう評価するかで選挙情勢の見方は変わってきます。 ただ、報道各社の世論調査を見ると、確かに自民党の支持率の落ち方、内閣支持率の低さは07年参院選並みですね。 松田 小泉進次郎農林水産大臣の就任で一度はやや立て直した感があったものの、最新の世論調査ではまた下がってしまいましたね。一時の"ドーピング"にはなりましたが、下げトレンドを跳ね返すのは難しい。 米重 報道8社合同の出口調査によれば、6月の東京都議選では自民支持層の53%しか自民候補に入れていません。要するに、投票に行った支持者10人のうち4、5人は他党候補に入れたわけです。 松田 かつては国政選挙であれば8割くらい取れていたのに、最近は支持層固めができず、歩留まりがかなり悪くなっています。 ■参政党旋風で多くの選挙区が接戦に 松田 参院選の場合、比例ではそこまで大きな差は出づらく、おそらく自民は良くて14議席、悪くて12議席くらい。やはり選挙区、特に1人区の勝敗が重要ですが、今回は少し様子が異なります。 米重 難しいのが、急速に支持率を伸ばしている参政党の影響をどう評価するか。 参政は全45選挙区に候補者を立てています。もちろん比例票の掘り起こしという目的もあるんですが、これが各1人区で主に自民候補の票を削るだけでなく、複数人区では当選圏内に入ってくる可能性がある。 従来の参院選は、ひとりしか当選できない1人区の帰趨(きすう)が全体の勝敗に大きく影響したので、1人区に注目しておけばよかったのですが、今回は自民党や立憲民主党、公明党などの指定席となってきた複数人区でも波乱がありそうです。 参政党の支持層は、野党各党の支持層の中では最も安倍政権に対して肯定的で、旧民主党政権に対してはものすごくネガティブ。言い方を変えれば、安倍政権時代の自民党なら包摂していたような層であるという側面は確かにあるんです。 JX通信社代表の米重克洋氏 松田 その動向をどう読むか、難しいですね。今の参政党支持層は、私の感覚としては「現状否定」「政権批判」の意向が強いとみています。 仮にこの人たちが、もともと自民党には投票しない層だとすると、むしろ野党候補の票を削るケースも選挙区によっては出てくるかもしれませんし。 米重 自民党は岸田政権後期から石破政権にかけて、20代から50代ぐらいのいわゆる現役世代の支持層がはがれてきているんです。 昨年の衆院選では、ディアスポラ(流浪の民)となっていたその層を、国民民主党が"現役世代の利益代表"としてある程度取り込んで躍進しました。 ところが、国民民主党としては経済政策で引きつけたと思っていた新たな支持層が、実はけっこう保守的、右寄りな傾向を持っていた。そのひずみが山尾志桜里さんの参院選擁立騒動で一気に噴出し、一部が今度は参政党へ——という流れはあるのではないでしょうか。 松田 それと重要なのは、厚生労働省の国民生活基礎調査を見ても、生活実感が苦しいという人が明らかに増えています。生活が苦しいと思っている人は、基本的に与党には入れない。その意味でも自公は厳しい戦いになります。 米重 立憲民主党のキャッチコピー「物価高から、あなたを守り抜く」には、ある種の本気度を感じました。「政治とカネ」の問題も当然大事なんですけれど、それより物価高という有権者の関心事を争点化しようという判断は、昨年の衆院選との明確な違いです。 世界中どこを見渡しても、物価や失業率が高いと必ず政権に逆風が吹く。その解決策を説得的に説明できなければ、簡単に政権が吹き飛んでしまう。 松田 都議選でも、立憲民主党は大方の予想より議席を伸ばした印象です。共産党との選挙区調整ができたことも大きいですが、特にお気に入りの野党がないときに、なんとなく最大勢力に入れておこうという"野党第1党効果"もありますよね。参院選でも多少追い風はあるでしょう。 ■"タレント候補"はもう古い? ——国民民主党の山尾さん擁立を巡る騒動(公認を取り消し、山尾氏は無所属で東京選挙区に出馬)、いわゆる"山尾ショック"は支持率に影響があったんでしょうか? 米重 明確にありました。時系列で見ると、国民民主党の支持率は「103万の壁」の話が盛り上がった3月末あたりがピークで、そこから徐々に下がっていた。山尾さんの擁立は、そのトレンドを明らかに加速させました。 ——同じ国民民主党から比例で出馬した須藤元気さんにしても、立憲民主党から比例で出た蓮舫さんにしても、あるいは"タレント候補"と呼ばれる人たちにしても、政党にとっては「損して得取れ」——つまり、ある程度の批判はあっても、集票力というプラスが上回ると計算してのことなんですか? 松田 いや、あまりそこは考えていなかったと思います。全国比例はだいたい100万票で1議席ですが、個人名だけで100万票取れる人なんてほとんどいません。 批判が起きても今の党勢であれば大きな問題はないと判断して、当選後の活躍に期待したのかなという気がします。山尾さんは衆院議員、須藤さんは参院議員経験者ですから。蓮舫さんも同じで、支持層を固める効果はあっても、党全体の得票が大きく伸びるわけではないでしょう。 米重 著名人を参院選の比例で立てるという発想がまだ政党の側にあるとすれば、それはもう古いんじゃないかと思います。確かに昔は、ものすごく知名度の高い方がぽっと出て、大量に得票するみたいなこともありましたが。 松田 舛添要一(ますぞえ・よういち)さんとか(01年参院選に自民党から出馬、158万票でトップ当選)。 米重 みんな同じものを見て、同じものが好きという"テレビの時代"なら効果はあったと思うんですけれど、今は"インターネットの時代"で、みんな違うものを見て、違う人が好きで、違うことに関心がある。有名だからというだけの理由で候補者を立てるのは、リスクのほうが大きいと思うんです。 松田 やっぱりブランドですよね。党の方向性と候補者のイメージが合致すれば、ブランドがより強化される。逆に、合わない人を引っ張ってくるとハレーションを起こす。 あとは純粋に戦術的な話でいうと、やはり全国比例に候補者をたくさん立てて、その人たちが活動してくれることによって党全体として活動量が増え、票が多少増えるということはあると思います。 ■減税vs給付、受けがいいのは...... ——野党は軒並み減税を掲げ、与党は1人当たり2万円の現金給付を公約としました。どちらが選挙に「効く」と思われますか? 米重 各種世論調査で、減税のほうが支持が高いという結論がすでに出ています。年金など行政サービスに支えられている人が多い60代以上はまだ給付への期待が比較的高いんですが、働いている世代は明らかに減税のほうに強い関心がある。 松田 物価高対策という側面はわかりますが、減税を訴えるなら代わりに医療費負担を少し増やすなど、「受益」と「負担」の話をセットで議論すべきだと思います。しかし与党にその体力がなく、一方で野党は財源の根拠が弱いサービス合戦のような主張が多くなった印象です。 米重 特徴的なのは日本維新の会で、減税よりも「社会保険料を下げる」というメッセージを前面に押し出していますね。あとは、国民民主党も後期高齢者の医療費窓口負担を原則2割、マックス3割と、現役世代に近い水準にしていくと。 両党はシルバーデモクラシー的な観点から、「現役世代が割を食っている」と感じている人たちに刺さる政策を打ち出そうとしています。 松田 ただ、若いうちはピンとこなくても、高齢者にとっては医療費窓口負担が2割なのか3割なのかで、大きく出費が違います。社会保障をこのまま維持できるのかなど、本来は政治家が本気で議論しないといけないんですが。 米重 社会保険料の話が難しいのは、いわゆる現役世代の中でも、40代、50代になると体の節々が痛いとか、いつもほんのり具合が悪いとか、老後の不安がちらついてきたりとかするわけです。 世論調査をしても、この年代から急速に医療、年金、福祉に関心が向いていく。特に女性はその傾向が強く、「社会保険料を減らして手取りを増やす」という議論にそう簡単になびかないという面もあるんです。 松田 それと、自公の皆さん自身も、給付の評判が悪いというのはよくご存じです。その中で工夫をしたと言えるのが、いわゆる低所得(住民税非課税)の方と、それから子供には追加でさらに2万円が支給されるパッケージ。 「1人当たり2万円」では響かなくても、「お父さん、お母さん、お子さん2人で計12万円」だと、けっこう迫力が出てくる。現役世帯、子育て世帯は今の自民がすごく弱いゾーンですが、選挙期間を通じてそこに刺さるかどうか。 * * * 後編では選挙プランナーの松田馨氏とX通信社代表・米重克洋氏が、「外国人」問題や各党のネット戦略の影響などを語る。 ●米重克洋 Katsuhiro YONESHIGE JX通信社代表。1988年生まれ。大学在学中の2008年に報道ベンチャーのJX通信社を創業。世論調査の自動化技術やデータサイエンスを生かした選挙予測・分析に加え、報道機関や政府・自治体に対してAIを活用した事件・災害速報を配信するサービス「FASTALERT」、ニュース速報アプリ『NewsDigest』も手がける ●松田馨 Kaoru MATSUDA 選挙プランナー。1980年生まれ。株式会社ダイアログ代表。2006年7月の滋賀県知事選挙で初当選した嘉田由紀子氏のPRプランナーを務めたことをきっかけに、地方から国政まで全国300を超える選挙に携わってきた。現職に挑戦する無所属・新人の依頼も数多く引き受けながらも通算勝率は7割超。テレビ・配信ドラマや映画の選挙監修も多数 撮影/五十嵐和博(対談) 写真/共同通信社
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