「電子」といったら、何を思い浮かべますか？　スマートフォンやパソコン、電子メールや電子書籍…。確かにこれらは電子を利用していますが、ほんの一例。じつは、ほぼすべての現象は電子が引き起こしている、といっても過言ではないほど、電子は身の回りに満ちているんです！　そんな電子の不思議なふるまいや、多岐にわたるはたらきをとりあげた、『電子を知れば科学がわかる』（江馬一弘著、講談社ブルーバックス）から、読みどころを抜粋してお届けします！ ＊本記事は、『電子を知れば科学がわかる』（ブルーバックス）を抜粋・再編集したものです。 磁石を割っても、N極とS極は分離できない 電子には、他にも重要な性質があります。それは、「電子は“小さな磁石”である」ということです。 電気にはプラスとマイナスの2種類がありますが、磁気にもN極とS極という2種類があります。しかし電気と磁気には大きな違いがあります。電気はプラスとマイナスを分離することができます。実際、陽子はプラスの電気を帯び、電子はマイナスの電気を帯びており、これらは引き離すことができます。 しかし磁気の場合はそうはいきません。N極とS極を分離しようと思って、磁石を半分に割ってみると、断面に新たなN極とS極が現れます（図「磁石を割ってもN極とS極は分離できない」）。 これは何度割っても、どのような割り方をしても同じです。N極とS極を単独で取り出すことはできないのです。Ｎ極とＳ極はつねにペアで存在する、ということになります。 では、磁石をどこまでも小さく割っていくと、何に行きつくのでしょうか。 「電子」は最小の磁石である もうこれ以上、割ることのできない最小の磁石は実は電子です。電子はN極とS極をもつ最小の磁石なのです。 電子のもつ磁気の源は、「スピン（スピン角運動量）」と呼ばれています。この名前は、電子の磁気的な性質の源を便宜上、「電子が自転している（スピンしている）」と考えることで説明できることに由来しています。 鉄心に導線を巻き付けて導線に電流を流すと電磁石になることは、理科の授業で習うのでご存じでしょう。鉄心は磁気を強くするためのもので、導線を何重にもグルグル巻きにするのも磁気を強くするためです。実は、輪っか状の電流があれば、図「環状の電流によって発生する磁力線」のような磁気（磁力線）が生じます。 電流が流れている輪っか一つでも、磁気は弱いですが電磁石になるのです。実は地磁気も、地球の奥深く、液体の鉄を主成分とした外核という部分に環状の電流が流れることで発生していると考えられています。 さて、電子を球だと考えてみましょう。電荷はこの球に均等に分布しているとします。この電子が自転すると、電荷をもった各部分が回転しますから、環状の電流が発生しているのと同じことになります。すると、この球は一種の電磁石とみなすことができ、N極とS極をもつ小さな磁石になることが分かります（図「電子の自転によって磁気が生じるイメージ」）。 また、電子は原子核のまわりを“公転”もしている（軌道運動している）とみなせるので、これも環状の電流とみなすことができます。つまり電子の軌道運動によっても磁気が生じることになります（図「電子の軌道運動によって磁気が生じるイメージ」）。 以上はミクロな世界の物理学である量子力学を考慮していない、古典的な物理学での描像であり、正確なものとは言えません。そもそも現代物理学では、電子は大きさのない「点」だと考えられており、大きさのある球という描像は正しくありません。また、電子が原子核のまわりを公転しているという言い方も厳密に言えば正しくありません。 「電子が自転している」、「電子が公転している」という描像は、あくまで電子の磁気的性質をイメージすることを助ける便宜上の説明だと考えてください。 私たちが目にするマクロなサイズの磁石の磁気は、主に電子が生み出しています。 電子は、一体どのようなものなのか…アメリカの物理学者によって解き明かされた「電子の正体」