美川憲一、歌手生活60年。発売当時は売れ行き“低調”だった「さそり座の女」をスターダムにのし上げた盟友・コロッケとの“ドッキリエピソード”を明かす

 音楽番組では長きにわたって魅惑の中低音を響かせつつ、CMやバラエティ番組ではド派手な衣装を披露し、盛り上げ役やご意見番としても引っ張りだこの演歌歌手・美川憲一。今年6月にデビュー60周年を迎え、その記念シングル「これで良しとする」は、なんとB’zの松本孝弘が作曲やギター演奏、GLAYのTAKUROが作詞を手がけるという超豪華作品だ。  近年はシャンソン歌手としても活躍している美川に、音楽ストリーミングサービス(サブスク)のSpotifyで注目されている自身の人気曲ランキングを見てもらいつつ、音楽に対する一途な想いを語ってもらった。(全3回の第1回) 【画像】1966年から2024年まで時代を超えて愛される楽曲が並ぶ…美川憲一 Spotify再生回数ランキング ほか 藤井風などが気になりつつ、シャンソンを好み、コンサートでもたっぷり披露  まず、美川のSpotifyの月間リスナーは常時3万人前後と、知名度の割にはやや少なく感じる。とはいえ、公式SNSのフォロワー数は、YouTubeが約7万人、インスタグラムが約5万人、Tik Tokが2万人超と、芸歴60年のアーティストの中では最高峰と言えるだろう。サブスクについては、 「時間のある時にいろんな音楽を聴いています。どちらかというと昔の曲が多いかな。でも、国内外のシャンソンのCDを聴くほうが多いです。日本の音楽では藤井風さんなど、若いアーティストが次々出ていて気になりますが、シャンソンでは若い方はなかなか難しいですね……」 『さそり座の女』は「“おだまり!”キャラを出して有名になった」と語る  ちなみに、美川はコンサートのプログラムにシャンソンの楽曲を数曲取り入れている。4月のゴールデンウィークに、川崎市麻生市民館での『国府弘子の Piano Party』にゲストで招かれた際も、おなじみの歌謡曲とともに人気曲「生きる」や越路吹雪のカバー「愛の賛歌」、さらには浅川マキのカバー「朝日のあたる家」などをシャンソンとして歌っていて、聴衆がどんどん引き込まれていく様子が印象的だった。驚いたのは、ゲスト枠ゆえ2、3曲歌って退出するかと思いきや、おなじみの歌謡曲も併せて10曲近くを披露するサービスっぷりで、一層会場が沸いたことだ。 「コンサートを観にいらしてくれたんですか? ありがとうございます。せっかくゲストに呼んでくださったんだから、2曲歌うのも10曲歌うのも(衣装を準備する手間は)同じじゃないですか(笑)」  こうした発言の端々からも、やはり昭和からの大スターなのだと感じさせる。それでは、Spotifyの人気曲ランキングを見ていこう。 「さそり座の女」はコロッケのモノマネでブレイク、歌うコツは“強がっている感”  第1位は、2位以下に3倍以上をつけた「さそり座の女」。今では最も有名な美川憲一ソングとして、誰もがこの結果に納得することだろう。  しかし、当時のオリコン売上を見たところ、最高位23位、累計9.7万枚という結果。オリコン集計開始後の最大セールス曲「釧路の夜」(44.5万枚)や集計開始前の「柳ヶ瀬ブルース」は出荷ベースで120万枚以上売れたというエピソードもあるが、 「そうです、『さそり座の女』は、そんなに売れなかったんですよ。この曲は、コロッケがモノマネをしてくれてブレイクしたのが大きいですね。それと一緒に、私からも“おだまり!”と言うキャラクターを出していったことで有名になったんです。それまでは、美川憲一といえば『柳ヶ瀬ブルース』や『釧路の夜』『おんなの朝』などが代表曲でした」  本作はカラオケ部門でも美川憲一の中でダントツの人気(JOYSOUND調べ)。モノマネだけではなく、カラオケの音程バーどおりに歌いきるのを競った番組『千鳥の鬼レンチャン』(フジテレビ系)などでも若い出演者がこの曲に挑戦するほど、幅広い世代に親しまれていると言える。美川自身は、どういった気持ちで本作を歌っているのだろうか。 「『さそり座〜』は、実際に強いのではなく、“強がっている女”のイメージがあるから、歌われる際にはそういうものを出してもらえたらいいと思いますよ。これは、当初B面になる予定で作られていたのですが、《(あなたはあそびのつもりでも)地獄のはてまでついて行く》というフレーズが気に入って、“どうしてもシングルのA面にしてほしい”って、私からお願いをしたんですよ。そんな歌詞、当時でもなかったじゃないですか。ただ、それが時代的にちょっと早すぎたんだと思いますね、そこまで売れなかったのは」  しかし今や、『地獄の果てまで連れていく』というタイトルのドラマができるほど、このフレーズはインパクト抜群で、美川の先見の明には唸らせられる。  先見の明と言えば、この曲の火付け役ともなったコロッケが美川のモノマネをするようになったのは、なんと美川自身のアドバイスがあったそうだが……。 「そうです。もともとそれ以前から、コロッケとは仲がよかったんです。ある年の私の誕生日に20人くらい人を呼んで、コロッケに“みんなの前でモノマネをやんなさい”ってお願いしたら、ちあきなおみさんの『夜へ急ぐ女』とか、ブルース・リーがやかんに向って“アチー!!”と雄叫ぶのとかを長年やっていて。  それで“あんた、同じネタばっかりやっていたら生き残れないわよ。才能があるんだから、私のモノマネをやりなさいよ”って言ったんです。コロッケは、“美川さんのモノマネなんて難しくてできません”って最初は断っていたんですが、ある時、テレビをつけたら、私のモノマネをしているのを偶然見かけて。“あら、私、こんなに口を曲げていないわよ”って思いつつも、“やるじゃない、面白いわ〜!”って、思わず笑っちゃったんです」 大掛かりなドッキリが大成功、“偉そうキャラ”が淡谷のり子さんに刺さる  その後、年が明けた1989年のお正月のモノマネ特番で、コロッケが美川のモノマネで出るというのを知った際、美川はある行動に出た。 「これは張本人が登場したら面白いんじゃないかってビビっとくるものがあって、コロッケの歌の途中から、サプライズで出ることにしたんですよ。当時は、歌手がこういったお笑いの番組に出ていくということはなかったけれど、テレビもご無沙汰しているから、お正月に出れば話題になるかも……と思って。それで当日、誰にもバレないように内緒で、楽屋もない、幕で覆われた所に隠れていたんです。もちろん、コロッケもまったく知りませんでした」  実際、1コーラスをコロッケが美川になりきって歌った後、間奏になってステージの後ろから美川が飛び出してきて、コロッケは大慌て。美川が仕掛けたドッキリは大成功となり、この“ご本人登場”も定番化していくことに。 「あの番組は淡谷のり子さんが審査員でいらっしゃったから、私がサプライズで出ていったら、大喜びなさっていて。淡谷さんは、人に媚びるようなタレントが大嫌いだから、私も強気で行こうと気持ちが高ぶってきたんです。それで、わざと偉そうに、“来てやったわよ、フン!”という態度で通して、歌い終わってから司会の方に感想を聞かれても、“いい迷惑よ”と不機嫌そうに言ったら、それも淡谷さんに大ウケで、会場中が大爆笑になって。そこから街中の空気が変わり始めたんです」 秋元康の作品に惚れ込み作詞を依頼、翌年にはCMもヒットし“紅白”に返り咲き!  正月のモノマネ番組でコロッケとの共演を企てた美川だが、同年半ばには秋元康に声をかけ、彼が作詞、小林亜星が作曲を手がけたシングル「てんで話にならないわ」というユニークでノリの良い楽曲を残している。今回のSpotifyランキングでは圏外だが、そのインパクトのあるタイトルやサビのメロディーから、覚えている人も少なくないであろう。 「秋元さんとは、ここから作品をいろいろと書いていただいて仲良くなりました。当時、新宿のゴールデン街に作家の方たちがよく集まっているようなお店があって、そこで彼が作詞した美空ひばりさんの『川の流れのように』を発売前のデモテープで聴かせていただいたんです。そうしたら本当に素晴らしくて、“こんな歌を歌いたい!”と思い、依頼しました。この頃、なんとなく周りの空気感が変わってきましたね。それで、“今だ、しっかりやらなきゃ……”と思って、一生懸命に仕事を頑張っていたんです」  美空ひばりには、人生を見渡すような歌詞を提供しつつ、美川憲一には、コミカルで中毒性の高い歌詞を提供するという秋元康の守備範囲の広さは当時からすごかったが、そこからすかさずヒットを目指す美川のセンスも見事だ。  さらに、その翌年には、こちらもコロッケのモノマネレパートリーでもある歌手のちあきなおみと『タンスにゴン』のCMに出て、「もっと端っこ歩きなさいよ」と言い放ったのも話題となり、美川自身も「ちあきさんとの共演が大きかった」と振り返る。  そうして釻91年末には、ついに17年ぶりに『NHK紅白歌合戦』に復活出場となり、恩人でもあるコロッケとの共演を果たすのだった。  ここまでの復活劇について、美川は、一つひとつのプロセスをとても丁寧に答えてくれ、いきなり再ブレイクしたのではなく、3年がかりで着実にステップアップしていったことがよく分かった。テレビではド派手なご意見番のイメージが強いかもしれないが、実際は、謙虚でいつつも、相手を喜ばせようという意欲に満ちていて、再ブレイクも必然だったように思われる。  次回は、ご当地ソングの定番となった「柳ヶ瀬ブルース」や、復活後19年連続出場となった『NHK紅白歌合戦』のエピソードについて語ってもらおう。 【INFORMATION】 ◎デビュー60周年記念シングル発売中 表題曲「これで良しとする」、カップリング曲「華散れど月は輝く」ともにB釻zの松本孝弘さんが作曲、GLAYのTAKUROさんが作詞を担当。60周年にふさわしい楽曲となった本作をご堪能あれ! ◎コンサート情報 ・2025年7月20日「斎藤絹枝ふれあい歌踊チャリティーコンサート」ゲスト出演  会場:神奈川県愛川町文化会館ホール ・2025年7月24日「東京都 美川憲一・コロッケスペシャルコンサート」  会場:J:COMホール八王子/チケット:全席指定7700円 詳細は公式ウェブサイトにて  【PROFILE】 美川憲一(みかわ・けんいち) 1946年5月15日生まれ。長野県出身。作曲家・古賀政男の指導を受け、1965年、シングル「だけどだけどだけど」でデビュー。釻66年、3rdシングルの「柳ヶ瀬ブルース」が大ヒットとなり、以降も「新潟ブルース」「釧路の夜」などがヒット。釻68年には「釧路の夜」でNHK『紅白歌合戦』に初出場し、以降、7回連続出場。釻80年代後半、コロッケによるモノマネや、ちあきなおみとのCM共演などが話題となり再ブレイク。釻91年には『紅白歌合戦』に17年ぶりの復帰を果たし、以降19回連続出場となった。並行して釻90年代後半からはシャンソンにも力を入れており、定例のコンサートを開催、シャンソンだけのアルバムも制作している。釻24年には、デビュー60周年記念シングルとしてB’zの松本孝弘が作曲、GLAYのTAKUROが作詞を手がけた「これで良しとする」を発表した。 臼井孝(うすい・たかし) 人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。 デイリー新潮編集部

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