【詳報】“ルフィ”強盗事件の裏側「脱出計画があった」フィリピンの収容所で何が…強盗に手を染めた犯行グループの“暴走”(後編)【#司法記者の傍聴メモ】

全国で相次いだ指示役“ルフィ”らによる連続強盗事件。フィリピンからSNSで「闇バイト」を募り、集めた若者らを操って強盗を指示するその手口は、社会に衝撃を与えるものだった。日本国内で次々と強盗事件が起きる裏で、フィリピンの収容所にいた男らはどのように犯行を計画し指示を出していたのか。犯行グループの幹部としては初めて行われた小島智信被告(47)の裁判で、グループが特殊詐欺から強盗に犯行を凶悪化させていった経緯や、事件の裏で進められていた“脱出計画”が明らかになった。 (社会部司法クラブ記者・宇野佑一)【前後編の後編】【前編】では、渡辺被告の特殊詐欺グループが摘発されるまでを詳報した。 ■「日本に帰るなら死んだ方がマシ」グループトップは賄賂2億円以上を使って… 2019年11月、フィリピン当局に摘発された渡辺優樹被告をトップとする特殊詐欺グループ。当初、小島被告は渡辺被告とともに逃走したが、2021年4月渡辺被告の誕生日会の最中に身柄を拘束された。「日本に帰るくらいなら死んだ方がマシだ」と口にしていたという渡辺被告。小島被告に対し、日本に強制送還されることを恐れ、フィリピン当局に計2億円以上の賄賂を渡したと話したという。賄賂の目的には、自身を犯人とする暴行事件をでっち上げ、虚偽の告訴をさせることで強制送還を阻止することや、身柄を解放させることがあった。ただ、実際に裁判所から出国禁止命令が出て強制送還は免れたものの、身柄の解放は実現しなかったという。 2人は半年ほど収容所や刑務所を転々とさせられた後、2021年11月、首都マニラの郊外にあるビクタン収容所に入った。この時すでに今村磨人被告と藤田聖也被告がいたという。4人は拘束先で一堂に会することになった。 ■収容所でスマホ…VIPルームにカジノまで 当初は「犬小屋のような場所で生活をしていた」という渡辺被告と小島被告。だが、収容所では必要なものを金で手に入れることができたという。スマートフォンは約5万円を職員に渡して入手。「VIPルーム」と呼ばれるベッドやキッチンがついた個室は収容者間で売買されていて、渡辺被告は約25万円を払い個室に住んでいた。部屋に空きがなかったため、小島被告は別のスペースにベッドを置き、カーテンをつけて個室のようにして生活していたという。 さらに、収容所にはカジノやマーケットもあったほか、外部に食料を注文することもできた。和牛を取り寄せていた今村被告は「和牛の磨人」というあだ名がついていたという。 ■“今村被告のビジネス乗っ取りスペインへ”トップから脱出計画の協力求められ… 収容所内で羽振りの良さを見せていた今村被告だが、小島被告と藤田被告がいる渡辺被告グループとは別のグループとして動いていた。検察側によると、今村被告は覚醒剤の密売のほか、通信アプリ「テレグラム」で“ルフィ”を名乗りいち早く強盗の指示を始めていたという。収容所内で犯罪ビジネスを成功させていた今村被告。 この頃、拘束されたことをきっかけに特殊詐欺による収入を断たれていた渡辺被告は、自身の身柄を解放させ、その後、逃走するために新たな金の稼ぎ方を考え始めていた。そこで目をつけたのが今村被告のビジネスだった。 “渡辺被告グループの人員を送り込むことで今村被告のビジネスを乗っ取る。稼いだ金で当局に賄賂を渡し、身柄を解放させてスペインに逃走する——”小島被告はそんな脱出計画を渡辺被告と藤田被告から聞かされたという。計画実現のため、渡辺被告から「実行役になる人を紹介してほしい」と協力を求められた小島被告は強盗に加担することになった。 ■“ルフィ”が強盗の計画立案“白鳥”は実行役募集「タタキですけど大丈夫ですか」 収容所にいた2つのグループの指示役らは、役割を分担し組織的に強盗を実行していった。 検察側によると、“ルフィ”を名乗る今村被告が外部の情報提供者から強盗に入る家の資産状況や家族構成などの情報を入手し計画を立案。今村被告自身も実行役や運転手役を手配していたという。“sugar”を名乗る渡辺被告は、実行役を集めて藤田被告に紹介するよう小島被告に指示。 小島被告は旧ツイッターで“白鳥”と名乗るアカウントを作り「高収入 根性さえあれば大丈夫 #闇バイト」などと投稿した。自身のSNSを使うとともに、旧知の闇バイト求人業者にも依頼して実行役を募集したという。応募してきた人は「テレグラム」に誘導し「タタキ(=強盗)ですけど大丈夫ですか」と確認。「詳細は上司から連絡がいきます」と説明して“Kim”を名乗る藤田被告に紹介した。藤田被告は実際に誰を使うのか判断し、実行役に計画の詳細を伝えていたという。 渡辺被告グループと今村被告グループは互いに情報共有し連携しつつも、それぞれが集めた実行役らに指示を出していたが、犯行を指示する場面に小島被告はいなかったという。 日本で奪った金は、強盗のターゲットの情報を提供する「情報屋」「今村被告グループ」「渡辺被告グループ」で3等分し、それぞれのグループが雇った実行役に分配。協力者を通じて渡辺被告のフィリピンのカジノ口座に送金させた。送金の段取りや金の管理は渡辺被告がしていたという。 ■手口を凶悪化させ最悪の結末に…「定点カメラを設置できないか」トップから相談されたその場所は 2022年10月から12月にかけて東京都内と山口県で起こした3件の強盗事件で、実行役を紹介したという小島被告。3つの事件では、全治約2週間のケガをする被害者も出た。 だが、グループはその後、手口を凶悪化させていった。12月下旬に広島市で起こした強盗事件では、モンキーレンチで頭を殴られた住人の男性が一時意識不明の重体になり、脳に障害が残る大ケガをした。 この頃、渡辺被告から地図が送られ「ここに定点カメラを設置して家を見張ることができないか」と相談された小島被告。この場所が、一連の強盗事件で最悪の結末を招く現場だったと後に知ることになる。2023年1月、東京・狛江市の住宅で90歳の女性を死亡させた強盗致死事件—。ついに死者が出たのだ。 狛江事件をきっかけに、フィリピンの収容所から実行役に指示を出している疑いがあるとして4人の存在が浮上。翌2月に日本に強制送還された。国境を越えて特殊詐欺や強盗を続けてきたグループはついに崩壊した。 ■小島被告「暴走していた。手当たり次第やっていた」 小島被告は強盗事件に関する被告人質問で自身の役割について「計画の詳細は知らなかった。集めた実行役は藤田被告に丸投げしていた」と話し、積極的に関与していないと主張。「報酬は闇バイト求人業者に払うもの以外は受けとっていない」と話した。では、なぜ強盗に加担するという危険な役回りを引き受けたのか。 小島被告「収容所から脱走する計画があり、渡辺被告たちが今村被告から金をとるプランの手助けの一環だった。業者を使えば手間もかからず苦ではなかったし、渡辺被告にお願いされれば断らない」 自身を「渡辺信者」と語っていた小島被告。グループトップの渡辺被告からの頼みだったため「断る気持ちにならなかった」とした。 手口を凶悪化させ犯行を繰り返していた当時については「暴走していた。手当たり次第やっていた」と振り返った。 ■東京地裁「被害者だけでなく多くの犯罪者を生み続けた」 7月23日、小島被告は懲役20年を言い渡された。東京地裁は判決で「日本の捜査機関の手が及びにくい海外で、自らの手を直接汚さず、あたかも普通の仕事をするような感覚で常習的、職業的に特殊詐欺に関与し、入国管理施設に収容された後も犯罪と縁を切ろうとせず強盗にまでも連続的に関与した。被害者だけでなく、多くの犯罪者を生み続けた点でも強い非難に値する」と指摘した。 最後に裁判長から「判決の内容はわかりましたか」と問われると、小島被告は「はい」と小さな声で答え法廷を後にした。 ◇ ◇ ◇ 【司法記者の傍聴メモ】法廷で語られる当事者の悲しみや怒り、そして後悔……。傍聴席で書き留めた取材ノートの言葉から裁判の背景にある社会の「いま」を見つめ、よりよい未来への「きっかけ」になる、事件の教訓を伝えます。

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