新ルールで二極化…激化する「ふるさと納税」争奪戦で「勝つ自治体」「負ける自治体」の決定的な違い

仲介サイトでの「ポイント付与禁止」が、むしろ追い風となり空前の駆け込み消費を巻き起こしているふるさと納税。2026年10月からは「返礼品の地場産品ルールの厳格化」と「手数料の透明化」という新ルールが適用される。 ルールの厳格化が進む中、ふるさと納税争奪戦を勝ち抜く自治体の条件とは。経営コンサルタントで、ネットショップの運営に詳しい竹内謙礼氏が分析。 自治体で「ふるさと納税」争奪戦が起きるワケ 総務省の規制強化は駆け込み消費を生み、新たな販売戦略を誕生させる。この「イタチごっこ」が続く限り、ふるさと納税の過熱は収まらないだろう。 ふるさと納税の競争が激化する理由には、自治体側にも事情がある。ふるさと納税は他の税収に比べて財源の使い道の自由度が高い。 たとえば、北海道の白糠町は、サーモンやイクラなどの海産物を返礼品として、2023年度は168億円を新たな財源として得ている。人口わずか7000人の町で得られる地方税の約16倍。一人当たり230万円をふるさと納税だけで集めたことになる。多額のふるさと納税を財源にして、白糠町の給食費や医療費、保育料は無料。農業を希望する移住者に対しては、最大3年間の給料を町が支給される。 住民の生活に直結する財源のため、必然的に関心度も高くなる。「なんであの町よりも、うちの町はふるさと納税が少ないんだ」という思いも生まれやすく、その怒りは議員を通じて首長に向けられる。結果、首長が職員にはっぱをかけることになり、ふるさと納税の競争にさらに拍車をかけることになってしまうのである。 「ふるさと納税」獲得に欠かせない3つの要素 ふるさと納税を増やすためには、「自治体のやる気」と、自治体から業務委託を受ける「中間業者の能力」、そして、返礼品の「商品力」の3つの要素が必要になる。 「自治体のやる気」は、もともと地場産品に重きを置いている自治体であれば、ふるさと納税に取り組むモチベーションは高い。商工課や産業課など、ビジネスへの意識が高い部署がふるさと納税の業務を請け負い、納税額を増やすことに注力する。中には「ふるさと納税課」という単独の部署を設けて、積極的に取り組む自治体も多い。 一方、ふるさと納税を“税金”として捉えている自治体は、納税の一環の業務として財政課などが請け負って、お役所仕事で終始してしまうケースが少なくない。もちろん、財政課が請け負って納税額を増やしている事例もあるが、『ふるさと納税の寄付金を伸ばすぞ!』という意識の高い担当者がつくかつかないかで、納税額が大きく変わってくる。 二つ目の「中間業者の能力」とは、ふるさと納税のほとんどの業務を請け負っている企業のことである。商品企画からページ作り、受注管理やクレーム対応など、自治体の職員がやらなくてはいけない事務仕事以外は、すべて請け負っているのが一般的だ。 中間業者に頼らず自治体の職員だけですべてやればいいという意見もあるが、専門知識を有するEコマースの事業を、素人の公務員に実践させるのは不可能に近い。高度なネットショップ運営のスキルが求められるふるさと納税の事業は、中間業者なしには成立しない。 大手の中間事業者は全国で30社ぐらいあると言われており、自治体によっては、商工会議所に委託したり、ネット通販に精通した会社に委託したりして、中間業者の請け負うスタイルは様々だ。 自治体にお金が回らず、中間業者だけが潤っていると思う人も多いが、実際に彼らの仕事内容を見ると、想像している以上にハードだ。 「ふるさとチョイス」や「さとふる」などの仲介サイトに商品ページを作り、注文を受ける流れはネットショップ運営と同じ。しかし、返礼品を取り扱う事業者が地域内でバラバラに存在しているため、出荷管理はネットショップよりも煩雑になる。寄付証明書などを発送する業務も加わるため、一般的なネットショップ運営よりも仕事量は膨大になる。 これで高い報酬が得られるのであれば、まだ割の合う仕事といえる。しかし、中間業者の報酬は自治体へのふるさと納税額に対しての割合で決まるケースがほとんどだ。つまり、自治体と返礼品を提供する事業者の両者に頑張ってもらわなければ、中間業者の手数料も増えない構造になっている。 自治体の職員にやる気になってもらい、なおかつ返礼品を取り扱う事業者のモチベーションを上げるのは、至難の業といえる。ことなかれ主義の公務員と、一国一城の主の事業者を束ねるのは、想像以上に難易度の高い仕事になる。 平凡な自治体には財政悪化の危険も… 三つ目に重要なのは返礼品の「商品力」である。自治体と中間業者のやる気があっても、返礼品に魅力がなければ、ふるさと納税を増やすことはできない 返礼品で人気なのは、肉、フルーツ、海産物など、普段のスーパーの買い物で、ちょっと高くて買えないような商品群だ。さらに、北海道のカニや宮崎県のマンゴーなど、ブランド力のある地場産品があるかないかによって、自治体の納税額は大きく変わってくる。 また、地場産品の販売を得意としている自治体には、ネットショップ運営に力を入れている事業者も多い。楽天市場やAmazonのネット通販で培ったマーケティングノウハウを生かして売れる返礼品を開発し、商品を魅力的に見せる写真や商品ページで、他の自治体に比べてワンランク上のマーケティング力で戦いを挑むことができる。 一方、魅力的な地場産品がなかったり、ネット通販に精通した事業者が少なかったりする自治体は、必然的に不利になる。都市部や政令都市、その周辺の自治体では魅力的な返礼品を作ることが難しく、税収を流出させることになる。起死回生を狙って、レストランの食事券を提供したり、クラウドファンディングを使ってユニークなサービスを提供したりする自治体もある。しかし、そのような小手先の販促テクニックで、流出した税収をカバーできるほど、ふるさと納税の市場は甘くはない。 人口が多い都市部の自治体であれば、仮にふるさと納税で税収が流出したとしても、住民税や法人税でカバーすることができる。問題は、ただでさえ税収がカツカツの小規模の自治体で、これといった地場産品がないケースだ。 朝日新聞が2022年7月に公表したふるさと納税のデータを分析したところ(参考:朝日新聞「ふるさと納税赤字、自治体の25% 1億円超の町も、穴埋めは交付税」)、都市部だけでなく、地方も含めて4分の1の自治体が赤字になっているという。また、東京23区と20の政令指定市を除いた全国1698市町村についても調査したところ、25%にあたる428市町村が赤字で、町村だけで見ても、全国926町村の15%にあたる141町村が赤字になっている。 ふるさと納税によって都市部の税収が減ることが注目されているが、それ以上に、地場産品がない、ごくごく平凡な町村の財政が悪化していることのほうが深刻といえる。 ネットショップにも似た二極化が進む ふるさと納税の勝ち組と負け組の濃淡は既にはっきりしている。魅力的な地場産品は努力しても簡単に作れるものではないし、自治体の努力や工夫にも限界がある。 一方、勝ち組の自治体の勢いは止まる気配がない。ブランド力のある地場産品を持つ地域は、ふるさと納税の総額が大きいので、広告費にも予算をかけることができる。各仲介サイトでの広告の露出を増やせば、さらに購入者を増やすことができて、納税額を倍々で増やし続けることが可能になる。 毎年、総務省でふるさと納税の受入額の多い20団体が発表されているが、自治体の顔ぶれはほとんど変わらない。この背景には、広告費と納税額が比例しているという事実があり、この構造は、ネット通販業界で、勝ち組と負け組のネットショップの二極化が起きている現状と非常によく似ている。 今後、ふるさと納税はどうなっていくのか。総務省は競争の過熱にブレーキをかけるべく、年々、ルールを厳格化している。そうなると、これからは自治体同士の知恵の絞り合いが過熱していくのではないか。いかにして魅力的な返礼品を生み出せるかが勝負どころとなり、ネットショップ運営と商品開発のスペシャリストが、ふるさと納税を増やすカギを握ることになる。 今後は、各自治体のふるさと納税の担当者の人材確保が過熱していくと予想する。ライバルの自治体から担当者を引き抜いたり、ネットショップを運営する民間企業から公務員に転職したり、人材の争奪戦が起きると思われる。 返礼品の競争から人材の競争へ。しばらくは、ふるさと納税の狂騒曲が続きそうである。 【もっと読む】彼女のために「昼休み返上」→「勝手に早退」した30歳部下…40歳課長がとるべき正しい対処法

もっと
Recommendations

「波消しブロック付近でシュノーケリングをしていた子どもの姿が見えなくなった」 13歳男子中学生が海岸で行方不明に 三重・紀北町

26日夕方、三重県紀北町の海岸でシュノーケリングをしていた13…

タイとカンボジアの軍事衝突、死者30人超…安保理会合では最大限の自制求める声

【シーサケート(タイ東部)=水野哲也、シエムレアプ(カンボジア…

【水難】西伊豆町の海水浴場で遊泳中に溺れたか町田市の75歳男性が意識不明で搬送後死亡…直前に知人らと酒飲み「海に入ってくる」と話す(静岡)

26日午後、静岡・西伊豆町の海水浴場で、県外から遊びに来ていた75歳の…

自動車解体の作業場「ヤード」に盗難車を保管した疑い 名古屋の会社役員の男ら2人逮捕…「ヤード」は愛知・愛西市に

愛知県愛西市の作業場で、盗難車を保管していた疑いで、会社役員の男…

地域交流や防災拠点の役割を担う公園が愛知・春日井市にオープン 地元の物流会社が整備

愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンに、地域の交流と防災拠点…

大宮駅付近の線路から発煙か JR高崎線と宇都宮線の全線、湘南新宿ラインの新宿以北で運転見合わせ 午後8時ごろ運転再開見込み

JR東日本によりますと、午後6時半すぎに宇都宮線の大宮駅付近で線路か…

かがわ総文祭が開幕…総合開会式で秋篠宮さま「多様な才能を開花させることを期待いたします」

全国から約2万人の高校生が集まる「第49回全国高等学校総合文化…

「熱中症のような症状あるので…」海岸で遊泳中に体調を悪くした男性 警察のヘリに救助 北海道

2025年7月26日、北海道岩内町の雷電海岸で遊泳していた男性(37)が体…

【ファイターズ】最高のデビュー ドラ1ルーキー柴田獅子 プロ初登板は3回無失点!「初回は真っ直ぐで勝負。やっぱり1軍はいい」

【7月26日(土) 日本ハム×ロッテ 13回戦 エスコンフィールドHOK…

いま警察官への転職が増加 料理人・看護師…意外な経歴で活躍

実はいま警察官に転職する人が増えています。その現場では意外な経歴…

loading...