インタビュー第3回 AV女優として活動を続ける紗倉まな(32)が、今最も大切にしているのは愛犬「イッヌ様」との日々だ。30歳を前に迎え入れた愛犬は、紗倉の生活を健康的に変え、長年抱えていた「家族コンプレックス」を和らげたのだった。(全4回の第3回) *** 【写真】「セクシー過ぎる」「たまりません」と反響…太ももチラリ、タイトなワンピ姿の紗倉まな。色気ムンムンの黒ドレス姿も 私には今、大切な愛犬がいます。愛情を込めて「イッヌ様」と呼んでいます。 もともと、犬の名前を伏せておきたいという気持ちが最初からありました。病院から毎月送られてくるお知らせやしつけ教室のSNS投稿などで、許可もなく名前が掲載されてしまったりすることもあるので、わざわざ公表するのは控えよう、と思ったんです。それはそうした情報の漏れに伴って、自分がどのあたりに住んでいるかなどの特定を恐れてのことでした。 紗倉まな そこで、何か代わりの呼び方を考えたのですが、ネットスラングで犬のことを「イッヌ」と呼ぶのを知って、面白いなと思いました。ただ、「うちのイッヌが」と言うと、印象としては少し冷たさを感じてしまって……。結局、犬のほうが自分より立場が上だと思っているので、「様」をつけて「イッヌ様」と呼ぶようになりました(笑)。 イッヌ様は言葉を発したりはしませんが、私よりも私のことを見透かしているんだろうなと思う瞬間が結構あるんです。私のちょっとした感情の機微も、すぐに察知して動いてくれたりするので驚きます。 例えば、いつもはソファの上を元気に跳ね回っているのに、私が少し体調が悪いなと思って横たわるとすぐに俊敏な動きを止めて、伏せる形でそばにくっついてきては、「大丈夫?」と言わんばかりに寄り添ってくれたりだとか……。 そうした私の体や感情の変化を誰よりも分かっている気がして、たまにイッヌ様を見て自分の健康状態を測ることがあります(笑)。彼女の反応を見て、「あ、こういう反応をしているってことは、私が元気そうに見えているってことなんだろうな」とか、「こういう態度をしてくるってことは心配してくれているんだな」という基準にしています。何より、本当に可愛くてたまらないので、私も私で常にイッヌ様の健康を心配しているのですが、これはお互い様ということでしょうか……(笑)。 「早く家に帰らなきゃ」 イッヌ様と暮らし始めてから、約2年半が経ちました。三十路になるタイミングで犬を家に迎えようと思ったのは、ある出来事がきっかけとしてありました。 小学生の頃、家に「ポコ」というかわいいポメラニアンがいたんですが、家庭の事情で離ればなれになってしまったんです。その後、別の家庭で「マミちゃん」という名前で暮らしていました。 三年前のある日、「マミちゃんが亡くなった」という知らせが母伝てに届いた時、私の気持ちの揺らぎが強くなったんです。以前から散歩中の通り過ぎる犬を見るたびに「ポコ」のことを思い出しては「私には、犬との生活は無縁なんだろうな」と罪悪感や寂しさを抱いていたのですが、「ついにポコが亡くなった」と知ってものすごく泣いてしまい、「最後くらいは会いたかったな、大好きだったな」としばらくの間落ち込んでいました。 その時、ふとネットで譲渡会の知らせのページにたどり着きました。当時、ポコと別れたときはまだ私は子供で、親の都合によるものだからという理由があっても、「自分は一生、犬と一緒の生活を送る資格がない」という制限をかけることで、ポコへ懺悔している気持ちになっていたんです。 譲渡会の知らせを受けた時、自分の今の「一人で自立して生きている」現状を踏まえた上で、未成年の時のような、無力感を味わっていたあの頃からは随分と時が経ったのだなという実感も芽生えました。応募だけでもしてみようかな、と譲渡団体にメッセージを送って、そこから始まりました。本当は、ずっと犬と一緒に過ごしたかったんです。 イッヌ様を家に迎えてから、私の生活は大きく変わりました。朝も早く起きて一時間半から二時間近くかけて散歩に行きますし、仕事のスケジュールも、長い時間留守番させないようにと工夫をして組んだり、それでも長く家をあけてしまいそうな日は、母に仕送りとトレードという形で事前に予約をして家に来てもらうようにしたり。毎日一緒に寝て、起きて、過ごす。「共生」がこれほどまでに幸せなことなのだと改めて思い知りました。 イッヌ様がいることで、「早く家に帰らなきゃ」とか、「寄り道しないで帰ろう」という気持ちになりますし、買い物も極力ネットで済ませるようになりました。出かけるなら一緒に連れて行きたいので、アウトレットなど犬同伴OKな場所を選んで買い物に行くなど、自分の行動も当たり前に変わりましたね。 子供のような存在 以前から抱いていた家族コンプレックスについては、こうしたイッヌ様との暮らしで、だいぶまろやかに閉ざされた感じです。 近著『犬と厄年』では、イッヌ様のこと以外にも、大人の友達や、長年一緒に仕事をしてきた女性マネージャーさんについても、結果、深く突っ込む形で書きました。女性マネージャーさんはデビュー当時から二人三脚でやってきた方で、私にとって唯一、「大人の女性」の見本とさせてもらっている方でした。 その彼女が最近、出産し母親になって、いろいろと「考えたくなかったけれど考えたほうがいいのかな」と思考を巡らす機会は増えました。出産したのはあくまでも女性マネージャーさんなのですが、わがことのように転機としてとらえています。うれしさと切なさと、複雑な気持ちが溢れるようにして芽生えましたね。母となった彼女は輝いていて、もちろん心から応援していますし、常に彼女たちの健康と幸せを強く願っています。 ほかの友人も出産など次のフェーズに突入していますが、出産については、現段階では私はその選択をしないだろうなと思います。イッヌ様は私にとっては子供のような存在で、一緒に生活していることで子育ての疑似体験のように感じることもありますが、こんなにも自分の感情や日々の出来事や仕事に振り回されて、一人で一人を回すことですら精一杯なのに、長ければ80年から100年ほど生きる生物を産んでしまった場合、私はその子のためにどれほどのことができるのだろうか、その子のためにどういったことをしてあげられるんだろうか、と自分のキャパをどうしても考えてしまうんです。 *** 第4回【「たかがAV女優のくせに」と叩かれて…紗倉まな、興味の“動線”を作るのに副業は「必須」】では、AV業界の現状などを語っている。 紗倉まな 1993年、千葉県出身。2012年、AVデビュー。著書に『最低。』(後に瀬々敬久監督により映画化、東京国際映画際のコンペティション部門にノミネート)、『春、死なん』(2020年度野間文芸新人賞候補作)、『うつせみ』、他にもエッセイ多数。近著に新エッセイ集『犬と厄年』。 デイリー新潮編集部