参議院選挙での与党大敗を受け、自民党内では石破茂首相への退陣要求が強まっている。若手議員からは総裁の交代だけではなく、執行部の世代交代を望む声も日増しに高まっている。さらには野党の出方次第では、政権交代へ発展する可能性すらゼロとは言い切れない情勢だ。いずれにせよトップ交代となれば、今度こそ良い風向きへ変わることを願うばかりだ。 企業活動においても、新社長の就任や事業体制が変わることで、その企業の業績改善に繋がるケースがある。企業を取り巻く環境が変化するなか、従来とは違う経営戦略や改革を進めることで、企業の業績を劇的に改善させることがある。企業のトップ交代は、投資家にとっても魅力的なリターンを生み出す可能性を秘めるイベントといえるだろう。 実際に、過去のデータを見ると、社長交代を行った企業の株価は、中期的にTOPIX(東証株価指数)をアウトパフォーム(市場平均を上回るパフォーマンスを示すこと)する傾向がみられる。ニュータイプのリーダーは、新しい発想や技術を積極的に取り入れる傾向があり、企業の持つ潜在能力を最大限に引き出す期待も高まるようだ。 トライアルホールディングス(141A) ■株価(7月25日時点終値)2487円 九州を地盤とするディスカウントストア大手の同社は、全国に300店舗超を展開している。祖業のITを活かした店舗運営で強みを発揮し、商品のバーコードをスキャンして決済できる「レジカート」は、販促を仕掛ける「リテールメディア」(小売店舗を広告媒体として活用すること)の機能も併せ持つ。膨大なデータを生かして、買い物中の来店客に関心の高そうな別商品のクーポンを端末上に表示することなどができるのだ。 2025年4月、スーパー大手「西友」の買収という巨額M&A(合併・買収)と時を同じくして、創業者の長男が新社長に就任した。西友の完全子会社化により、トライアルは売上高1兆2000億円強(実績単純合算)と、国内最大級の小売業となる見込みだ。 ここ数年の企業業績の重石となっているインフレだが、節約志向の高まりはディスカウントストア業態においては追い風ともなる。小売業とテクノロジーの組み合わせにより、サプライチェーン全体の改革を推進する同社が実施した10年ぶりの体制刷新は、小売業界の勢力図を塗り替えるかもしれない。 住友化学(4005) ■株価(7月25日時点終値)373.2円 農薬関連の研究開発畑を歩み、成長事業と位置づける農薬関連事業のトップを務めてきた水戸社長は、住友化学にとって約80年ぶりの技術系の新社長だ。2028年3月期までの中期経営計画では、本業のもうけを示すコア営業利益は、2025年3月期見込みの1000億円から2028年3月期には倍増となる2000億円を見込む。目標達成に向けて、成長領域と位置づける農薬とICT(情報通信技術)関連事業がそれぞれ800億円ずつを稼ぐ構想だ。 特に、半導体材料の増産や開発体制の強化には500億円を投じる予定だ。最先端半導体向けの感光材(フォトレジスト)を韓国で生産を開始したほか、半導体の後工程向けの材料開発にも力を入れる。 近年はサウジ石油化学企業「ペトロ・ラービグ」の持分低下や、製薬大手「住友ファーマ」の構造改革など、事業ポートフォリオの整理を積極的に進める「選択と集中」を実行してきた。PBR(株価純資産倍率)1倍回復に向けて、コア事業を絞り込む事業ポートフォリオ改革は順調に進んでいるといえそうだ。 ロート製薬(4527) ■株価(7月25日時点終値)2106.5円 低価格スキンケア「ハダラボ」や高機能スキンケア「オバジ」などのスキンケア事業、目薬「Vロート」などの国内OTC(一般用医薬品)事業は、連結売上高の85%を占める二本柱だ。いずれの事業も国内では圧倒的なシェアを獲得している安定的な収益源でもある。 また、事業の多角化にも積極的に取り組み、医療用眼科領域や再生医療などを育成事業と位置づけている。新規事業の製品ラインアップ拡充へ向けた投資を積極化させるなか、2025年6月に6年ぶりの社長交代が行われた。新規事業の立ち上げなどを長く担当してきた経歴を持つ瀬木新社長をトップに据えることで、事業基盤のさらなる強化を図る構えだ。 株主還元への意欲も高く、2026年3月期の年間予想配当を42円とし、22期連続の増配を目指す。今期は新製品効果等も寄与し、業績拡大が続くと予想。さらに2031年3月期までの年平均成長率で売上高5.1%増、営業利益5.6%増を目標とする明確な成長ビジョンを示している。株価の底入れ機運は高まりつつあるといえそうだ。 テレビ東京ホールディングス(9413) ■株価(7月25日時点終値)3715円 他の在京キー局と比べ、テレビ東京HDが持つ強みのひとつがアニメのコンテンツ力だ。「NARUTO」「BLEACH」「SPY×FAMILY」など、国内外で人気の高いアニメIP(知的財産)を多数保有している。 過去最高を更新した2025年3月期の連結売上高は、海外向けアニメ配信や商品化に伴う権利収入が伸び、アニメ・配信事業が5%増(469億円)と牽引した。子会社のテレビ東京社長も兼務する吉次新社長率いる新体制下では、2035年までにグループの海外売上高比率を現在の17%から40%に引き上げる長期ビジョンを掲げている。IPビジネスを軸に、外部との提携やM&A(合併・買収)を積極的に活用し、海外展開を加速させる方針だ。 2026年にはフランスのテーマパークに「NARUTO」エリアが開業予定など、更なる IP 活性化が期待される。「NARUTO」の新作アニメや海外でのライブサービスゲームとのコラボなど、利益率が高いアニメ事業のさらなる売上拡大が見込めそうだ。 SCREENホールディングス(7735) ■株価(7月25日時点終値)12220円 半導体ウエハーを1枚ずつ洗浄する枚葉(まいよう)式洗浄装置で世界シェア首位を誇る同社だが、連結売上高の8割を占める半導体製造装置以外でも強みを構築する。2025年6月に昇格した後藤新社長は、水素関連事業や、半導体パッケージング技術の開発に取り組む姿勢を打ち出し、新事業の育成を急ぐ構えだ。 トランプ米政権の関税政策については、半導体製造装置の追加関税分が顧客負担となるため、大きな影響はないとの見解だ。追加的な対中規制による売上見通しの不透明感はあるが、2025年3月期に42%だった中国向け売上比率は直近四半期(4-6月)で34%まで低下した。悪材料は早くも織り込まれつつあると考える。 一方、売上構成比が高い台湾ファウンドリ(半導体受託製造企業)TSMCによる2nm(ナノメートル)向け投資や、アリゾナ第2工場における3nm投資の前倒しが業績の牽引役となりそうだ。2027年3月期までの中期経営計画では、10年後の「売上高1兆円企業」を目指すほか、全社粗利率で40%、全社営業利益率で25%の達成を目標に掲げている。 ここ数年では、回転寿司の「スシロー」を運営するFOOD & LIFE COMPANIES〈3563〉が2024年10月の社長交代を契機に中期経営計画の見直しを進めた結果、約半年間で株価は倍増する勢いを見せた。また、2022年3月期に外資系ソフトウェア大手出身の社長が就任したオフィス家具のイトーキ〈7972〉では、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することで、株価は約6倍へ跳ね上がった事例もある。新たなリーダーのもとで、新たな変革を進める企業に注目したい。 「宇野沢茂樹」の名前を不正使用した偽のSNSアカウントが確認されています。投資詐欺等に悪用される恐れがあるため、ご注意ください。SNS等で個人名義の情報発信は一切行っておりません。 【マンガ】約20年前にマイクロソフト株を「100万円」買っていたら今いくら?