犬の散歩と日本の暮らし…中川政七商店・千石あや社長の休日の過ごし方

全国の工芸技術を活かした生活雑貨や衣料品などのものづくりを行なっている。製造小売事業のほか、産地支援事業として教育講座や流通支援も手掛ける。社長の千石あや氏(48歳)の休日の過ごし方とは? (撮影/内藤貞保) 代表取締役社長 千石あや 76年、香川県生まれ。大阪芸術大学を卒業後、99年に大日本印刷に入社。デザイナー、制作ディレクターとして勤務。11年、中川政七商店入社。社長秘書、商品企画課課長、「遊 中川」ブランドマネージャーなどを経て、18年に創業家以外からは初めてとなる社長に就任。夫と二人暮らし。 ギュッと抱きしめるだけで元気をもらえる 飼っている柴犬との散歩を楽しみにしています。平日はなかなか行けないので、週末は私が散歩担当として、1時間くらいのんびり歩きます。 季節感を感じるいい機会になっていますし、犬が危なくないかだけを注意しながら歩いていますから、無になれるんですよね。これが、本当にリフレッシュになっていると感じています。 犬の散歩でもなければ、1時間も歩くことはないですよね。しかも、いくつかのルートはイメージしているものの、基本的には犬が行きたい方向に行きますので、季節によって違ったり、天気によって違ったり、思わぬ道にいざなわれるのも、とても楽しいです。 実家でずっと犬を飼っていましたが、自分たちで飼うとなると責任があります。でもコロナがやってきて、家にいなければいけないタイミングと最初の一番手がかかる時期が嚙み合ったんです。 最初は保護犬を迎えようと思って、いろいろなところに見に行ったんです。徳島まで見に行ったこともあります。でも、なかなかいい出会いがなくて、一度は諦めたんです。 そんなとき、友人からちゃんと責任を持って育てているブリーダーから譲ってもらったと教わって。それで電話をしてみたら、どれくらい本気なのかを問われたんです。冷やかしで子犬を見にくるのは犬にストレスになる、と。 この姿勢にとても共感できて、見に行ったその日に「この子にします」と決めました。 ちなみに柴犬にしたのは、その友人に「中川政七商店の社長が飼う犬が洋犬とかある?」と指摘を受けたからです(笑)。たしかに、と思いました。 飼い始めて、本当に良かったと思いました。もちろん世話は大変ですが、その責任感も含めてすごく癒やされます。とても疲れたときには、ギュッと抱きしめるだけで元気をもらえます。不思議なことに、それほど疲れていないときには、逃げられてしまうんですが(笑)。 オスで名前は福。名前を呼ぶときに平和な感じがいいな、と思ってつけました。 果実酒を漬けてみたり、自家製の味噌を作ったり 午前中に犬の散歩を終えると、午後からは何か楽しくて生活を豊かにしてくれるものにトライすることが多いです。果実酒を漬けてみたり、自家製の味噌を作ってみたり。 社長になってから、暮らしをテーマに商品開発をしていこうと考えてきましたが、日本の暮らしには心地よさがやはりあると思ったんですね。 例えば、季節の旬の食べ物を暮らしに取り入れる。実際、梅酒を作ったりすると、とても楽しい。 ただ、梅酒を作るとなると、瓶を探し、梅を調達し、リカーや砂糖を買いに出かけ、となかなか大変です。そこで、少しでもそのハードルを下げようとキットを商品化しました。今は「旬の手しごとシリーズ」として展開しています。 最初に始めたのは、奈良の果実園と提携して、生の梅と瓶とお砂糖を用意するので梅シロップ作りをやってみませんか、というものでした。これが好評をいただいて、今は青い柚子胡椒、青いレモン酒、黄色い柚子胡椒などを展開しています。 作物が穫れたタイミングに合わせて、旬の食べ物と、作るのに必要なプロダクトがセットされて送られます。 味噌もワークショップに通ってみたら、大きな味噌樽が必要で。これはちょっと家では大変だと、琺瑯の手しごと容器なども開発しましてキット化しました。 このとき意識したのが、台所に出しておいても嫌じゃない容器にしたいな、というものでした。そこで、著名なプロダクトデザイナーの柴田文江さんにお願いをしました。佇まいの良さと、それからもちろん使い勝手の良さも大きな特徴です。 他にも、ぬか漬け容器も作りました。ぬか漬け用の容器はいろいろ売られているんですが、四角いものが多いんです。でも、ぬか床はけっこうな頻度で混ぜないと、水っぽくなってしまう。ところが、四角い容器だと、ちょっと角のところが残ってしまうわけです。 柴田さんはご自身でもぬか漬けをされていて、ずっとそれが嫌だなと思われていたのだそうです。そこで、ぜひ一緒にやりましょうと提案して、角のないぬか床の容器を作りました。 果実酒づくりも味噌づくりも、やってみるとなんとも言えない充実感があります。集中してちょっと体を動かすこうした身体性がある趣味は、とても心を落ち着かせてくれるんです。 工芸を使う暮らしそのものが失われてきた 果実酒づくりとか、味噌づくりとか、なんだか大層なことをやっていると思われるかもしれませんが、そうした啓蒙をしたいわけではないんですね。 私自身も働いていますから、潤沢な時間があるわけではありません。 でも、自由な時間がそれほどないという忙しい人たちでも、何かやってみたいことがあると思うんです。そのお手伝いをしたい、という気持ちからのスタートでした。 豆をずっと煮ているのを、柔らかくなるまで見ながら待つなんて、普段はやっぱりまずしない。そんな時間の使い方できない。でも、年に一度でもいいから、そういう日があって、それが1年分の自宅の味噌を賄ってくれるって、なんだか素晴らしいな、と思っていて。 しかも、熟成するというのは短期ではなく、中長期的に育っていく喜びもあるんですよね。熟成したレモン酒を少しずつ飲んでいく。そんなふうに長期的に楽しめるというのも、すごくいいな、と思います。 日本の工芸が衰退してきた理由の一つに、それを使う暮らしそのものが失われてきたことがあると思うんです。もちろん生活様式もスピードも変わっている今、昔には戻れない。 でも、今の暮らしに合うように、心地よい暮らしが取り戻せる方法があるんじゃないかと思っています。 キットにするのも、その一つの提案ですが、そうした暮らしを作っていくことが、私たちに求められているんじゃないかと思っています。実際、とても支持をいただいています。 やってみることで、何か取り戻せるものとか、新たに知るものとか、あるんじゃないかと思うんです。そうした暮らしを提案していきたい。 単に懐かしさとかノスタルジックな感じ、懐古主義的に「昔は良かったね」というのは違うと思っていて、でも今の生活にも取り入れられる形があるんじゃないかと考えています。そして、それによって使われる道具や工芸も残っていくんじゃないか。最近はそう確信を持っています。 社長の月曜日 週明けはまずは1時間、やるべきことを整理したり、メールの返事をしたりする時間に充てています。出張も多いのですが、お気に入りのバッグが私も商品開発に関わった「国産牛革のボストンバッグ」です。一泊でも荷物を2つにせず、自分の私物も入れられる。そんなビジネスシーンでも使えるバッグって、意外となかったんです。それを国産の牛革を使って作ろう、と。実は初期製造分が売り切れてしまって、1年待って店頭で買いました。 20年以上続く家庭菜園の趣味!ローソン・竹増貞信社長の休日の過ごし方

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