高騰が続く「金」の投資はどうやるの?「有事の金」は本当?『ニッセイ基礎研究所』井出さんに聞くメリット・デメリット&「金投資がアリ」な人。 【写真を見る】「31gで50万円」高騰する“金”の投資はアリ?ナシ?【Bizスクエアで学ぶ 投資のキホン#34】 金の「価格上昇」今後も続く? <1トロイオンス=3335ドル> これは、7月26日時点での金の価格。「トロイオンス」とは金の重さを示す単位で、1トロイオンスは約31g。 ニッセイ基礎研究所 井出真吾さん: 「約31gの金で、ざっと50万円。数年前までは1トロイオンス=1000ドルちょっとだったが、2025年に入ってからの上がり方がすごい。2000年から25年間で約12倍の価格になっている」 では、今後も価格上昇は続くのか。 井出さんは、正確に予測はできないとしたうえで「長期的には上がるのでは」というが、その理由は、“数量が限られている”からだ。 これまでに採掘された金の量は「21.6万トン」で、今の技術で採掘できる残りの埋蔵量は「5.4万トン」と言われている。(※出典:メタルズフォーカス、リフィニティブGFMS、ワールドゴールドカウンシル) 井出さん: 「金やビットコインは存在する量が限られている。ビットコインも全体での発行量に制限がある。それに対して、米ドルや日本円などの通貨は刷ろうと思えばいくらでも刷れる。相対的には【発行量に制限あるものの方が価値は高まっていく】という考え方に私は賛成。短期的には上がったり下がったりを繰り返すが、中長期的には多分上がる。だからこそ中央銀行も金の保有を増やしてるなどと考えれば合点がいく」 中央銀行が「金」を保有するワケ 「金」がどのようなところで使われているのかを見ると、「中央銀行が保有」という割合も低くない。 【金の主な用途】 ▼宝飾品:45% ▼地金・コイン(金ETF含む):22% ▼中央銀行:17% ▼その他:15% ※出典:メタルズフォーカス、リフィニティブGFMS、ワールドゴールドカウンシル 井出さん: 「日本で言うと日銀、アメリカでいうとFRB。そういった色んな国の中央銀行が結構金を持っている。特に中国、インド、ポーランドなどが大量に保有していると言われている。金を持つ理由はいくつかあるが、外貨準備を分散させる目的。あとは地政学リスクが高まった時などに通貨の価値が下がることはあっても金の価値は逆に上がったりする。そういうのに備えて、中央銀行が持っている」 「金投資」のメリット&デメリット 各国の中央銀行も保有する「金」だが、投資対象としてのメリットは何なのか? ニッセイ基礎研究所 井出真吾さん: 「メリットというか特性と言ったほうがいいかもしれないが、株や債権は倒産したら実質紙くずになるけど金はそういうことはなく、インフレの時は金の価格が値上がりしやすい傾向もある。それから、金は株や債券などと違う値動きをすることが多いので分散投資の効果が得られやすい」 【金投資のメリット】 ▼無価値にならない ▼インフレに強い ▼分散投資効果 一方、デメリットもある。 井出さん: 「金を持っていても利息や配当は入らない。基本的には米ドルで取引されることが多いので為替の影響を受ける。現物を持つ場合は保管コストなどがかかる」 【金投資のデメリット】 ▼インカムゲイン(金利・配当)がない ▼為替の影響を受ける ▼保管コストや手数料がかかる 金投資で一般的なのは「投資信託」 ちなみに、金の投資方法は主に4つ。 【金の購入方法】 ▼現物購入(金のコインやジュエリーなど) ▼純金積立 ▼金関連の投資信託 ▼金ETF(上場投資信託) ニッセイ基礎研究所 井出真吾さん: 「一般的なのは、投資信託。同じ投資信託でも、金ETFもある。通常の投資信託だと1日に1回しか取引できないが、金ETFは取引時間中いつでも売買ができるもので、流動性も結構高い」 株と比較「リスク&リターン」 では、株の投資とはどのような違いがあるのか? 1993年末を「100」とし、金とS&P500の【価格推移を比較】すると、2015年頃までは両方とも大きな上昇・下落はなく、価格の開きも大きくないがー ▼金:2020年すぎからじりじり上昇し、2025年で「1000」少し手前に ▼S&P500:2015年頃から急激に上昇し、2019年頃「1000超え」、2024年「3000超」 ニッセイ基礎研究所 井出真吾さん: 「金はここ最近の値上がりが顕著だけど、やはり株の方が大きく上がっている」 また、1994年から10年ごとに【リスクとリターン】を分析してみると ▼【1994年〜2003年】リスク・リターンともにS&P500の方が高い。特にリターンは、「金:0.8%」に対し「S&P500:10.6%」 ▼【リーマンショックを含む2004年〜2013年】リスクはS&P500の方が若干高いが、リターンは「金:10.0%」「S&P500:7.2%」と逆転 ▼【直近10年 2014年〜】金が値上がりしている直近でも、リスク・リターンともにS&P500の方が高い ▼【全期間】リスクもリターンも、S&P500の方が少し高い 井出さん: 「リーマンショックがあり、株が戻るのに5年半ぐらいかかった。例外的に金の方がリターンが高くなった時期もあるが、“長い目で見るとリスク・リターンともに株の方が高い”」 金は株価下落時の「緩衝材」に さらに細かく月次で、S&P500と金の騰落率を出すと“ある傾向”が見えてくるという。 ニッセイ基礎研究所 井出真吾さん: 「株が上昇した月は金も上昇しやすい。一方株が下がった時は、金は上がることもあれば下がることもあり大体半々ぐらい。株が上がる時は一緒に上がりやすいが、株が下がった時は必ず下がりやすいとも言えない傾向がある。ということは、【株が急落するような有事には、金が下支えになる】ということ。これは機関投資家の間でも大体認識は一致している」 井出さんによると、毎年決算し結果を発表しなければいけない機関投資家は、大儲けはできないがいざという時のためにリターンを安定させる「ショックアブソーバー」として、金を保有することがあるとのこと。 金投資はアリ?ナシ? では、【金と株を組み合わせて保有】したらどうなるのか、過去のデータを元に井出さんが試算。 1993年末に、金とS&P500に計100万円投資。それぞれの配分%は、毎年12月末にリバランスし、2025年まで持っていたとすると… ▼【金:0%】【S&P500:100%】100万円⇒3123万円 ▼【金:25%】【S&P500:75%】100万円⇒2723万円 ▼【金:50%】【S&P500:50%】100万円⇒2150万円 ニッセイ基礎研究所 井出真吾さん: 「金をたくさん持てば持つほど最終的な資産額は少なくなるが、リーマンショックの時の下落率をみると、S&P500だけ保有の場合は58%下落し、半値以下になってしまう。一方、金50%保有の場合は36%下落と、【金を多く保有するほど資産の目減り方は緩やか】。ここに金の魅力を見出すかどうか」 ということで、【金の投資】はアリ?ナシ? 井出さん: 「値上がり期待というよりも“有事の金”“下支え”として、例えば金をポートフォリオに5〜10%ぐらい入れておくのはアリだと思う。ただ、私は買わない。リーマンショックみたいな急落もどうせまた戻ると常に思っているので有事の金に価値をあまり感じない。ただ【急落が怖いという人はアリ】かなと。あとは今ぐらいのリターンが続くと見込むのであれば、リターン狙いの金投資もなくはないと思う」 7月の格言「天まで届く相場はない」 ニッセイ基礎研究所 井出真吾さん: 「上がり続ける相場はないよという意味だが、金もそうだし株も同じ。関税15%決着で日経平均も一時4万2000円つけて、この先EUや中国の合意ドミノなんかが実現すれば史上最高値更新もあるかもしれない。一方で15%の関税は企業収益には明らかにマイナス。そう考えると、今の時点で4万2000円をキープするのは難しい。企業の努力工夫などで悪影響を和らげることができれば4万2000円も見えてくるが、現時点では4万円ぐらいの実力かなと」