健康によい緑黄色野菜の成分が真逆の作用に変わる!?…β‐カロテンが”夢の健康食品”になりえなかった理由

「お茶で血圧が下がるなら薬を飲む前に試してみようか」「健康食品でダイエットできるならそれがいちばん楽でしょう」「食生活が不規則だからビタミンやミネラルで補うしかない」などと、健康食品はすっかりわれわれの生活に浸透している。 しかし巷では機能性や安全性について何の保証もない健康食品が多く販売され、健康被害の大半はこれらの製品によって発生している。そんな状況において、どんな製品を購入するかを見極める力は不可欠である。 粗悪な健康食品の被害に遭わないための基礎知識をさまざまな事例を通してわかりやすく解説した著書『健康食品で死んではいけない』から抜粋・再編集して紹介する。 『ダイエット健康食品で死に至る!?…混入されていたのは、まさかの“発がん性物質”だった』より続く。 β‐カロテンの有用性 今回は、ビタミンやミネラルなど人間に必須の栄養素なら、とればとるほど健康状態がよくなると考えるのは危険、ということを知っていただきたい。このことは私たちが健康食品を利用する際に最も身につけていたい基本の知識である。もともと体のためになるものが、摂取の仕方によってはとんでもない健康障害を引き起こしてしまっている。その事例から注意点をお知らせする。 健康食品の安全性について考えるとき、私にとっても大きな教訓となったのが、緑黄色野菜に含まれるβ‐カロテンで起きた問題だった。 古くから多くの人が感じていた「野菜が健康によい」というのが正しいことなのか証明するため、まず欧米で、次いで日本やアジアで疫学調査が行われた。疫学調査とは特定の集団の生活習慣から特定の病気にかかったり、病気を防いだりするような現象を起こす因子の研究や分析を行う学問分野である。医学、環境科学などの分野で特に広く行われている調査研究で、コンピュータの進歩により大容量のデータ処理が可能となり数々の新しい発見を生んでいる。 その疫学調査から、β‐カロテンに大変な有用性のあることが浮かび上がってきた。緑黄色野菜を多く摂取する人たちに、種々のがんや心筋梗塞の危険性が低いことが証明された。緑黄色野菜の抗がん作用の共通因子はβ‐カロテンであった。 「夢の健康食品」との期待 そこから世界中で、β‐カロテンを多く含む食品によるさまざまな疾患から体を守る予防的効果を調べる動物実験やヒトへの投与実験が行われ、素晴らしい成果が得られていった。 たとえばヒトが摂取したβ‐カロテンが、生体内で病気の根源となる活性酸素の発生や過酸化障害を防ぎ、遺伝子(DNA)や悪玉コレステロールと呼ばれるLDLの酸化を防ぐことが明らかになった。これらの現象は、がん化や動脈硬化、老化を防ぐことを示唆する。さらに動物実験では、予想どおり発がんを抑え、動脈硬化を防ぐ結果となった。 実は同じように病気を防ぐビタミンとして、ビタミンAがβ‐カロテン以前に知られていた。そこで健康食品として販売されたが、たくさんとりすぎた人たちにビタミンA過剰症という障害が発生してしまった。 ところがβ‐カロテンは、体内でビタミンAに体が必要とする分だけ変換される。どれだけ摂取してもビタミンA過剰にならないということがわかっていた。したがって1980年代には、β‐カロテンが夢の健康食品になると考える学者がたくさんいた。 当時、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)に在籍していた私は、仲のよかったβ‐カロテンの疫学研究における日本の第一人者である公衆衛生学の伊藤宜則教授から、実際こうした話を聞かされていた。私も、β‐カロテンはやがて素晴らしい健康食品として世の中に出るに違いないと考えていた。’80年代の終わり頃には研究者によるβ‐カロテン礼賛の本まで出版されている。 世界中で行われた大規模実験が中止に こうしたなか、世界的な製薬メーカーがβ‐カロテンの大量生産を行い、世界中で効果を証明するための大規模な投与実験が行われた。 結果を最初に発表したのはフィンランドの研究チームだった。3万5000人の喫煙者を2つのグループに分け、片方にはβ‐カロテンを投与し、もう片方にはβ‐カロテンと偽りプラセボ(偽薬)を投与した。当時すでに喫煙と肺がんの因果関係は明らかになっていたので、喫煙者を対象とした実験結果には大きな期待があった。 しかし人々は結果を見て驚いた。わずかではあるが明確な有意差をもってβ‐カロテンを投与された人たちのほうに、肺がんおよび心筋梗塞になった人が多かったのである。この最初の発表に対して、世界中のβ‐カロテン研究者たちは何かの間違いではないかと疑ったのは無理からぬことであった。伊藤教授もフィンランドの報告はどこかに間違いがあると思いますよ、と反論していた。 この後、引き続いて発表された米国における5万人以上の規模の投与実験でも、同じ結果が出た。米国では10年計画で行っていた投与実験を、倫理的な理由で中止した。投与されたほうが明らかにがんになる人が多いと判明しているにもかかわらず、さらに駄目押しの実験を続けるのは人道にもとるという理由からであった。 ただ、中国で行われた実験のみがβ‐カロテンを投与された人のほうが効果を示していた。 なぜ過剰摂取によって障害が起きるのか なぜ、フィンランドと米国の実験が期待に反した結果となったのであろうか? 今では次のように考えられている。 β‐カロテンは病気の根源となる活性酸素を潰してくれる抗酸化能が高く、生体内の酸化を防ぐことでさまざまな効果を発揮している。ところが、その抗酸化物質は必要もないのに大量に存在すると、活性酸素を発生させるプロオキシダント(酸化促進剤)としての作用が出る。 栄養事情のよい欧米で行われた実験では、十分な栄養素をとれている対象者がβ‐カロテンを摂取したので、図2のように活性酸素の発生源となって障害が発生したのである。一方、その当時欧米ほど栄養事情がよくなかった中国においては、抗酸化能が十分発揮され期待どおりの効果が確認されたと言われている。 以上の結果は、健康食品を考えるうえでかなり重要な要素である。まず、疫学調査からβ‐カロテンという素晴らしい可能性のある物質の存在が浮かび上がってきた。それならと、ヒトや動物の細胞を使用してさまざまな角度から実験を行い、有用性が確認された。そこで短期間に行った数々の実験のよい成果をもとに、長期にわたってヒトがβ‐カロテンを摂取した場合に本当に有用かどうかの介入試験と呼ばれる実験が大規模に行われた。 そうしたところ予測外の結果が出た。β‐カロテンの抗酸化作用がマイナスの結果として発現してしまった。以上がβ‐カロテン問題の顛末である。現時点ではなぜ効果が得られなかったのかその原因が判明しているが、投与する前には予測が困難だったということである。 『野菜や果物の摂取量と胃がんの発生率との関係を見れば…食品としてとることが一番だと一目瞭然!』へ続く。 【つづきを読む】野菜や果物の摂取量と胃がんの発生率との関係を見れば…食品としてとることが一番だと一目瞭然!

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