「お茶で血圧が下がるなら薬を飲む前に試してみようか」「健康食品でダイエットできるならそれがいちばん楽でしょう」「食生活が不規則だからビタミンやミネラルで補うしかない」などと、健康食品はすっかりわれわれの生活に浸透している。 しかし巷では機能性や安全性について何の保証もない健康食品が多く販売され、健康被害の大半はこれらの製品によって発生している。そんな状況において、どんな製品を購入するかを見極める力は不可欠である。 粗悪な健康食品の被害に遭わないための基礎知識をさまざまな事例を通してわかりやすく解説した著書『健康食品で死んではいけない』から抜粋・再編集して紹介する。 『必須アミノ酸過剰摂取で死者45人!?…睡眠導入剤として爆発的に売れた健康食品で悲劇が起きた意外なワケ』より続く。 どんな物質も毒になるかならないかはその量次第 最近、種々のビタミンのみならず、CoQ10、α‐リポ酸など以前は医薬品として扱われていた物質が健康食品として販売されるようになっている。多くのビタミンは栄養機能食品として法的に摂取上限量が規定されている。しかし、CoQ10やα‐リポ酸などは一般食品の範疇に置かれているので、摂取上限量に関する法的な規制もなくまったく野放しの状態である。 そのためダイエット食品などで、α‐リポ酸が医薬品としてであれば上限を超えるような量の摂取が行われ、2型糖尿病症状を発症したという報告がいくつもある。「食品＝安全」という考えで健康食品を扱ってはいけない。トリプトファンの事故のように大事にはいたらなくても過剰摂取による障害は必ず発生する。どんな物質も毒になるかならないかはその量に依存するからである。 少し話はそれるが、このトリプトファンの事故を契機に、遺伝子組み換え食品への誤解が、消費者の危険意識を煽る人たちによって蔓延してしまうことになった。 事故から間もなくして、S社のトリプトファンにEMSの原因物質である不純物が含まれたのは、「枯草菌の遺伝子組み換えを行ったことと精製過程が不十分であったため」と結論づけられた。 遺伝子組み換え食品への被害 そこで、遺伝子組み換え食品による世界で最初の死亡事故が発生した事例としても注目を浴びることとなった。遺伝子組み換えという技術の導入により発生するかもしれない新たな危険性の一つとして取り上げられたのだ。さらに、遺伝子操作を行った際に不純物の生成が予測できていなかったことが、遺伝子操作が引き起こす不気味な現象としてのイメージ作りに大きな役割を果たした。 しかし、実のところ問題はS社のトリプトファンが原因ではなく、使用方法にあり、その不純物は遺伝子組み換えによって生成したものでもなかった。つまり遺伝子組み換え食品の危険性の根拠とはなり得ないのであった。 以上のようにトリプトファンの事故の真相が不純物ではなく、使用方法の誤りが原因だったことが明らかになってきた過程を振り返ると、健康食品の世界にも「表示、販売方法、使用方法に関するアドバイス」などに対する法的な制度が確立され、その的確な使用に関するアドバイザーの存在が望まれる。 【前回の記事を読む】必須アミノ酸過剰摂取で死者45人!?…睡眠導入剤として爆発的に売れた健康食品で悲劇が起きた意外なワケ