斎藤元彦知事を追及した女性記者が「クレーム電話」で配置転換 最後に“涙の直訴” 兵庫県発「報道弾圧」をテレビ朝日元法務部長が解説

 知事会見で当然の質問をしただけの記者が、知事支持派から夥しい数の「クレーム電話」を受ける羽目に遭い、担当から外される。そんな「報道弾圧」としか思えない事態の訴えが現代の日本でなされた。発生地は兵庫県。またしても斎藤元彦知事絡みで発生した「個人攻撃」について、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が解説する。  *** 【写真を見る】“お土産”を「俺がもらっていく」と堂々お持ち帰り 高級ガニを手に満面の笑みを見せる“パワハラ疑惑”の斎藤知事 涙声で投げかけられた「最後の質問」  ある女性記者が7月29日、斎藤知事の定例会見で行った訴えは耳を疑うものだった。 「先週もここで質問をして、その後会社にクレームの電話が鳴りやまずに、私は県政の担当を外れることになりました」 斎藤元彦知事  女性記者は涙で声を震わせながら続けた。 「記者が会見で質問をして、即日炎上して、翌日には配置換えが決まると。そういうことが兵庫県では起きます」  いったい「炎上」したというこの記者の前週の質問とは何だったのか。  斎藤知事をめぐる一連の問題の発端は、昨年3月の元西播磨県民局長(故人)による斎藤県政の内部告発に対し、知事側近らが「告発者探し」と懲戒処分を行ったことにある。こうした行動は今年3月、兵庫県の第三者調査委員会によって違法と断じられた。 引き金になった「ネットでの嫌がらせをやめさせるべき」との進言  しかしその後も斎藤知事は非を認めず、ネット上では斎藤知事支持者によるとみられる元県民局長や遺族に対する誹謗中傷が続発。また一部住民らは「元県民局長が勤務時間中に私的行為をしていた分の給料を遺族に返還させろ」と県に対して住民監査請求を行い、これが退けられると今度は裁判所に住民訴訟を起こした。  この展開に遺族は7月17日、事態が続くことは望まないとして請求金額62万5000円を支払い「そっとしておいてほしい」とコメント。すると今度はネット上で「遺族が非を認めた」という言説が広められたのである。「クレーム」の引き金になった記者の質問は、このネット上における遺族への攻撃について問うたものだった。7月22日の定例会見で、女性記者は斎藤知事にこう質問した。 「今回、住民訴訟はネットで呼びかけられて行われたということでですね、返納した後も『非を認めた』といったネットでの攻撃が続いています。何百人もの県民に住民監査請求をされた末に、そっとしておいてほしいとお金を自ら返してきた遺族の境地を思うと耐え難いものがありますけれども、知事は今こそ、ネットでの嫌がらせをやめろというべきではないでしょうか」  この記者の質問に県知事選で斎藤知事の「2馬力選挙」を宣言した立花孝志氏らが反応した。立花氏はXに「やばい!」「住民監査請求をした県民に対して、ネットでの嫌がらせをした!と発言!」などと投稿した上で、記者が他の取材先に送ったメールの画像を公開。記者の連絡先が推測できる状態におかれた。そして会社にクレーム電話が殺到したというのである。 「時には炭酸飲料で“気分をスカッと爽快に!“」  だが、この女性記者の質問内容のどこに問題があるというのか。そもそも元県民局長の遺族に対する「給与返還請求」をめぐる住民監査請求はこれまで290名超の住民による請求の全てが兵庫県監査委員によって棄却または却下されている。  その上で提訴がなされるという展開に事態の長期化を避けようとした遺族の行動に対して「非を認めた」という攻撃が続くという尋常でない現状を受け、斎藤知事の見解を問うのはごく真っ当なものだ。担当から外されることになったという記者は、冒頭の発言後、斎藤知事にこう訴えかけた。 「いつも震源地にいるのは知事です。知事しかこの状況を変えられないと私は思っています。なのに知事はこの状況を問題に思ってるようにも、変えようと思ってるようにも見えません」  だが斎藤知事は「(記者が)ご私見の方を述べたという風に思いますけども」「(会見の)質疑の方を、まあできるだけ自分としてできることをさせていただいてるというところです」という全くかみ合わない発言をしただけ。他の記者が「言論状況として異常だ」と指摘しても「個別の件についてのコメントはできないという状況ですね」とノーコメントを貫いた。  そして記者が配置転換を明かしたその日の晩、斎藤知事がXに投稿したのは会見ではなく熱中症対策についてだったが、そこには唐突とも思える次の一文が記されていた。 「時には炭酸飲料で“気分をスカッと爽快に!“」 「異常な言論状況」については発信することはなかった。 会社は女性記者を守ったのか  この一連の事態には2つの重い問題が含まれていると思う。一つは「記者個人への攻撃」による報道の委縮という問題だ。記者会見の様子がそのままネット中継される中、「会社」よりも攻撃に弱く、その分攻撃する側からすれば狙いやすい「記者個人」がターゲットになる例が増えている。 「生身の人間」である記者が不特定多数の脅威に晒されることを許せば取材・報道の委縮を招きかねない。こうした事態をいかに防ぐかは大きな課題だが、そこでもう一つの問題が浮かび上がる。  それは「会社はこの記者をきちんと守ったのか」という点だ。  女性記者が県政担当を外されたことを明かすと、立花孝志氏はYouTubeで記者をこう批判した。 「あなたがやってることがおかしいから、X社もあなたを担当替えしてるんですよね」(注:動画では会社名入り)  この記者が勤務する報道機関は神戸新聞の取材に対し、配置換えの理由の説明は「差し控える」とコメントしたという。だが報道機関が記者への誹謗中傷に公式に抗議せず人事異動だけを行ったら、攻撃した側にとっては自らの「勝利」と映りかねない。まず報道機関が毅然と対応し、記者を守る姿勢を鮮明にする必要があるのではないか。  女性記者はこうも述べていた。 「これをまた成功体験として、またネットの人たちがこぞって兵庫県に集まってくると。兵庫県はそういう遊び場になっていると、私は思います」  この事態を「成功」になど決してしてはならない。強くそう思う。 西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。 デイリー新潮編集部

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