涼を探して＜１＞ 　猛暑の夏休み。 　暑さが和らぐ場所は高原やプールに限らない。気化熱、雪、木陰——。自然の力や古来の知恵を今に生かした「涼（りょう）なスポット」を訪ねた。 ドライミスト 　松江市のシンボル、松江城。日没を迎えると、「プシュー」という音とともに、城の周囲が一気に霧に包まれた。まるで雲海にそびえ立つかのような幻想的な光景が眼前に広がる。同時に、「涼しーい」「冷たーい」と、あちこちから声が上がった。 　この夏、同市などは同城天守の国宝指定１０周年を記念し、「八雲立つ　雲海・松江城」と銘打ち、人工的に作り出した雲海による演出を始めた。訪れた７月上旬は、日が暮れても気温は３０度近かったが、ひんやりとした霧が体の熱を逃がしてくれる。同市の女子中学生（１２）は「本物みたいな涼しい雲に包まれて快適」と笑顔で話していた。 　近年、暑さが厳しくなると、商店街や屋外イベント会場などで、霧が噴き出すドライミスト装置を見かけることが増えている。気化熱によって涼しくする原理は、昔ながらの打ち水の知恵と同じだ。 愛知万博で注目 　ドライミストは、２００５年に愛知県で開催された「愛・地球博」の会場に登場し注目を集めた。周辺の気温を２、３度下げ、クーラーよりエネルギー消費が少ないとされる。群馬大学教授の天谷賢児さん（熱流体工学）は「街路樹と一緒に設置すると、より効果的に気温を下げるという研究結果もある。これからも街の緑化などと組み合わせて導入が進むのでは」と話す。 　同城の人工雲海は、この仕組みを大規模に発展させたものといえる。同市で日本庭園を運営する「由志園」が演出を手がけた。石垣の周りなどに全長約３２０メートルのホースと約１２８０個のノズルを配置し、噴き出す霧で壮大な雲海を作り出す。取締役の門脇竜也さん（４６）は「涼しさと美しさを融合させることで、人の心をひき付けている」と胸を張る。東京都内のホテルや京都市内の寺院にある庭園などでも採用されているという。 　演出を装置面で支えるのは、大阪市の大手ノズルメーカー「いけうち」の「ピンジェットノズル」だ。元々は火力発電所タービンの吸気冷却用に開発されたもので、大量の霧を一気に発生させることが可能。白濁感があるため本物の雲の雰囲気に近いという。 　同社では、霧の粒子が髪の毛よりも微細で肌に触れても化粧が落ちるなどのトラブルが少ない「涼霧ノズル」も手がける。用途に応じて「ピンジェットノズル」と使い分けているという。 熱中症対策 　こうした人工雲海は、プロ野球スタジアムの熱中症予防対策にも使われている。マツダスタジアム（広島市）では、２３年夏からライト側のコンコースで試合前などに大量の霧を発生させる。この夏から、ベルーナドーム（埼玉県）にも登場し、野球ファンを暑さから守っている。 　このほか、開催中の大阪・関西万博を始め、各地の観光地や公共施設でも「ピンジェットノズル」による「雲海スポット」が増えている。「いけうち」ノズル事業部の中川誠さん（３８）は「もともとは農業や工業の現場で培った技術。それを一般の方に体感してもらえてうれしい」と話していた。