連載:アナログ時代のクルマたち|Vol. 56 マクラーレンM6GT

今でこそ、レーシングカーをロードカーに転用するというアイデアは盛んに行われている。比較的最近では、アストンマーティンがレッドブルと共に開発したヴァルキリーが、ロードカーとして生を受けながら、その実態はレーシングカーそのもので、今年のル・マン24時間にも出場しているし、少し前ならば、90年代にメルセデスCLK GTRや、ポルシェGT1などがロードカーとして販売されている。もっともこれらは全て、レースのホモロゲーション取得のために最低生産台数を確保するという目的で、副次的に販売という手法を取ったもので、純粋にレーシングカーをロードカーとして売ってしまおうという意図をもって開発されたモデルではない。 【画像】ブルース・マクラーレンも日常で使っていたというマクラーレンM6GT(写真5点) レーシングカーに公道を走る上での最低限の装備を付加して、それを顧客用の車として販売するというアイデアを実現しようとしたのは、おそらくブルース・マクラーレンが最初であろう。彼はその当時マクラーレンM6という名のカンナム用レーシングカーを顧客向けに販売していた。もちろんレース出場を意図した顧客に対してである。カンナム用マシンであるから、グループ7カテゴリーのオープン2シーターである。しかし彼はこれをベースにルーフをつけて、ロードゴーイングにして顧客に販売しようというアイデアを持ったのである。 そこで、まずはひな型となる1台を自らの工房で製作し、これを当時カスタマー仕様のマクラーレン・レーシングカーを製作していたトロージャンに持ち込み、量産を企画したのである。結局この企画は、彼自身が開発中だった新しいカンナムカーのテスト中に事故を起こし、還らぬ人となったことで中止の憂き目にあうのだが、その直前の時点では、M6GTと名付けられたロードゴーイングM6を、250台生産するという契約がトロージャンとの間で結ばれていたという。 ブルース・マクラーレンという人はかなり哲学的な人だったようで、彼自身の著書「From the Cockpit」の中で、以下のように述べているという。 「何かをうまくやることはとても価値があることであり、それをよりうまくやろうとして死ぬことは無謀であるはずがない。自分の能力を使って何もしないのは、人生の無駄遣いだ。人生は年数ではなく、成果で測られるものだと私は思う」 これは自身の仕事に対する考えを記したものだそうだが、ある意味で死生観にも近い。彼の死後、まだ小さな会社だったマクラーレンが大きく羽ばたき、F1のみならず、ロードカーの分野でも成功を収めていることは、ご存知の通りである。そしてM6GTプロジェクトが中止の憂き目を見てから25年後、ブルースのアイデアはそれを引き継いだゴードン・マーレイによって、マクラーレンF1という形で花開き、今や押しも押されもせぬスーパーカー・ブランドのひとつに成長している。 さて、そのM6GTであるが、最初にマクラーレン自身の手で製作されたモデルは、OBH500Hというナンバーで登録され、ブルース・マクラーレンのプライベートカーとして走った。そして、これをもとにトロージャンで以後の249台が生産される予定となっていたようである。搭載されたエンジンは、シボレー製の5.8リッターV8。いわゆる350cu.inと呼ばれるキャパシティーのもので、カンナムに出場していた同じシボレーのエンジンよりはキャパシティーが落とされていた。アルミ製のモノコックや、ダブルウィッシュボーンのサスペンション、それにFRP製のボディなどは基本的にM6と同じ構造である。トランスミッションはZF製の5速で、ブレーキはガーリング製の4輪ベンチレーテッドディスクであった。仕様自体は完全にレーシングカーのそれであったから、室内の騒音は相当なものであったようである。 ブルース・マクラーレンがこの車を日常で使っていた証拠写真が撮られていて、それはロンドン近郊サリー州のイーストホースレイの角にM6GTを止め、ブルース自身がコクピットに収まっている写真なのだが、彼が亡くなった1970年6月は、この車でグッドウッドのコースに向かったとされているそうだ。 現在この車はオリジナルコンディションのままアメリカ人のコレクターが保有しているという。そして、オリジナルのマクラーレンM6GTとしてあと2台がトロージャンによって製作されたとされている。残りの1台の消息もわかっているようだが、ロッソビアンコ博物館にあった個体が残りの1台であるか否かは不明であるが、ロッソビアンコ博物館のカタログによれば、収蔵されていたマクラーレンM6GTはその3台のうちの1台であることが記されている。また、ロッソビアンコ博物館によれば3台のうち2台はM6Aをベースとしており、残りの1台がM6Bベースであるという。 文:中村孝仁 写真:T. Etoh

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