台風で収蔵漫画24万点余り水浸し、被災リスク考え川崎市が再開断念…ミュージアムの水害対策急務

 台風や豪雨による河川の氾濫などで美術館や博物館の収蔵品が水没する被害が目立っている。  気候変動による集中豪雨の増加や、南海トラフ地震などによる津波の危険性がある中、浸水リスクは高まっている。博物館や美術館の防災対策をさぐる。 「市民の財産」7万点超を処分  2019年10月、日本に上陸した台風19号は、東日本に大きな爪痕を残した。多摩川にほど近い川崎市市民ミュージアムは浸水し、地下に九つある収蔵庫のほとんどで水位が2メートルを超えた。漫画や写真、考古資料など収蔵品の約8割にあたる約24万5000点が水浸しになった。  同ミュージアムでは、5年半以上たった現在も作品や資料の修復作業が続く。処分せざるを得なかった収蔵品は、漫画を中心に7万3000点を超える。川崎市市民文化振興室の担当者は、「市民の大切な財産が被害を受けてしまったことに心を痛めている」と、悔しさをにじませた。  水位が高くなった多摩川に流れ込むことができなくなった雨水が、マンホールなどからあふれる「内水氾濫」が原因と考えられている。川崎市は21年11月、再び被災するリスクを考えて、同ミュージアムを再開しないことを決めた。  大雨の被害に遭う博物館や美術館が相次いでいる。20年には、人吉城歴史館(熊本県)が収蔵する植物標本約3万3000点がほぼ全て泥水につかった。19年10月にはホキ美術館(千葉市)が、24年7月には新庄ふるさと歴史センター(山形県)が浸水し、収蔵品が被災した。 上階や浸水区域外に「移転」  対策を進める館もある。  堂島川と土佐堀川に挟まれた大阪・中之島で22年に開館した5階建ての大阪中之島美術館は、高潮で2階まで浸水する可能性があることから、収蔵庫や展示室を3階以上に配置、非常用発電機も屋上に置いた。  1998年に浸水した高知県立美術館(高知市)は、1階の作品の一時保管庫を廃止し、雨の多い夏は1階に作品を展示しないようにしている。南海トラフ地震による津波に備え、災害時マニュアルを随時更新しているという。国立文化財機構文化財防災センターの小谷竜介・文化財防災統括リーダーは「大雨のたびに止水板を上げるなどの防水対策が、実践的な訓練になっている」と評価し、効果的な備えの必要性を強調する。  一方、川崎市は今年2月、新ミュージアムの基本計画を発表し、洪水や浸水の想定区域外を候補地に選んだ。最短で2031年度の開館を見込んでいる。 200キロ離れた場所に収蔵庫  海外では、パリ・ルーブル美術館も対策を講じている。横を流れるセーヌ川が氾濫したり、地下水面が高かったりするためだ。19年に約200キロ離れた場所に収蔵庫を新設し、20万点を超える作品を移した。さらに「洪水防御計画」を作り、定期的な訓練を実施しているという。  日本では大雨が増えている。気象庁によると、1時間降水量が80ミリ以上の「猛烈な雨」の平均年間発生回数で比べると、15〜24年の10年間は、1976〜85年より約1.7倍に増加している。文化施設の災害対策に詳しい、国立文化財機構文化財防災センターの黄川田翔研究員は「日本は急勾配の河川が多く、短時間で急激に水位が上昇する。水害対策を充実させた防災計画の策定と運用は、積極的に取り組むべき課題だ」と指摘する。  博物館や美術館は、作品や資料の収集と保管だけを優先するのでなく、来館しやすい立地であることも重要だ。また、多くの館にとって、膨大な経済負担を伴う移転は難しい状況だ。大阪中之島美術館の菅谷富夫館長は「災害リスクを理解し、適切な対策を講じていくしかない」と話している。

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