【松本潤の”目立たない”演技が魅力】総合診療科ドラマ『19番目のカルテ』が示す日曜劇場”15年の進歩”と”唯一の懸念”

民放ドラマで独走状態の『日曜劇場』 TBS日曜21時台の『日曜劇場』と言えば、日本最長の歴史を持つドラマ枠であり、特に2013年の『半沢直樹』以降はエンタメ路線で独走状態。 『ルーヴェルト・ゲーム』『下町ロケット』『陸王』『ノーサイド・ゲーム』などの池井戸潤作品を筆頭に、『天皇の料理番』『グランメゾン東京』『テセウスの船』『天国と地獄〜サイコな2人〜』『ドラゴン桜』『TOKYO MER〜走る緊急救命室〜』『マイファミリー』『アンチヒーロー』『DCU』『海に眠るダイヤモンド』『御上先生』などの多彩なラインナップで視聴率、反響ともに民放ドラマのトップを走り続けている。 そんな『日曜劇場』はどのドラマ枠よりも「ドラマティックで先が読めない」「ハラハラドキドキなど感情を揺さぶられる」というエンタメ性を追求してきたが、今夏放送の『19番目のカルテ』は真逆の作風だった。 松本潤演じる主人公の徳重晃は総合診療医で「医療モノの醍醐味」と言われる手術はせず、医療シーンのメインは問診。同じ日曜劇場で言えば、嵐の盟友・二宮和也が天才外科医を演じた『ブラックペアン』のような手術シーンはなく、患者と対話を重ねるシーンを見どころに据えている。 しかし、これまで視聴者を魅了してきたエンタメ路線とは真逆の地味な設定であるにもかかわらず、同作は視聴率、評判ともに好スタートを切った。「参議院選挙特番で大事な第2話の放送が2週間後になってしまう」という不運にも見舞われながらの好結果が同作に対する支持を裏付けている。 ではなぜ『19番目のカルテ』は序盤の不利をものともせず支持を集めているのか。それを掘り下げていくと、『日曜劇場』というドラマ枠の確かな進歩が浮かび上がってくる。 楽しみ方3通りのハイブリッドな医療ドラマ まず一般的になじみの薄い総合診療科についてふれておきたい。 日本の医療は脳外科、眼科、整形外科などと臓器ごとに18の専門分野に分けられ、それぞれの専門医が診察・治療を行っている。一方、臓器、性別、年齢などにかかわらず患者の訴えを丁寧にすくい取り、暮らし、家庭環境、心の状態なども含め、総合的に診察を行うのが総合診療科。当作のキャッチコピーが「病気ではなく、人を診る 19番目の新領域『総合診療科』の医師を描く」であることからも、「これまでにない医療ドラマを作ろう」という意欲が感じられる。 3日放送の第3話では、徳重の恩師・赤池登(田中泯)が総合診療科の具体的な業務内容を語るシーンがあった。「総合診療医の仕事には3つの柱がある。1つの柱はゲートキーパー。問診から病態を特定・診断する病院の門番。そして(2つ目の柱は)ファミリーメディスン。地域と連携し、病院から出たあとの患者の生活を考える。最後(3つ目の柱)はコンダクター。専門家の医師と連携して治療する」。まったく異なる3つの業務内容をこなすことに驚いた人が多かったのではないか。 さらに第3話はコンダクターを描いたエピソードだったため、「患者さんと専門医をつなぎ、向いている方向が重なっていくよう、ともに歩んでいく。それが総合診療医の仕事」「患者のほしいもの、医者のほしいもの、総合診療医はその間に立っている」などのセリフもあった。「なじみのない総合診療科の必要性と魅力を視聴者に知らせよう」という制作サイドの意図を感じさせられる。 3つの柱それぞれの魅力をあげていくと、ゲートキーパーとしての業務は病名を解明するミステリーのように楽しめる。ファミリーメディスンとしての業務は治療後の人生も追うヒューマン作として楽しめる。コンダクターとしての業務は各診療科の医師が相棒になるバディドラマのように楽しめる。もしかしたら、派手な外科シーンこそないものの、それぞれ異なる醍醐味を楽しめるハイブリッドな医療ドラマなのかもしれない。 松本潤の受け身の演技がゲストを光らせる ただ、『日曜劇場』で総合診療科を扱うのは今回が初めてではない。同じ『日曜劇場』で15年前の2010年夏に『GM〜踊れドクター』という総合診療科が舞台の医療ドラマが放送されていた。 しかも主演は松本の先輩にあたる東山紀之。ところが同作は診療シーンの地味さを補うためなのか、主人公に「元アイドル」という奇抜な設定を採り入れ、踊るシーンのほかコメディ要素をふんだんに盛り込んでいた。 その点、今夏の『19番目のカルテ』は奇抜な設定やコメディ要素などに頼らず、総合診療科の物語を丁寧に描いている。これは『日曜劇場』が15年の時を経て変化球に頼らず直球勝負できるようになったことの証と言っていいのではないか。 主演の松本潤はキャリア30年目で初の医師役に挑んでいるが、医療シーンのほとんどが問診だけに、実際のところあまり目立っていない。 第3話では外科医の東郷康二郎(新田真剣佑)に「どの治療においても必要なのは“納得”ではないでしょうか」と語りかけるシーンがあったが、名ゼリフというより当たり前という感があった。徳重は患者ファーストの温かいキャラクターが支持される一方で、各話の中心は週替わりの患者を演じるゲスト俳優と言っていいだろう。 事実、放送中から放送後にかけて毎回ゲスト俳優がネット上で称賛を集めている。 直近の第3話では、下咽頭がんを患い、声を失うリスクに悩むアナウンサーを演じた津田健次郎の熱演に「号泣した」「本人が重なって見えた」などの声があがっていた。 同様に、第1話では原因不明の激痛に悩まされる患者を演じた仲里依紗に「本当に痛そうで感情移入できた」「凄まじい演技に涙が出てしまった」、第2話では先天性心疾患の弟を支えるヤングケアラーを演じた杉田雷麟に「めちゃくちゃ泣いた」「いい役者さん。名前覚えました」などの称賛が続出。 主演の松本がたっぷり間を取るような受け身の演技に徹していることもあって、ゲスト俳優の熱演が当作最大の見せ場となっている。 懸念される安易な「対立構図」 唯一の懸念点は時折、総合診療科を描くためにその他の診療科を当て馬のように扱うシーンが散見されること。 実際、主人公と各話の患者がメインの物語であるため、小児科科長役の木村佳乃、外科部長役の池田成志、外科医役の新田真剣佑、心臓血管外科医役のファーストサマーウイカ、内科医役の清水尋也、整形外科部長役の津田寛治、耳鼻咽喉科医役の本多力、麻酔科医役の岡崎体育、救命救急医役のカトウシンスケら、それ以外の医師は明らかな脇役扱い。 その多くが総合診療医に疑いの目を向け、苦言を呈するほか、診療に関しても何らかの未熟さやミスが描かれている。もしエンタメ性を求めて「総合診療科をつぶそうとする」、あるいは「強い敵意を見せる」ようなシーンが増えたら、当作の魅力は損なわれてしまうかもしれない。 日曜劇場の過去を振り返ると『半沢直樹』が大ヒットした2013年以降、過剰なまでに勧善懲悪を描いた作品が続き、「対立構図こそエンタメ」というムードがあった。その傾向は2010年代後半まで続いたが近年は薄れていただけに、当作も総合診療医が他の医師たちと戦わなければいけないようなシーンが増えるほど、称賛の声が減ってしまうのではないか。 日曜劇場は開始された1956年から2002年まで『東芝日曜劇場』として放送されていた。1993年に連ドラ化されるまでは単発ドラマ枠であり、その多くは人情ドラマ。主人公が対話を重ねて患者らと心を通わせていく展開は、「進歩した」というより「『東芝日曜劇場』時代の良さを取り戻すような作品」と言っていいのかもしれない。少なくとも当時を知る中高年層にとって響く作品に見える。 「Snow Man」ラウール”ハマリ役”で演技不安を一蹴!フジ木10『愛の、がっこう。』が”共感”を掴んだワケ

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