職員を怒鳴りまくる「トリカブト殺人・主犯」 食事に出たウナギに歓喜した「元連合赤軍メンバー」 凶悪死刑囚たちの知られざる「獄中生活」 身の回りの世話をした元受刑者が証言

 先の6月、座間9人殺害事件・白石隆浩死刑囚の極刑が執行された。死刑の執行は2年11カ月ぶり。法務省が死刑執行の事実と人数の公表を始めた1998年以来、最長の空白期間である。これほど長きに亘って執行がなかったのは、やはり袴田巌さんの再審無罪確定の影響が少なくないだろう。内閣府が行った世論調査でも、死刑制度を廃止すべきだと答えた割合は約17%。5年前の9%から急増している。 【写真】獄中でも「問題児」と言われる著名凶悪死刑囚とは  死刑が確定してから刑が執行されるまでの期間は、刑事訴訟法で半年以内と定められている。一方で、執行までの平均期間は、2015〜2024年に執行が行われた者の場合で9年超。制度が厳格に運用されていないとの批判の声も根強い。 死刑囚たちが生活する東京拘置所  また、ここ数年は、死刑囚が拘置所内での処遇改善を求める動きも相次いでいる。大牟田4人連続殺人事件の死刑囚が養親との文通を許可されなかったことを巡り、国を提訴した訴訟では6月、高裁で原告の請求が却下された。詐欺グループのリンチ死亡事件(4人死亡)の死刑囚が、拘置所で監視カメラのある居室内に収容され続けたとしてプライバシー侵害を訴え、国を提訴した訴訟では、昨年10月、地裁で国に賠償命令が下されている。  果たして、死刑囚を巡る国の処遇は適正なのか——。それを判断するヒントとなるのが、死刑囚の拘置所での生活の実態を知ることだ。死刑囚が拘置所内でどのように暮らし、何を考えて日々を過ごしているかは、厚い壁に阻まれ、表に出てくることはほとんどないが、「週刊新潮」では2013年、東京拘置所で死刑囚らの身の回りの世話をしてきた「衛生夫」にインタビュー。その秘められた実態を明らかにしている。当時の記事を再録し、死刑囚の待遇について思考を巡らす一助としてみよう。 【前後編の前編】 (「週刊新潮」2013年2月7日号記事を一部修正の上、再録しました。文中の年齢、役職等は当時のものです)  *** 死刑囚フロア 「世間では、死刑囚は独居房の中で膝を抱え、死の恐怖に怯えながら、毎日、改悛の日々を送っている——そんなイメージを持っている人もいるかと思います。しかし、私が実際に見た死刑囚の姿とはかなりギャップがありました。その実態を明らかにすることで、死刑という制度を論じる際の材料にしていただければ、と考えたのです」  こう語るのは、30代の男性。ある事件で逮捕され、実刑判決を受けて東京拘置所で数年間、衛生夫として服役し、最近、出所した。 「判決が確定して受刑者は皆、まず拘置所で1ヵ月ほど拘置されます。その間、各刑務所に振り分けられるのを待ちます。私の場合は、刑務所ではなく、“当所執行”を勧められました。当所執行とはそのまま拘置所で仕事をしながら服役することです」(元衛生夫、以下同)  東京拘置所は東京・葛飾区小菅にある東京ドーム4個分の広大な敷地を持つ日本最大の拘置所である。通称“小菅”。中央に筒状の事務棟があり、それを囲むように放射状に未決囚や当所執行の服役囚、死刑囚が収監されているA、B、C、Dの4棟が立つ。それぞれの建物は事務棟とコンコースで結ばれている。 「私が命じられたのは、4棟の一つの上部階のフロアでの衛生夫の仕事でした。衛生夫の作業は、まず、朝昼晩の食事の配膳。それと担当フロアの掃除です。私の担当したフロアは両側に33房ずつ、計66の独居房がありました。房にはひとつおきに入房者がいましたが、そのほとんどは死刑確定者か、一、二審で死刑判決を受けた人たちの“死刑囚フロア”でした。東京拘置所には70人の死刑囚がいます(=当時)。その半数弱がいたことになります」 「あの映画はどう?」  衛生夫は普段は別のフロアにある房に収監され、朝、死刑囚のいるフロアに“通勤”する。 「死刑囚の起床時間は7時。7時15分に各房の点検があり、7時半から朝食です。食事は食器孔という開閉式の蓋のある小さな窓から差し入れます。8時から運動、入浴、“願い事”と続きます。願い事とは、死刑囚が購入したいものを“願箋”という用紙に書いて出すことです。月曜日が本と牛乳券、火曜日と金曜日は食料品、水曜日は日用品と曜日によって決まっている。昼食は11時40分。夕食はかなり早く午後3時50分です」  1日に2回、NHKのラジオニュースが流される。 「昼12時10分から15分の間に朝のニュースを録音したもの、夕方6時50分からは昼のニュースが流されます。2010年8月、当時の千葉景子法務大臣が命じて拘置所内の刑場(絞首刑が行われる場所)が公開されましたが、そうした死刑囚に知らせたくないニュースは流さないようにしています。午後5時から9時まではFMの音楽番組が房内で聴けるようになっている。担当官は15分置きに各房を巡回していますが、皆、寂しい死刑囚なので、担当官と話したがり、巡回中、1、2時間はザラ、時には3、4時間も引き止められて“あの映画はどう?”とか話しかけられる例もありました」 恋人の死  クリント・イーストウッドの映画について、担当官を捕まえて延々と話していたのは、連合赤軍事件の坂口弘(66=当時)。坂口は、同志リンチ殺人事件(死者12名)とあさま山荘事件(死者3名)で1972年に逮捕。1993年に死刑が確定した。獄中から短歌を発表して話題になった。『あさま山荘1972』などの著作もある。 「若くして逮捕され、ずっと拘置所にいるせいでしょうか、年齢の割には少年みたいな精神年齢の低さを感じました。拘置所では節分には豆、雛祭りにはちらし寿司、土用の丑の日には鰻、中秋の名月には団子といった特別メニューがでることがありますが、彼に配膳すると、“やったあ、今日、お団子なんだ!”とか“今日、鰻なんだ、嬉しいなあ!”などと子供のように喜ぶんです」  そんな坂口死刑囚だが、2011年2月に連合赤軍の同志で、やはり死刑囚の永田洋子が獄死した時は相当なショックを受けた様子だったという。 「かつての恋人の死は衝撃だったようで、3日間も食事を摂りませんでした。まるで病人みたいで、担当官も衛生夫も皆、驚いていました。彼は何冊も本を出しているので、お金持ちです。確定申告をしていて、“今年は税金が高かった”と話していたこともありました。毎日、所内では読売新聞が1フロアにつき6部配られて死刑囚が回し読みするのですが、坂口は“読売は国寄りだ。俺は絶対に読まない”と言って朝日新聞を自費で購読していました」 時間稼ぎ  連合赤軍事件は70年代の日本を震撼させたが、90年代の世に衝撃を与えたのはオウム真理教の起こした一連の事件だった。東京拘置所にはオウム事件に関係した死刑囚が13人もいた(当時)。男性の担当したフロアにも収監されていたが、その一人が地下鉄サリン事件の実行役で、元教団幹部の豊田亨(45=当時)である。 「2012年6月、逃亡していたオウム事件の容疑者・高橋克也が逮捕された時、警察が彼の所に来て事情を聞いていました。高橋は豊田がサリンを撒いた時の運転手役だと聞きました。豊田自身は東大理学部卒らしく、親から送ってもらった数学の専門誌の問題を熱心に解いていました。周囲にはほとんど無関心で、いかにも知識人らしい匂いのする死刑囚です」  同じフロアにはやはりオウム元幹部の岡崎一明(52=当時)もいた。坂本堤弁護士一家殺害事件の実行犯として死刑判決を受けているが、 「大震災の原発事故があってから、放射能をとても気にしていた。特別購入で買った生鮮食料品に放射性物質が含まれているかどうかが心配で、“このリンゴはどこから来たんだ? これは大丈夫か?”と担当官に産地を聞きまくっていました。生への執着が強い人だと思いました。彼は再審請求をしていますが、請求には提出書類が3つ必要。彼はそれをわざと1通ずつ出す。そうすると裁判所から、“書類が足りません。いつまでに提出してください”と通知が来る。それを無視していると、もう少し強い調子で催促する通知が来ます。それでも無視すると、今度は“このまま出さないと請求を取り消します”という強い勧告がくる。そこで、彼はようやく2通目の書類を提出するのです。彼は申請だけで1年以上はかけていたと思います」  再審請求中は死刑執行が行われないことは暗黙のルール。執行を一日でも遅らせようと、時間稼ぎをしていたというわけだ。 職員が委縮  同じく再審請求をしているのは、埼玉保険金殺人事件で死刑が確定した八木茂死刑囚(63=当時)である。トリカブトを使い、2人を殺害したとして逮捕された。 「八木は自分が無罪になると信じていて、カレンダーに自分が何日拘置されているかを記録しています。出所した時の賠償金を計算していたのです。しかし、八木という人は怒りっぽい。ちょっとしたことでも担当官や衛生夫を怒鳴ります。拘置所では月に2回ほど、死刑囚が房に何か隠し持っていないかを検査します。“捜検”と呼ばれていて、30代ぐらいの若い職員が4、5名で回るのですが、ある時彼の機嫌が悪く、“お前、足が臭いだろう! 出ていけ”と怒鳴って房に入れなかったことがありました。その場を目撃しましたが、若い職員は萎縮して“あ、すいません”と言ってロクに検査をせず、“八木のところには行きたくない”とぼやいてましたね。彼は配られた新聞を房の中に入れたままで半日も返さなかったりするなど、扱いに大変苦慮する死刑囚でした」  ***  記事から12年が過ぎ、記事中の豊田、岡崎は2018年7月に死刑が執行された。坂口、八木は未執行で、今でも拘置所で暮らしている。 【後編】では、執行が行われた日の死刑囚たちの様子や、拘置所内で「問題児」と言われる他の著名死刑囚たちの生活ぶりについて詳述する。 デイリー新潮編集部

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