20年以上のメジャー取材歴を誇るビル・プランケット記者に聞く 太平洋を渡り、メジャーを主戦場として8シーズン目。ドジャース・大谷翔平投手は観る者すべてを驚かせるようなパフォーマンスを続けている。今季から“二刀流”として復活したスーパースターの活躍を間近で見る1人が、地元紙「オレンジカウンティ・レジスター」でドジャース番を務めるビル・プランケット記者だ。20年以上のメジャー取材歴を誇るプランケット氏は、大谷を「唯一無二。スポーツライター魂をくすぐられる」存在として高く評価する。その心は……? 昨年末に発売された「SHOーTIME 3.0 大谷翔平 新天地でつかんだワールドシリーズ初制覇」(徳間書店)の著者でもあるプランケット氏。同僚でエンゼルス番のジェフ・フレッチャー記者から紹介を受け、大谷のドジャース移籍決定後まもなく、出版の話は決まっていたという。 「ドジャース1年目はきっと興味深いストーリーになるはずだと意見が一致して、本を出すことになったんだけど、当時はまさか、あそこまで盛りだくさんなシーズンになるとは夢にも思わなかった。おそらくプロスポーツ史上最もユニークなFAを経験した後、春には水原一平元通訳のスキャンダル。かと思ったら50-50を達成し、さらにはワールドシリーズ優勝だ。もう何もかもがギュウギュウに詰め込まれていたから、本の題材は十分過ぎたよ」 事実は小説よりも奇なり、とは、まさにこのこと。プランケット氏も「あんなストーリー思いつきやしない」と呆れて笑うしかない様子だ。素材の多さに執筆は「大変だった」と苦笑いするが、同時に「ドジャースファン、大谷ファンには、2024年の思い出が詰まった本として格好の記念品になるはず」と出来上がった内容には大きな自負を持っている。 スーパースター大谷は「スポーツライター魂をくすぐられる」 大谷という存在には、百戦錬磨の経験豊かな記者でも「スポーツライター魂をくすぐられる」と声を弾ませる。大谷がエンゼルスで過ごした6年は、その活躍を知るのは主にニュースのハイライト映像を通じて。実際目にするのは、年に数試合のエンゼルス-ドジャース戦の時だけだった。だが、今こうやって番記者として日々の姿を見続けていると、改めて野球選手として「唯一無二の存在」であることを実感するという。 「おそらくチームで一番の俊足だし、気が付けば時速102マイルで投げ、ぶれずに一貫して強烈な打球を放つ。素晴らしいことだけど、ハイライトで見ていると有り難みが薄れてしまう。でも、毎日彼を取材していると、素晴らしい才能の全てを目にすることができる事実に感謝するようになるんだ」 世界のトップが集まるメジャーで「100年に1人の逸材」と称され、1914?1925年に活躍したベーブ・ルースが引き合いに出される。言わずもがなの“レジェンド”だが、プランケット氏は「ルースの時代と今では、野球というスポーツの性質がまったく変わっている。現実を見ると、大谷はルースよりはるかに良い投手だし、大谷の方が投手としての活動期間が長い」と大谷に軍配を上げる。 二刀流実現の難しさは、客観的な事実からも読み取れる。2020年に「二刀流選手」登録が始まったが、過去2シーズン、もしくは現行シーズンで「投手として20イニング以上登板」かつ「打者として3打席以上の出場が20試合以上」という条件をクリアしたのは、ここまで大谷ただ1人。他球団でも若手有望株らが二刀流に挑戦する流れが生まれたが、「まだマイナーでも成功事例は聞いたことがない。各チームに二刀流選手が存在する状況はやってこないと思う」とプランケット氏は首を振る。 ゴームズGMも指摘する大谷が変えうるルールとは… 振り返れば、大谷がエンゼルス入りする2018年まで、メジャーで「二刀流(2way player)」がトピックに上がることはなかった。しかし、大谷は二刀流否定論を覆したばかりか、一気にスーパースターの仲間入り。「たった1人の選手が世論を変えた。彼の能力は非常にユニーク。他の誰かでは持ち得ない特別なもの」とプランケット氏は言う。 そのユニークな才能は、野球の歴史やルールまで変えた。プランケット氏は最近、ドジャースのブランドン・ゴームズGMと「今後、大谷が変え得るルール」について話したという。二刀流出場について、現行ルールでは先発投手として降板後もDHでの出場は続けられるとしている。 「現行ルールでは、DHとして出場する選手が救援としてマウンドに上がれるとは明記されていないんだ。ゴームズGMは『それも明記してもらえるようMLB機構に嘆願しないと』と笑っていたよ。ショウヘイが変えられるルールはまだ残っているって(笑)。前回のWBCを思い出してほしい。ドジャースは試合終盤の武器の一つとして、ああいう(救援)起用は考慮に入れておきたいはずだ」 熟練の番記者も、そして所属チームのGMも、日本から世界のスーパースターとなった大谷がまた何か大きなことをやってのけるのではないかと期待している。(佐藤直子 / Naoko Sato)