前編記事『中国人が「キンチョウ」を爆買いする日…注目集まる「日本製防虫剤」と「大洪水」の危うい関係』で見てきたように、チクングニア熱の感染拡大により中国の若者たちを苦しめてきたコロナ・パンデミックもさながらの防疫措置が広東省で再び実施される恐れがある。苦境に立たされる中国の若者たちは何に頼っているのか。 中国で広まる懐古主義 中国ではこのところ、SNS上で将来への期待がしぼむ若者を中心に、20年前の高度成長期のファッションや文化を懐古する内容の投稿が急増している。専門家は「経済が繁栄していた時期を懐古することを通じて、社会に対する間接的な批判を行っている」と分析している(8月1日付ロイター)。 急激に学歴社会となった中国だが、学費が急上昇しているのにもかかわらず、大学の卒業証書の価値は下がるばかりだ。 中国の若者の間で数年前、就職をあきらめ何もせずに横になって暮らす「寝そべり」というライフスタイルが流行したが、今年に入ると、「みじめさに耐える」という生き方が主流になったという。寝そべりを維持する経済的な余裕がなくなったため、低賃金と劣悪な勤務環境を甘受せざるを得なくなったからだ。 借金に苦しむ人生の惨状を訴える「債務インフルエンサー」も人気だ。 ストレス社会で起こっていること 若者が抱えるストレスも激しいようだ。女性が猫カフェで子猫を虐待したり、信号待ちの長さに苛立った男性が歩行者用信号灯を壊したりする、といった事案が相次いでいる。 ストレスを解消するための玩具市場も急成長を遂げている。中でもブームになっているのが「大人用のおしゃぶり」だ。「仕事のストレスが大きい時におしゃぶりをくわえると、赤ちゃんだった頃の安心感が得られる」というのが人気の理由だ。 若者の苦境の根本的な原因に「巻」という字で表現される激しい競争があることは言うまでもない。働き口を提供する企業が過当競争に巻き込まれ、雇用市場が一気に冷え込んだ。 中国の若者は絶望している 中国政府が主導してきた電気自動車(EV)などの先進製造業の骨身を削るような「仁義なき戦い」は周知の事実だ。世界市場を席巻する太陽光パネル業界では昨年、全従業員の3分の1にあたる8万7000人ものリストラが断行されたほどだ。 政府は過当競争を抑制するための介入を始めたものの、遅きに失した感は否めない。市場では「政府の計画では製造業をデフレスパイラルから脱出させることはできない」との諦めが広がり始めている。 有効な政策を講じることができない中国政府は、「不都合な真実」を隠蔽するしか手段がない。「デフレ」という用語を使うことを頑なに拒否しているし、急落している不動産価格の実態を政府の統計はほとんど反映していない。 政府のこのような姿勢を見るにつけ、若者が将来を絶望するのは無理もないだろう。 高まる中国政府への怒り 中国政府はお得意の「締め付け」で難局を乗り切ろうとしていることも問題だ。 中国では7月中旬から、インターネット上での身分が証明できる「国家ネットワーク身分認証公共サービス」が開始された。目的が言論統制の強化であることは言うまでもない。 気がかりなのは、中国で悪質な襲撃事件に対する情報統制が強まり、人々から不満の声が上がっているとの指摘が出ていることだ(7月30日付RecordChina)。記事が取り上げたのは6月末に北京郊外の小学校付近で子供が車にはねられた時の対応だ。 警察発表は「35歳の男性が不適切な運転で歩行者とぶつかった」という内容のみで、被害者への言及はなかったため、SNS上では「我々は真相を知ることが必要だ」との非難が集中した。 だが、臭い物に蓋をしても、国民の政府に対する不満は収まることはない。 中国社会の現状を正確に把握するのは困難だが、若者を中心に政府への怒りが日増しに高まっているのは間違いないのではないだろう。 著者のこちらの記事も併せて読む『中国「地下鉄網」が次々と赤字転落していた…!インフラ企業の低迷が映し出す「中国バブル崩壊」のヤバすぎる実態』 【あわせて読む】中国「地下鉄網」が次々と赤字転落していた…!インフラ企業の低迷が映し出す「中国バブル崩壊」のヤバすぎる実態