今年の「夏の甲子園」はドラフト候補が“大不作” 「7回制」が導入されれば、“聖地”からスカウト陣が消える可能性も

 夏の甲子園で歴代最速タイの155キロを叩き出した“高速右腕”が早くも初戦で姿を消してしまった——。健大高崎(群馬)のエース、石垣元気は8月13日、昨年の覇者、京都国際戦で7回からマウンドに上がり、2回を無失点と好投を見せるも、チームは3対6で敗れた。【西尾典文/野球ライター】 【写真】歴代最速タイを叩き出した“高速右腕”石垣元気投手のしなやかな投球フォーム 早瀬はプロ志望を明言  視察に訪れたセ・リーグ球団のスカウトは、石垣のポテンシャルについて、以下のように語っている。 「今年の高校生のピッチャーでは、頭一つ抜けています。(身長180cm、体重78kgと)体が大きいわけでもなく、そこまで目いっぱい投げているように見えないのに、150キロ台のスピードボールが投げられる。ただ、スピードの割に、相手打者にとらえられるシーンがある点は気になるところですが、以前に比べて、変化球も良くなっています。もう少し長いイニングを投げるのを見たかったですが……。これだけのボールを投げられる高校生は滅多に出てこないですし、今後も成長が期待できます」 スカウトが甲子園から消える?  石垣は、今春の選抜の前に左わき腹を痛めている。健大高崎には他にも実力がある投手が揃っていたため、夏の群馬大会を含めても3試合全てがリリーフ登板で、9イニングしか投げなかった。にもかかわらず、石垣の潜在能力を高く評価する球団は多く、“ドラ1候補”の地位を固めつつある。  そして、もう一人。49の代表校で最後に登場した神村学園(鹿児島)のエース、早瀬朔を評価するスカウトが多かった。13日の創成館(長崎)に0対1で敗れたとはいえ、7回を投げて10安打を浴びながら、1失点と粘り強いピッチングを披露。ストレートの最速は148キロに達した。 「夏の鹿児島大会ではあまり良くないと聞いていましたが、創成館戦を見る限り、全く悪くないですね。左足が高く上がって、体も柔らかそうですし、腕もよく振れています。スライダーは少しばらつきがありますが、良い時のボールはスピードも変化も素晴らしいですね。(身長185�、体重78�と)体が細い分、これらも伸び余地がある。早瀬が石垣の次に良く見えました」(パ・リーグ球団スカウト)  早瀬は、試合後の取材で高校卒業後の進路について聞かれると、プロ志望を明言した。今秋のドラフトでは、支配下で指名される可能性は十分あるだろう。 プロのスカウトの姿が消える?  しかしながら、上記の二人を除けば、スカウト陣からあまり高く評価する選手は出てこなかった。  大会前にスカウト陣の注目を集めていた未来富山の左腕、江藤蓮は、初戦の山口代表・高川学園戦で5回1/3、8失点と炎上し、負け投手になった。試合後、「プロ一本」で考えていた進路を考え直すと語っている。  そもそも、今大会は「ドラフト対象選手が極めて少ない」と言われていた。 甲子園のスカウト席にも、空席が目立ち、大人数が集結していた日は数えるほどだった。ベテランスカウトが嘆く。 「長年スカウトをしていて最も少ないですね。49の代表校のうち、対象になる選手がいるチームは7校しかありませんでした」  高卒でプロ入りを狙える選手でも、早々に大学進学や社会人入りを決めているケースが多かった。  8月14日にデイリー新潮で配信された寄稿記事「夏の甲子園に2年生の新スター候補が登場! 聖隷クリストファー・高部陸は“学業優秀” 有名大学とプロが獲得を巡り水面下で『情報戦』も」で触れたが、3年生の春の段階ですでにプロ志望か、否かを決めている選手が増加している。 「今年の3年生は特にプロ志望が少なく、2年生ばかりを見ています」と愚痴を溢すスカウトもいるほどだ。  それに加えて、スカウト陣が頭を痛めるような“事案”が持ち上がっている。それは、日本高野連が導入を検討する「7イニング制」である。前出のパ・リーグ球団のスカウトは、“危機感”を強めている。 「7イニング制が導入されると、当然、選手の出場機会は減りますよね。継投策となれば、一人の投手が1試合に投げるイニングは、3回や4回程度になりかねません。そんな野球しか経験していない高校生が、格段にレベルが上がるプロの世界で、9イニング制で試合を行うことになる。一気にハードルが高くなりますよね。そうであれば、大学野球や社会人野球で9イニング制に慣れてから、プロ入りを目指す……これが主流になる可能性は高くなるでしょう。選手の健康面などを考えると、7イニング制にはメリットがあるかもしれませんが、高校生には、大学野球や社会人野球でやることがないほど、レベルが高い選手も一定数います。こうした選手は、早い段階で練習環境が整ったプロの方が飛躍的に成長します。7イニング制が巡り巡って、こうした成長の機会を奪ってしまう可能性はありますよ」  ドラフト候補の減少が、今年だけの一過性の問題ではなく、今後も続いていく可能性を孕んでいる。甲子園のスタンドからプロのスカウトの姿が消えてしまう——。近い将来、そんな日が訪れるのかもしれない。 西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。 デイリー新潮編集部

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